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大学生「住民票移さない」問題 投票率アップのハードルに!?

半数以上が実家に…理由は「成人式」「戻るから」

進学や就職で引っ越す人に住民票を移すよう呼びかける総務省のチラシ
進学や就職で引っ越す人に住民票を移すよう呼びかける総務省のチラシ

目次

10月にあった衆院選の投票率は55.93%でした。中でも、18歳の小選挙区の投票率は51.14%、19歳の投票率は35.04%と低い結果に終わりました。昔から話題にのぼる若者の投票率。どうすればアップできるのか考えた時、ふと気づいたのが住民票です。住民票を移していないことが、投票の足を引っ張っているのでは? どうすれば住民票を移してもらえるのか。現在、大学2年生である筆者の実体験とともに「住民票移さない問題」を調べてみました。(小林あい)

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半数が「移していない」

満18歳から20歳の男女3千人に投票をしなかった理由について聞いた総務省の18歳選挙権に関する意識調査があります。調査結果によると、投票に行かなかった人のうち、21.7%の人が「今住んでいる市区町村で投票することができなかったから」と答えており、一番多い回答になっています。

実際、私のまわりにいる友人にたずねると、やはり「住民票を移していない」という声が上がりました。

本来、住民票は移すことは法律で義務となっています。

(住民台帳基本法より)

このように、届け出をしないと罰金を取られるほか、投票以外にもさまざまな公的サービスを受けられなくなる可能性があります。

逆に、住民票を移すと、パスポートの発行や運転免許証の更新に加え、新型コロナウイルスのワクチン接種なども可能になります。

しかし、進学に伴う一時的な引っ越しの場合、あくまでも生活の拠点は実家にあり、通学のために一時的に学校の近くに住んでいると解釈されるため、住民票を移さなくても罰則は受けないとされています。そのため、住民票の移動手続きを面倒くさがってしまう大学生が多いのも事実です。

前述した総務省の調査では、親と同居していない人の住民票の異動状況は、「移している」が32.7%、「移していない」が 56.4%で、住民票移さない派が半数を超えています。

そして、「親と一緒に住んでいないが住民票を移していない」人に、その理由を六つの選択肢から選択してもらったところ、上位三つは「いずれ実家に戻るつもりだから 」が29.0%。「成人式に参加できなくなるなど不都合が生じると思って」が17.6%。「親が移さなくていいと言っているから」が15.2%となりました。

総務省の検討会に提出された住民票の見本。自治体ごとに様式が異なる=総務省「自治体システム等標準化検討会分科会」の資料から
総務省の検討会に提出された住民票の見本。自治体ごとに様式が異なる=総務省「自治体システム等標準化検討会分科会」の資料から

不在者投票できるけど……

住民票を移していない場合、不在者投票制度を使って投票ができる場合もあります。

しかし、そもそも不在者制度が使えることを知らない人も多いのが実情です。

前述の総務省の調査によると、不在者投票について、「よく内容を知っている」が 16.1%、「だいたい内容を知っている」が 27.3%で、43.4%が「知っている(よく+だいたい)」と回答しました。半数以上の人が不在者投票制度を知らないのです。

また、「投票用紙を請求して交付されるのを待つ」というと簡単に感じますが、選挙のために数日前からわざわざ用紙を取りに行ったり、コピーしたりするのは、選挙に関心があまりない人にとって高いハードルになります。

住民票を移していない筆者の友人も、「郵送でできると聞いたことはあったが間に合わなかった」と話していました。

2019年参院選の不在者投票の封筒
2019年参院選の不在者投票の封筒 出典: 朝日新聞

「主権者教育」で教えてほしいこと

住民票を移さない若者が多い実態を踏まえると、まず、不在者投票をはじめとした投票の仕組みを知ってもらうことが大事になってくるでしょう。

主権者教育について、文部科学省は、2019年度の高校3年生の95.6%が「実施した(予定を含む)」と答えています。具体的な指導内容としては「公職選挙法や選挙の具体的な仕組み」がもっとも多くなっています。

しかし、先述のように、不在者投票の制度の知名度は4割程度であり、かつ、投票率も低い状態です。ここからは、主権者教育が、現実の選挙への関心に結びついてはいないことがわかります。

背景には、公職選挙法や政治的中立性の観点から、教員が生徒に対して現実の政治に即した主権者教育を行うことが難しいという現状もあります。

選挙についての情報不足について筆者と同年代の友人の一人は「一番客観的に候補者の比較ができる情報がどこにあるのかわからなかった」と言いました。

最近は、Twitterをはじめ、各種新聞紙のホームページなどで候補者を比較できます。アンケートに答えていくと最後に自分に合う候補者を教えてくれるvoteマッチというサービスを使ってみるなどして、選挙との距離を近づけていくことで、関心をもってもらうこともできるでしょう。 

朝日新聞デジタルのボートマッチサービス
朝日新聞デジタルのボートマッチサービス 出典:2021衆院選 あなたにマッチする政党は? : 朝日新聞デジタル

エストニアの先進事例

世界を見渡すと、住んでいる場所に関係なく投票できる制度を採用している国も少なくありません。

エストニアでは、2005年からインターネット投票が導入されています。全国民に配布されているIDで本人確認をします。そのため住んでいる場所に関係なく投票ができます。

ユニークなのが、同一IDで何度も投票ができること。エストニアはインターネット投票を期日前投票の手段として位置づけています。なので、万が一、ネット上のトラブルが起きても、当日「上書き」することで対応できるようにしています。

現状、日本ではインターネット投票は本人確認などの問題点から国政選挙では認められていません。

仮に日本で導入しようとした場合、気になるのが秘密選挙の形で実施できるかどうかです。

例えば、親が特定の候補を応援しており、親の目の前で投票することになった時、自分の希望の候補者に投じられるのか。

加えて、ネットにアップされた個人情報の保護や、投票システムの安定したサーバー運用も十分な対策が必要です。

エストニアの電子IDカードとカードリーダー=2018年5月23日
エストニアの電子IDカードとカードリーダー=2018年5月23日 出典: 朝日新聞

「投票することはゴールではない」

ここであらためて考えたいのは、なぜ投票に行くのか、ということです。

長年、「主権者教育」に携わってきた、時事YouTuberたかまつななさんは「投票することはゴールではない」と強調します。

「若者は人口も少なく、政治的影響力も少ない中で投票に行かないとシルバー民主主義が進むかもしれない。若い人が選挙に行くことで、若者政策の拡大の後押しになる。しかし、選挙に行くことがゴールではなく、その後、社会について議論できる社会になることが大切です」

実際、筆者も投票する際、各政党の掲げている公約について調べたことで政策に関する理解が深まりました。

また、自分の投票した候補がきちんと国政で活躍しているかについても気になるようになり、政治への関心の第一歩が投票であることをあらためて実感しました。

総務省の18歳選挙権に関する意識調査では、投票した後の感想として「投票は簡単だった」が最も多くなっています。投票は、難しいものではないのです。

住民票のような制度面の対応を進めつつ、選挙の意義について丁寧に伝えていくことが投票率アップには必要なのかもしれません。

※この記事は、時事YouTuberのたかまつななさんが講師を務める政策デザインWS(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の活動の一環として学生が作成しました。

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