地元
パソナが淡路島に作った「巨大キティ施設」地元民の戸惑いと期待
「初めて島を訪問」キティファンの感想は?
瀬戸内海最大の島、兵庫県淡路島で変化が起きています。2020年に総合人材サービス会社「パソナグループ」が東京から本社を移す計画を発表し、島の資源を活かした地域活性化に取り組みはじめたのです。その一つが「HELLO KITTY SMILE」。ハローキティの二次元コンテンツを体感でき、音楽ショーを見ることができます。この施設、島に何をもたらしたのか……そして、生粋のキティファンがどう見ているのか? 淡路島で生まれ高校まで生活したライターの吉野舞が、街の様子をレポートします。
明石海峡大橋を渡り、「淡路IC」から車で10分ほどの場所にある、淡路市県道31号線沿いは、2年ほど前よりパソナグループを中心に、飲食店やエンターテインメント施設の開発が進み「淡路島西海岸」と呼ばれ、淡路島の新たな一大観光地となりました。
その中で一際目立っているのが、サンリオの全面監修のもと、2018年4月に誕生したパソナが運営しているエンターテインメント施設『HELLO KITTY SMILE(ハローキティスマイル)』。「大人こそ満喫できるハローキティの世界」をテーマに、プロジェクションマッピングなどが体験できます。
『HELLO KITTY SMILE』が出来たばかりの時は、地元住民の間でも話題になりました。なぜなら、その外観。県道沿いを車で走っていると、「何やら白い物体が海岸線から見えてくる.....」と不思議に思うと、巨大なキティちゃんの顔だったのです。
巨大なキティの中に入っていくと、一面メディアアートに囲まれ、海の生き物が元気に飛び回っています。施設内は、淡路島の海に隣接していることから、「海のハローキティ」がコンセプトとなっており、竜宮城の世界観で、「乙姫」の姿をしたキティがぬいぐるみや壁に描かれ、そこら中に現れます。
施設内は全部で8つのエリアで構成されており、一つのエリア内には350体のキティのぬいぐるみが敷き詰めて貼られています。室内が暗かったので、最初キティちゃんだと分からず怖くなり、悲鳴をあげてしまいました。
施設の方によると、キティのぬいぐるみを一面貼る作業は手作業で、とても大変だったとか......。本当に隙間がないほど、ビッシリ貼られています。
様々な仕掛けがある数々のエリアを抜けていくと、最後は「ハローキティのお部屋」に案内されました。乙姫のハローキティは時間によって、こちらの部屋に戻ってくるそうで、私が行った時はちょうど部屋にいるタイミングでした。キティがいない時は部屋でくつろいで待っていてもいいそうです。
淡路島でしか会えない乙姫。スーツアクターとして採用されたパソナの社員が、研修プログラムを経て演じているそう。企業一丸となってこの施設を支えていることが伝わります。
パソナグループは、島内にハローキティに関連した施設を2個作っています。『HELLO KITTY SMILE』に続き、2019年8月にハローキティのショーを楽しめる『HELLO KITTY SHOW BOX(ハローキティショーボックス)』をオープン。
こちら施設の屋根がハローキティの顔になっており、地上から見えない仕掛けになっています。Googleマップでその様子を見ることができ、田んぼの中心にハローキティの顔を見た時は風景のカオスさに思わず笑ってしまいます。
『HELLO KITTY SHOW BOX』は、パソナが2016年4月より行っている、全国より若手音楽家を募集し、音楽の力で島の地方創生に取り組む活動「音楽島」のメンバーが演奏しています。「音楽島」のメンバーは20代前半の若者を中心に、総勢約30名が島内に住みながら、演奏以外の時間はサービスの仕事などに携わっているそうです。
公演は1日3公演あり、昼からのメインの公演はヴィーガン料理付きで、大人が6380円(税込)。この日、私が見たのはカフェ営業中に見える30分ほどのミニライブ。施設内でお茶をしながら、ショーを見ることが出来るプランです。
ショーが始まると、前面にある巨大LEDスクリーンで、キティちゃんが見事な手さばきでピアノを弾き始めました。キティちゃんがこんなにもピアノが得意だったとは意外です。
ショーを見ていると、注文した「ハローキティケーキ」が出てきました。メニューは全て肉、魚、卵などの動物性食品を使用しておらず、穀物や豆などを使用している「ヴィーガン料理」です。
ヴィーガンのケーキは甘すぎず、通常の卵を使っているケーキとそれほど大きな味の違いは感じられませんでした。
ショーでは女性2人組による楽器の演奏が終わると、主役のキティちゃんがダンスをしながら出てきました。ノリノリで歌い踊る姿はアイドル顔負けで、なんとトランペットを吹く場面も。ショーはシーズンごとに変わり、以前は「七福神」をモチーフにしたオリジナルショーもあったとか。
淡路島でしか見れないハローキティは歌って踊って、個人的に今まで感じていた「おしとやかなハローキティ像」を打ち砕いてくれました。
ハローキティの大ファンの方は「淡路島×ハローキティ」のコラボについてどう思っているのでしょうか? 私設ファンサイト「キティちゃんファンクラブ」を、約20年間運営している管理人の神田朝子さんに話を聞いてみました。
――なぜ体験しにいこうと思ったのですか?
もちろん、キティちゃんがいるからです。オリジナルグッズとそこでしか見れないキティちゃんのショーがあるので、すでに4回ほど淡路島を訪れています。
――正直、淡路島のことって知っていましたか……?
知ってはいたんですけど、訪れたことはなかったです。今まで東京都多摩市にある「サンリオピューロランド」や大阪の「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」などでしかキティちゃんに会える機会がなかったので、まさか「淡路島」でキティちゃんに会えるなんて本当に驚きました。
――行く前に想像していたものと実際、行ってみて体験したものとの違いはありましたか?
キティちゃんとの挨拶「グリーティング」が想像以上にたくさん出来ることです。淡路島の施設では、朝から晩までキティちゃんがいてくれてるので、ゆっくりと触れ合うことが出来るんですよ。
レストランでお誕生日のお祝いもしてくれるのも、ショーの演目でキティちゃんがJ-POPの曲を歌うのもとても貴重です。
――特に驚いたことは何ですか?
キティちゃんが一番得意なのはピアノなんですけど、ショーの最中にトランペットを吹く姿を初めて見ました。それがすごく上手で、キティちゃんに「トランペットどうしたの?」って聞くと、「音を出すのが大変で、一生懸命練習した〜!」と言っていて(笑)
――キティファン的に気になったところ、あえて挙げるとすればどんなところですか?
オリジナルのグッズがもっと増えたらいいのと、「ハローキティショーボックス」の料理の値段がちょっと高めな設定なので、もう少しお手頃な値段でショーを楽しめればいいのにって思います。
――おすすめのものは何ですか?
淡路島だけの「乙姫キティちゃん」のグッズです。あと、「ハローキティショーボックス」の料理に「キティティちゃんの形をした人参」が入っていたのも可愛かったです。
「ハローキティスマイル」と「ハローキティショーボックス」のふたつとも建物に、「キティ」の名前が付いているのは珍しいので、どちらの建物もおすすめです。
――ぶっちゃけ、淡路島にキティとかちょっと強引だと思いませんか?
デザイナーの地元ではないし、「なんで淡路島に作ったんだろう?」って正直、不思議に感じていましたね。「ハローキティショーボックス」の方は、畑からいきなり施設に入るので、キティちゃんも畑の中のどこで待機しているんだろうって思いました(笑)
でも、淡路島以外にも、大分にはサンリオキャラクターパーク「ハーモニーランド」があり、北海道の新千歳空港「ハローキティ ハッピーフライト」には「フライトアテンダントキティ」がいるんです。他の地域でも似たような事例があったりするので、町おこしとキティちゃんは相性がいいのかなって思います。
――淡路島の印象は?
去年の冬に訪れた際、「明石海峡大橋が強風で通行止めになるかもしれない」となり、私は淡路島に泊まる予定だったので影響はなかったのですが、安全のために本州に住んでいるスタッフの方は先に帰られてしまったんです。そんな中、淡路島在住のスタッフの方は嵐の中、最後まで見送ってくれて、「淡路島の人って親切だなあ」って思いました。
初めて淡路島を訪れた時は島周辺を少し観光したんですけど、2回目以降からはキティちゃんの施設だけを訪れています。キティちゃんがいなかったら、淡路島に来ることもなかったと思いますね。
――これからキティちゃんが淡路島でどうなってほしいと思いますか?
地元の人の色々な声もあると思いますが、キティちゃんが街を救うのならファンとして誇れることなので、やるなら島の公式キャラクターになるくらいとことん淡路島でやってほしいです。
ファンは日本全国どんなに遠くても、行って損をすることはないので、これからもイベントごとに淡路島に遊びに行けたらと思っています。もし施設がなくなっても、キティちゃんを模した建物はなんとか残していってほしいです。
ハローキティの関連施設があるのは、地元住民もよく利用している海沿いの一般道路の通り道です。正直、誕生から4年経った今でも、突然現れるキティちゃんの世界を目の当たりにすると少し戸惑います。
今回、取材をきっかけに、初めて施設を体験しました。すると、どうでしょう。乙姫キティや、地元に根を張った音楽家が出演するショーを普通に楽しんでいる自分がいました。
同時に、やはり「これって島に必要だろうか?」と言った気持ちは完全には消えませんでした。
「キティちゃんファンクラブ」の神田さんのお話しで印象的だったのは、「キティちゃんがいなかったら、淡路島に来ることもなかった」という言葉です。
今まで、淡路島に訪れる機会がなかった人たちにとって、「ハローキティ」の存在が媒介になっている。そこまで影響力の大きいキティちゃん。そのキャラクターの力で地方を盛り上げてくれる可能性を感じた瞬間でした。
巨大オブジェや、キティちゃんで埋め尽くされた壁など、ちょっと驚く演出も、島ならではの魅力を発信しているともいえます。せっかくできた施設。海と山に囲まれた淡路島の街に馴染むように、地元の人々が気軽に利用できる場所になっていって欲しいと思います。
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