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連載

#46 「きょうも回してる?」

「1歩間違えるとただの気持ち悪い猫」社長がこだわった文豪猫ガチャ

プロならわかる「お金のかけかた」

日本を代表する文豪たちが猫の姿になったガチャガチャ「文豪猫」(写真は夏目漱石がモチーフの「ニャツメ」)。容器も球体ではなく本型にした=いずれも筆者撮影
日本を代表する文豪たちが猫の姿になったガチャガチャ「文豪猫」(写真は夏目漱石がモチーフの「ニャツメ」)。容器も球体ではなく本型にした=いずれも筆者撮影

目次

夏目漱石や宮沢賢治、太宰治といった日本を代表する文豪が猫になったら……。そんな世界観を形にしたガチャガチャ「文豪猫」が登場しました。商品を入れるカプセルも従来の球体ではなく、本型の容器に。「文学ガチャ」にこだわったメーカーをガチャガチャ評論家のおまつさん(@gashaponmani)が取材しました。
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ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」

出版社がつくるガチャガチャ

時代の最先端を華麗に切り取り、次のムーブメントやバズを狙うブシロードクリエイティブのオリジナルブランド「TAMA-KYU(以下、たまきゅう)」は、「事務的なはんこ」をはじめ「自己主張バッジ」「石」「切りたい麻雀牌」など数々のヒット商品を生み出しています。

ブシロードクリエイティブの代表であり、たまきゅうの仕掛け人の成田耕祐さんは新しい試みを始めました。

たまきゅうの「事務的なはんこ」
たまきゅうの「事務的なはんこ」

それが、出版業を営むブシロードメディアから発売するガチャガチャのオリジナルブランド「BOO-KYU(以下、ぶっきゅう)」です。成田さんが今年1月にブシロードメディアの代表も兼任することになり、「出版社が作る玩具を観点に何かできないか」と考え誕生しました。

今まで出版社からガチャガチャのオリジナルブランドを作ることはほとんどありませんでした。なぜなら、ガチャガチャを作るにはノウハウと経験が必要だからです。成田さんには、たまきゅうの経験があるからこそ、ぶっきゅうが生まれたのだと思います。

ぶっきゅうの誕生には国語の教員免許を持つ成田さん自身の思いも強く込められています。「出版といえば、文学。文学と言えば本。オリジナルブランドとして、文学っぽさを演出したかった」と、容器は定番である球体ではなく、本型に。一方、中身の商品は試行錯誤が続きました。

ブシロードメディアからガチャガチャのオリジナルブランドを立ち上げた成田耕祐さん
ブシロードメディアからガチャガチャのオリジナルブランドを立ち上げた成田耕祐さん

猫と人間のバランスを試行錯誤

そして、11月末に発売したのが、今回紹介する「文豪猫」です。誰もが教科書などで見たことのある有名な文豪たちが猫の姿になったガチャガチャです。企画を担当したCHOCOLATE Inc.プランナーで企画作家の氏田雄介さんと、キャラクターデザインを担当した同社イラストレーター兼漫画家のやじまりさんとのコラボ商品になります。

ブシロードメディアが販売する文豪猫。左から芥川龍之介がモチーフの「ニャクタガワ」、宮沢賢治がモチーフの「ミニャザワ」、川端康成がモチーフの「ニャワバタ」、夏目漱石がモチーフの「ニャツメ」、太宰治がモチーフの「ニャザイ」の全5種
ブシロードメディアが販売する文豪猫。左から芥川龍之介がモチーフの「ニャクタガワ」、宮沢賢治がモチーフの「ミニャザワ」、川端康成がモチーフの「ニャワバタ」、夏目漱石がモチーフの「ニャツメ」、太宰治がモチーフの「ニャザイ」の全5種

「文系や理系に関わらず、本が好きな人はたくさんいます。第1弾として、文学系をモチーフに、かつド定番で相応しいとなると、猫ですよね」と成田さん。それぞれの肖像画をベースに、猫にしてデザインを落とし込んだところ「案外イケました」(成田さん)となり、商品化が決まりました。

実際に製作に入ると、造形の部分で「元の肖像画感が残るかどうかが不安だった」と成田さんは振り返ります。

例えば、『吾輩は猫である』の作者・夏目漱石をイメージした「ニャツメ」は、椅子に座った時の猫独特の肢の長さで苦労したといいます。成田さんは「本当の猫は、こんなに肢が長くありません。しかし、これ以上短いと、本当に猫になってしまいますし、これ以上長いと、人間っぽくなりすぎてしまう。1歩間違えると、ただの気持ち悪い猫です(笑)」と、完成までに何度も試作をしたと教えてくれました。

椅子に座った時の肢の長さで苦労したとニャツメ
椅子に座った時の肢の長さで苦労したとニャツメ

成田さんのお気に入りは、宮沢賢治をイメージした「ミニャザワ」と太宰治をイメージした「ニャザイ」です。

ミニャザワについて、成田さんは「宮沢賢治の雰囲気を残しており、宮沢賢治本人だけではなく、彼の作品『注文の多い料理店』や『銀河鉄道の夜』に登場しそうなキャラクターに仕上がっています。やじまりさんのデザイン力の高さでうまく再現できました」と太鼓判を押します。

成田さんのお気に入りの一つであるミニャザワ
成田さんのお気に入りの一つであるミニャザワ

また、ニャザイについては「太宰治は青森県出身で、同郷なんです」と成田さん。「青森出身者は太宰文学に触れる機会が他県より多いのですが、子どもの頃は『何だ、この変わった人?』と思っていましたが、大人になるに連れて太宰の苦しみは、すごくわかるようになってきました。他の文豪系をモチーフにした様々なコンテンツでも太宰は、儚げや憂いを表現されることが多いです。このニャザイも同様に、本人の雰囲気が表現されています」と熱い想いを語ってくれました。

太宰の雰囲気が表現されているニャザイ
太宰の雰囲気が表現されているニャザイ

本型の容器も商品

この文豪猫はフィギュアの完成度の高さもそうですが、何と言っても本型の容器も大きな特徴です。

普通、商品に入ったカプセルは捨てられてしまいます。しかし、インテリア要素を含んだ本型の容器は並べるだけで、可愛らしさを演出できます。そのまま生かせるという意味では、SDGsの取り組みにもつながっている商品だと言えます。

商品とともにこだわった本型の容器
商品とともにこだわった本型の容器

成田さんは「文豪猫は、本型の容器とセットでひとつの商品になっています。フィギュア単体で販売しても、いち商品で終わってしまいます。本型の容器とセットで販売するからこそ、ニュース性が生まれます。本型の容器に、『どれだけお金がかかっているか』を想像できるのはメーカーさんしかいません(笑)。2個フィギュアを付けて販売しているのと同じですからね」と教えてくれました。

発売後は、フィギュアと組み合わせ、自分なりに解釈してストーリーを作り、Twitterやインスタグラムで挙げているユーザーが多いといいます。成田さんは「発売してみて、改めて文学好きの人たちの感性は鋭いと気づかされました。今回の猫で表現した文豪たちは、ロマンスやわびさびを表現できる作家でした。それを理解している方々は文豪たちへのリスペクトをもってSNS投稿をしてくれています」と、購入者たちの感度の高さに驚いたそうです。

本型の容器も並べて世界観を演出
本型の容器も並べて世界観を演出

最後に、成田さんは「ぶっきゅうは、出版社が本型の容器で文学的なおもちゃを作るオリジナルブランド。たまきゅうは時代の最先端を表現した商品でCMや主題歌を作ったりしていますが、ぶっきゅうは販促宣伝においてあまり奇をてらわず、口コミと地道な実績だけで勝負していくハードボイルド的な位置で育てていきたいです」と今後の展開を話してくれました。

第2弾は「積読街のビル看板」です。こちらも文学好きにはたまらない商品になりそうです。

     ◇

文豪猫は「ニャツメ」「ニャクタガワ」「ミニャザワ」「ニャワバタ」「ニャザイ」の全5種。1回300円。

ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」
この連載は、20年以上業界を取材しトレンドをチェックしているおまつさんが注目するガチャガチャを毎週金曜日(原則)に紹介していきます。

     ◇
ガチャガチャ評論家・おまつ(@gashaponmani
ガチャガチャ業界や商品などをSNSで発信中。著書に「ガチャポンのアイディアノートーなんでこれつくったの?ー」(オークラ出版)。テレビやラジオなどのメディアへの出演や素材提供も多数ある。

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