連載
#4 テツのまちからこんにちは
「甲種輸送」好きの鉄子さんの〝気になる一言〟「撮り鉄の方々は…」
全廃止を心配して乗った「サンライズ出雲・瀬戸」の思い出
鉄道ファン同士が知り合うきっかけにはどんなものがあるでしょう。2020年11月、JR山陽線の下松駅で東京メトロの有楽町線と副都心線に今年から投入される新型車両「17000系」を取材しました。そこには、鉄道の新車が線路で出荷される「甲種輸送」をよく撮影するという女性ファンも。鉄道ファンの記者(25)が、「鉄道のまち」で見聞きした出来事をレポートします。(朝日新聞山口総局記者・高橋豪)
甲種輸送の写真をSNSに投稿した鉄道ファン、枝松基さんに話を聞きに、山口市内の待ち合わせ場所へ。この日は枝松さんの「撮り鉄」仲間、会社員の向井結愛(ゆゆ)さん(21)も広島市から来ていました。この間の東京メトロ17000系の時も、一緒の車で下松市から広島県まで追いかけたといいます。
小学生の時、下校中にたまたま見たという東武鉄道の新車の甲種輸送に憧れて以来、撮影に出かけたのは「数え切れないほど」。今はスマートフォンの有料アプリで時刻の情報を集めています。
向井さんは「広島や山口にはない長い編成が見られる」ことが魅力と語りました。1~4両が一般的な中国地方では、今回のような10両編成の電車は確かにめったに見られません。
もともと2人が知り合ったのも甲種輸送がきっかけ。向井さんが枝松さんに「DENCHA」(JR九州のBEC819系蓄電池駆動電車の愛称)の新車が出るのを教えて撮影に誘っていました。下松が「テツ」の輪を広げているのを、私も改めて実感したのでした。
向井さんはいわゆる「撮り鉄」。「同じ顔の車両が集まっている地方とは違って、東京や大阪、名古屋、福岡などの大都市圏へ行くと、いろいろな顔や形式の車両がいて楽しい」といいます。
乗る方にも思い出がありました。かつて全盛を誇った寝台列車は、向井さんの世代ではほとんど見かけなくなりました。次々と引退する中で今も走る「サンライズ出雲・瀬戸」に20歳の時に乗車。「いつ全廃止されるかわからない状況なので、とても貴重な体験になりました」
女性の鉄道ファンを描いた漫画の名前にもあるように、「鉄子」という呼ばれ方もする女性ファン。タレントや俳優、アイドル歌手などで、鉄道好きをアピールポイントにしている芸能人をテレビなどで見かけることも多くなりました。向井さんにその背景を分析してもらいました。
「旅行やツアーなどで観光列車に乗ったきっかけに、あの列車かっこよかったなあ、豪快だった、また乗りたいと鉄道の様々な魅力を発見されるのではないでしょうか。『インスタ映え』を意識するSNSの広がりも背景にあると思います」
「女性の鉄道ファンが増えてきているとはいえ、まだまだ男性が多いので、大勢の撮り鉄の方々に混ざって撮影するのは緊張します」と率直な思いも。私がたまに見る現場では、場所を譲り合いながら和気あいあいと列車を待つ人が多い印象を受けていましたが、少しはっとさせられる一言でした。
鉄道に限らず、どんな趣味でもそうです。誰もが「入門」しやすく、より深く親しんでもらえるような雰囲気を、ファン自らが工夫して作り上げなければと、改めて思いました。
今週のテツ語「寝台列車」
夜通し走る夜行列車のうち、座席よりも寝台を主とするもの。北海道方面の「北斗星」、九州方面の「あさかぜ」など、国鉄時代につくられた青色の客車が使われた列車は「ブルートレイン」の愛称で親しまれました。「カシオペア」などの高級列車も人気を博しましたが、新幹線や飛行機、安価な夜行バスに押し出されるように次々と引退。今では東京と出雲市(島根県)、高松・琴平(香川県)を結ぶ「サンライズ出雲・瀬戸」だけが毎日の定期運転をしています。
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