連載
#10 特別じゃない日
風呂場から飛び出してきたお父さん スマホを手にして戻った先には…
「特別じゃない日」をテーマにした単行本が発売された漫画家・稲空穂さん。ツイッターで発表して注目を集めた漫画「おてがみ」に込めた思いを聞きました。
仕事で疲れて、夜遅くに帰宅したお父さん。
子どもたちは遊び疲れたのか、寝室でぐっすりと眠っています。
妻が夕食の支度をしてくれている間、シャワーを浴びることに。
しばらくすると、ぬれた体のまま風呂場から出てきました。
「何その格好? 廊下ビチャビチャじゃん!」と怒る妻。
すると「ちょっと待って。スマホ……カメラ……消えちゃうから!」と言って、スマホを手に風呂場に戻ります。
風呂場のくもった鏡には、子どもたちが指で描いた絵が。
そして「おとうさん だいすき」の文字がありました。
子どものころ、お風呂に入るたびに曇った鏡に絵を描くのが好きで、よく描いていました。
そういう絵に限ってうまく描けてしまって、すぐ消えてしまう鏡の絵を背に、名残惜しくお風呂をあとにすることが多かったです。
学校の黒板に友達と描いた絵、海辺の砂浜で作ったお城、母の作ってくれたかわいらしい女の子の顔をしたお弁当のおにぎり。
どれも取っておきたいものばかりでした。
忘れてしまった作品もたくさんある中で、できるかぎりどんな思い出も手元に置いておきたい、と思い返しながら描いた作品です。
◇
〈稲空穂=いな・そらほ〉 静岡県出身・在住の漫画家。会社員を経て2017年に「おとぎ話バトルロワイヤル」(KADOKAWA)でデビューし、「特別じゃない日」で日常をテーマにした作品に挑戦中。老夫婦や女子高校生、主婦、バイトの青年……それぞれの小さな幸せがつながっていく物語を描いていて、実業之日本社から第1集が書籍化されています。Twitterアカウントは@ina_nanana
withnewsでは原則隔週水曜日に、稲さんの漫画とともに作品に込めたメッセージについてのコラムを配信しています。
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