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連載

#115 ○○の世論

結局、食われてしまった辻元清美氏 出口調査で見えた〝完敗〟の理由

内閣支持層も不支持層もつかんだ維新

第一声で訴える立憲民主党の辻元清美氏=2021年10月19日午前8時59分、大阪府高槻市、細見卓司撮影
第一声で訴える立憲民主党の辻元清美氏=2021年10月19日午前8時59分、大阪府高槻市、細見卓司撮影 出典: 朝日新聞

目次

10月末に投開票された衆院選では、自民、立憲民主両党の大物が小選挙区で相次いで落選しました。朝日新聞社が実施した出口調査から、それぞれの敗因を詳しくみてみました。そこから浮かび上がってきたものは……。(朝日新聞記者・君島浩)=各候補者の肩書、年齢は投開票日当日

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「王国」を崩したのは

平成の世に入る頃から、岩手県は「小沢王国」の異名をとってきました。元民主党代表の立憲前職、小沢一郎氏(79)が絶大な影響力を及ぼしてきたからです。

中でも自身の選挙区である岩手3区は、王国の牙城で、小沢氏は、衆院選立候補者1051人のうち、最多の17回当選を果たし、しかも選挙区では無敗を誇ってきました。

しかし、今回はこれまで3連勝しながら、いずれも比例区で復活してきた自民前職の藤原崇氏(38)に初黒星を喫しました。小沢氏は今回、約9千票差で競り負けました。前回2017年の衆院選と今回の実際の得票数を見ると、約2万票減らし、その分が藤原氏に乗った格好です。

 

出口調査の結果をみると、岩手3区では、まず自民支持層が前回の27%から37%に膨らんでいました。自民支持層のうち藤原氏に投票した人は73%から76%へと少し増えた程度ですが、自民支持層のボリュームが増した分、票も上積みされたと言えます。

それに加え、「支持政党はない」「わからない」と答えた無党派層の投票先が、前回は小沢氏が65%で、藤原氏の33%の倍だったのに、今回は小沢氏44%、藤原氏54%と逆転しました。無党派層自体は前回の25%から14%に縮んだものの、小沢氏にとっては、ここで差を付けられたことが響いたとみられます。小沢氏が代表を務める立憲岩手県連は、1年前に岩手1区の立憲前職を相手に政治資金をめぐる訴訟を起こし、「刺客」候補を擁立しようとしました。変わらぬ「壊し屋」ぶりにいよいよ愛想を尽かした人もいるのでは、との見方もあります。

年代別にみると、前回は小沢氏に投票した人の割合は40代以上で藤原氏を上回り、50代以上では6割を超えました。しかし、今回、小沢氏が上回ったのは50代以上で、しかもその差はわずかでした。20代、30代では6割が藤原氏に投票したと答えました。

選挙戦中の「政権交代より世代交代」との訴えが功を奏したのかも知れません。敗戦の夜、小沢氏は比例区で復活当選し、連続当選回数記録を18に伸ばしましたが、公の場には姿を現しませんでした。

砦を襲う竜巻

大阪10区では、前回、大阪府内で立憲公認候補として唯一小選挙区を制した前職、党副代表の辻元清美氏(61)が完敗しました。

前回同様、自民、立憲、維新の三つどもえの戦いとなりましたが、今回初めて立候補した維新新顔の前府議、池下卓氏(46)に約1万4千票の差を付けられ、比例区での復活当選も果たせませんでした。

辻元氏が前回より9千票近く減らしたのに対し、池下氏は前回立候補した維新候補に比べると、約3万6千票を上積みしました。

 

辻元氏の武器は、国会だけでなくテレビ討論でも鳴らした歯切れのよさと、知名度の高さです。ところが、無党派層のうち辻元氏に投票した人の割合は、前回は54%と5割を超えたのに対し、今回は41%に減らしました。

立憲支持層の支持は前回99%で、今回は92%に減りましたが、前回は直前に所属していた民進党から分かれた希望の党からの支持が半数に満たなかったので、それほど目減りしているわけではありません。

何よりも、この選挙区の維新支持層のボリュームが、前回の15%から今回の37%へと、倍以上に膨らんだことが影響したように思われます。前回立候補した維新候補の支持は74%だったのに、池下氏は83%を獲得。選挙区の無党派層は前回の24%から14%に縮みましたが、その支持も前回の26%から43%に伸ばし、辻元氏のお株を奪いました。

年代別にみると、辻元氏は前回、40代以上では維新候補を上回っていましたが、今回は池下氏をかろうじて上回ったのは70歳以上だけで、40代以下では池下氏の支持の半分程度にとどまりました。

今回の出口調査では、発足したばかりの岸田内閣を支持するか、支持しないか、という質問もしました。この選挙区で調査に応じてくれた人の内閣支持率は64%で、不支持率は32%。辻元氏は内閣不支持層から55%の支持を得ましたが、池下氏も37%の支持を獲得しました。

内閣支持層の投票先では、池下氏が48%で、自民候補の30%も上回り、21%の辻元氏を引き離しました。内閣支持層にも不支持層にも浸透できるのは、維新の立ち位置ゆえでしょうか。

衆院解散当日こそ「国政選挙ですから、ローカルな維新は眼中にはない」と言い切った辻元氏。大阪で擁立した15人全員を当選させた「維新の突風が竜巻のように吹き」(辻元氏)、大阪における立憲の「最後の砦」(同)を失いました。

大きな塊

東京8区では、自民の大物が大敗しました。11回連続当選をめざした前職の石原伸晃氏(64)は、党幹事長や経済再生相などを歴任した派閥の領袖です。

前回、野党側は、今回も立候補した立憲新顔の吉田晴美氏(49)の他に、希望の党の前職、元民主党副代表で参院議員を務めた無所属新顔、共産新顔ら候補者が乱立。石原氏の独走を許しました。

このため、今回は吉田氏に一本化。維新新顔も立候補し、一騎打ちの構図にはなりませんでしたが、大きな塊をつくることで石原氏を約3万2千票差で破り、比例区での復活も許しませんでした。

 

実は石原氏は前回より5千票以上得票を増やしました。自民支持層のボリュームは前回35%、今回34%とほぼ変わらず、石原氏は前回はその75%、今回は72%から支持を獲得しました。公明支持層も変わらずに6割が石原氏に投票しました。無党派層は全体として32%から24%に減り、石原氏は前回はその18%、今回は16%から支持を得ました。

しかし、吉田氏は前回より6万1千票以上を上乗せすることで、石原氏を凌駕しました。前回は立憲支持層の支持こそ81%でしたが、希望の党支持層の支持はわずか5%で、共産支持層の支持も28%でした。しかし、今回は立憲支持層の96%に浸透。候補者擁立を見送った共産支持層の90%が吉田氏に投票しました。

れいわの山本太郎代表の突然の出馬表明、直後の撤回で、一時陣営には動揺が走りましたが、れいわ支持層の8割も吉田氏に投票しました。勢いに乗ったのか、無党派層の支持も前回の44%から61%に伸ばしました。

年代別では、石原氏は前回、40代以下で吉田氏を上回り、候補者が林立する中でも20代以下から5割近い支持を得ていました。しかし、今回はすべての年代で吉田氏に大差を付けられました。

石原氏、吉田氏とも選挙戦を振り返り、それぞれ「一丸となっての戦い」を強調しましたが、石原氏は「大将として申し訳ない」と頭を下げ、「大きな成果」と胸を張った吉田氏と明暗を分けました。

微妙な影も

自民党は現職の幹事長も小選挙区で敗退しました。神奈川13区で自民前職の甘利明氏(72)は5千票余りの差で、立憲新顔の太栄志氏(44)に惜敗。12回の当選を誇ってきた甘利氏は、民主党に政権を奪われた09年以来、12年ぶりの比例区復活当選となりました。

自民党の現職幹事長が小選挙区で敗れるのは、四半世紀に及ぶ現行選挙制度では初めてのことです。1カ月前に党ナンバー2に起用されたことで、16年1月の経済再生相辞任につながった金銭授受疑惑に再び火がついたことが逆風になったと思われます。

 

甘利氏は前回に比べて2千票以上減らしたものの、地力をうかがわせました。自民支持層で甘利氏に投票したと答えた人は、前回は85%で、今回は78%。減ったとはいえ、自民支持層のボリュームは前回の38%から43%に増えています。

しかし、太氏は前回、希望の党公認で立候補した時より約6万7千票を上積みしました。前回公認候補が3万6千票以上獲得した共産が今回擁立を見送ったとはいえ、得票を倍以上に膨らませました。前回は、希望の党支持層からの支持が83%だったに対し、立憲支持層は50%で、競合した共産候補と分け合いました。今回は立憲支持層の91%に浸透し、共産支持層からの支持も8割に達しました。無党派層自体は前回の26%から19%に減りましたが、太氏への無党派層の支持は37%から70%に倍増。41%から24%に減った甘利氏を圧倒しました。

年代別では、甘利氏は前回、すべての年代で太氏に大差を付けていましたが、今回は70歳以上で互角となり、60代でわずかに上回っただけでした。

投開票日の夜、甘利氏は「政治とカネ」の問題について「いくら説明してもなかなか届かない。ちょっとジレンマを感じている」と話しました。実は公明支持層で前回、甘利氏に投票したのは74%だったのに対し、今回は66%に減っています。前回、公明支持層の9%が無回答でしたが、今回は1%に減り、逆に太氏の公明支持層からの支持は12%から32%に増えました。態度を鮮明にした公明支持層が増えたことを甘利氏はどう受け止めるでしょうか。

積み重なれば

今回取り上げた選挙区を振り返ると、大物を破った候補は①支持基盤そのものが厚くなり、それを固めている②無党派層に浸透する③若年中堅層に支持を広げている――ことが共通している、と言えます。

もう一つ。出口調査から離れますが、投票率の傾向も共通しています。岩手3区は60.30%から61.71%、大阪区10区は56.08%から63.32%、東京8区は55.42%から61.03%、神奈川13区は50.67%から55.77%へと、いずれも投票率が上昇しています。政治に対する無力感から「たった一票で世の中は変わらない」という言葉がささやかれるようになって久しくなりますが、積み重なれば、山が動くこともあることを示しています。

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