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IT・科学

グーグル新機能「医療情報パネル」とは 踏み込んだ検索最大手の課題

スマホ上のGoogleアプリのロゴ=ロイター
スマホ上のGoogleアプリのロゴ=ロイター

目次

検索サービス最大手のGoogleは4月26日、医療分野の日本語の検索結果に「医療情報パネル」を表示することを発表しました。「喘息」「インフルエンザ」「貧血」などの一般的な疾患について検索すると、検索結果の上部に疾患の概要、症状、治療法が表示されます。

膨大な表示回数が見込まれ、「日本最大級の医療情報サイトが誕生することになる」と専門家。日本において「ネットの医療情報」は厳しい目が向く分野であり、新しい課題も指摘されました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
 
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病名の検索結果に大きな変化

4月26日、検索サービスGoogleで「インフルエンザ」と検索した結果が、これまでと大きく変わりました。目立つ場所に整理された病気についての説明が表示されるようになったのです。

これは同サービスを運営するグーグル社が制作した「医療情報パネル」。他にも多数の病気の検索結果について、同様の情報が表示されます。

医療情報の優先表示の導入は、2015年2月から英語圏で先行。当時、グーグルはこの意義について「病気の一般的な状態について利用者が学ぶことによって、健康に関する選択において利用者の助けになることを望みます」と発表していました。

以降、世界的に医療情報の優先表示を展開する予定であるとし、2016年にはインド、2017年にはアフリカでも導入されました。

日本でも「ジカ熱」という特定の病名について表示されたことが2016年頃から話題になっていましたが、本格的な導入は実現していませんでした。

検索エンジンの専門家・辻正浩さんはこの理由を「日本における特異的な経緯を踏まえると、他国よりも進めづらい状況があったのでは」と分析します。

特異的な経緯とは、2016年末にかけて社会問題となった健康情報サイト『WELQ』についての騒動を端緒に、国内でネットの医療情報について厳しい目が向いてきたことです。

“一歩”踏み込んだグーグル

『WELQ』を運営していたのは1部上場企業のDeNA社。組織的に短期間で大量の医療記事を制作する手法で医療についての検索結果を占領し、収益化していました。

しかし、記事内容に不正確な点が多いこと、一部に文章や写真の盗用があったことから、ネット上で批判が集中。『WELQ』は同年11月に閉鎖され、12月にはDeNA経営陣が謝罪会見を開催するまでになりました。以降も同様の手法で運営するサイトが後を絶たず、自浄作用を望む声はネットで高まっていました。

これに応える形で、グーグルは2017年12月に検索結果の表示ルールを変更しました。従来、同社は公平性を重視し、なるべく人の手を介さずに検索順位を決定していました。サイトは「アルゴリズム」と呼ばれる特定のルールに基づき自動的に評価され、「質が高い」と判定されたものが上位に表示されていました。

しかし、日本において、医療分野についてはこの方針を変更。医療従事者や専門家、医療機関等から提供される情報が上位に表示されやすくする、異例の対応をしていたのです。

今回の対応は、そこからさらに踏み込んだ形になります。というのも、この「医療情報パネル」の情報が、特定の医療メディアを運営する企業により提供されるからです。

「医療情報パネル」の情報は、国内で医療メディア「Medical Note」などの医療・ヘルスケアサービスを運営するメディカルノート社から提供されるもので、Googleは「医師の監修を受けた信頼性の高い情報となります」としています。

また、表示される疾患の情報には、「より詳細な情報が確認できる医療情報サイト、Medical Note のリンクも含まれます」とします。

検索サービスのようにネット上に無数にある情報を整理して提供する事業者はあくまで「場を貸す」プラットフォームであり、個別の情報については直接、責任を問われにくい立場にありました。

今回、特定の医療メディアの情報を優先的に表示する以上、Googleはプラットフォームという立場からもう一歩、踏み込んだとも言えます。

ネット上の医療情報への信頼性が揺らいでいる現れともいえる今回の決断。同様に、ヤフー社が運営するYahoo!検索においては、Googleに先行する形で、医療に関してメディカルノート社の提供する情報が優先的に表示されるようになっています。

新機能について、Googleは「日々、多くの人々が自分や家族の医療に関する情報を得るために検索を活用しています」とした上で、「Googleは、医療のような大切な分野において、質が高く信頼性の高い情報源にユーザーができる限り早くアクセスできるようにすることを目指しています」とします。

公平中立なプラットフォームという立場から、特定の外部パートナーを「信頼性の高い情報源」として判断するようになるのは、異例のことでもあります。辻さんは「医療情報パネルの品質に問題があった場合、影響は非常に大きい」と指摘します。

一方で今回、Googleは「新機能は、人々が医療に関する情報を得やすくするためのものですが、医学的なアドバイスではありません」「健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関にご相談ください」とも説明。

あくまでも「疾患や症状に関する医療情報を探す上での出発点」としての利用を促しています。

「新たな課題もある」と専門家

辻さんは「海外、特に米国では、ここ数年でも医療領域のGoogle検索での情報提示は更に拡大しています」「米国で医療機関を探す上で、Googleが大きな役割を果たすようになってくるなどの動きがあります」と世界的なグーグルの対応を説明します。

「しかし日本の検索においては、海外での進化と比べると止まっている印象がありました。その中で日本向けの新機能は、実際に質の高い情報が提供されるのならば、喜ばしいことではないでしょうか」

ここ数年で、世界的に情報の信頼性を重視する流れは強まっている、と辻さんは指摘します。

直近でも、「気象変動」という検索キーワードに対して、Googleでは国連が制作したコンテンツが表示されるようになりました。気象変動関連は、誤った情報がネットに多いとして、広告の除外など、これまでにさまざまな取り組みが行われています。

このようにセンシティブな情報に対して、Googleが「質が高い」と判断したコンテンツを固定で表示する動きは、「一定の理解ができる取り組み」(辻さん)。

「その結果、例えばアルゴリズム変更で『患者の闘病記』などが上位に表示されにくくなるなど、検索結果の多様性が失われた問題はありますが、ネット上の情報の信頼性が重視される中で仕方がない部分があります。

必ずしもウェブ全体からの多様性のある情報を検索結果に出せない状態に対して、十分に品質が担保されたコンテンツが別枠で出る、ということは、利用者観点では望ましいことでしょう」

ただし、ネット全体を見渡すと、懸念点もあります。「この枠が閲覧される量を考えると『日本最大級の医療情報サイト』が現れたと言える」(辻さん)からです。

一つは、前述したように、情報の品質に問題があった場合、その影響が非常に大きくなること。そしてもう一つは、健康・医療情報サイトへのアクセス減少です。

今回の展開により「医療情報パネル」が表示されるキーワードについては、Google以外のサイトへのアクセスは減少することになります。「質の高い情報を掲載する医療情報サイトは他にも存在します。今回の展開により、そのようなサイトのアクセスは減ることになります」と辻さん。

収益を目指して医療情報を展開しているサイトには大きなダメージになり、公益性を鑑みて情報提供を行っているサイトにとってもアクセス減少はその意義を問われるものです。

特に日本においては、政府機関からのネットの医療情報の提供が非常に限定的であることが、かねてから指摘されてきました。それをカバーするには民間のサイトの情報発信が必要ですが、今回の展開によりそれらの動きが更に萎縮したものになってしまう問題が起こり得ます。

ある問題に対応すれば、さらなる問題に行き当たるのが、ネットの歴史でもあります。そして、検索エンジンのようなネット上のサービスは、この繰り返しにより進化を続けてきました。

では今、必要なことは ――Googleに対しては「医療・健康領域において多様な団体から発信される価値ある情報を、切り捨てずに検索されるようにするための取り組みも、並行して進めていただきたいと強く思います」と辻さん。

そして、カギになるのが利用者による「サービスの監視と警告」です。自浄作用を望む声により、完ぺきではないものの、ネットの医療情報を取り巻く環境が改善されてきたのは、前述した通りです。ネットという便利なインフラがどこに向かうのか、それを決めるのは利用者一人ひとりの行動でもあります。

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