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#17 アニメで変わる地域のミライ

「聖地巡礼」も変えた鬼滅の刃 作品に出てないのにファンが〝認定〟

町おこしにつながるヒントがありました。

「鬼滅の刃」の聖地「八幡竈門神社」にファンが奉納した絵馬=写真はいずれも筆者撮影
「鬼滅の刃」の聖地「八幡竈門神社」にファンが奉納した絵馬=写真はいずれも筆者撮影

目次

2020年最も話題となり、社会現象にもなった作品「鬼滅の刃」。アニメや漫画の舞台を旅する「聖地巡礼」においても、作品に登場しない舞台を「聖地」にする特徴的な動きを見せています。「聖地」を探し出すファンの熱意には、「ボトムアップ型」で町おこしにつなげるヒントがありました。

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「鬼滅」聖地の二つの特徴

「鬼滅の刃」の「聖地」の特徴は、「作品に登場しない」「全国に点在する」ことです。

もともと「聖地巡礼」は、アニメや漫画などに登場した舞台やそのモデルとされる場所を巡ることが中心でした。

しかし、「鬼滅の刃」の場合は、ファンが「ここが『舞台』ではないか」と見なしたり、関連がありそうだと訪れたりして、SNSなどで広まっています。メディアが取り上げることでさらに、多くの人が訪れる流れとなりました。

例えば、「宝満宮竈門神社」(福岡県太宰府市)や「溝口竈門神社」(筑後市)、「八幡竈門神社」(大分県別府市)は、漫画やアニメに直接登場しませんが、主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の名前とつながりがあるなどの理由で多くのファンが訪れています。

他にも、鬼が恐れるとされる藤の花の名所・栃木県足利市の「あしかがフラワーパーク」や、鬼の本拠地「無限城」に似ていると言われる福島県会津若松市の旅館「大川荘」、主人公の炭治郎が刀で切った岩に似た岩がある福岡県糸島市の「神在神社」が人気の「聖地」となっています。

「鬼滅」ファンが大勢訪れる溝口竈門神社(福岡県筑後市)
「鬼滅」ファンが大勢訪れる溝口竈門神社(福岡県筑後市)

ファン主導で形成されていた「聖地」

ファンの熱意から広がるケース自体は、初期の「聖地巡礼」でもありました。

2007年に放送されたアニメ「らき☆すた」では、作中に登場する「鷹宮神社」が埼玉県久喜市にある「鷲宮神社」と酷似していることをファンが特定し、ネットを介して広く知られました。

2010年代以降は、「聖地巡礼」が地域振興手段として認められるようになり、エンディングアニメーションのクレジットにある「協力」などで自治体や施設名が明示されることも当たり前になってきました。

2019年に上映された劇場アニメ「天気の子」では、エンディングクレジットに「高円寺 氷川神社」と書かれています。

このように、「聖地巡礼」はファン主導の動きから製作側が地域とタイアップする形へと移り変わってきました。

「鬼滅の刃」のように、ファンが作中に登場した元ネタについて様々な考察や議論を交わし、「モデル」を特定していくためには、緻密でリアルな考証の上に作品が成り立っている必要があります。

おそらく製作側としては、どれか一つをモデルにしたわけではなく、全国様々な実例を参考にした上で、オリジナルの存在を作り上げていったのではないかと考えます。

似たようなケースはゲームにもあります。パソコン向けの弾幕シューティングゲームで知られる「東方」シリーズです。「東方」シリーズは「幻想郷」呼ばれる、人と妖怪や鬼などが同居する、近世以前の古き良き日本をモチーフにした架空世界が舞台です。

作品で舞台は直接明示されておらず、ファンがゲーム付属の設定テキストデータなどに登場する固有名詞の語源を調べて舞台の神社仏閣を特定しています。こうした情報はネットで共有され、これを見たファンが現地を訪れることで、次第に「聖地」化していきました。

「らき☆すた」のブランチ&公式参拝in鷲宮で賑わった鷲宮神社=2007年12月2日撮影
「らき☆すた」のブランチ&公式参拝in鷲宮で賑わった鷲宮神社=2007年12月2日撮影

「ボトムアップ型」で町おこし

「聖地」がファン主導で形成される「ボトムアップ型」は、地域側にとっても大きなメリットがあります。

現在主流となっている、製作と地域がタイアップし、あらかじめ舞台が分かる「トップダウン型」の「聖地」では、作品の舞台がたまたま自分たちの地域の存在し、アニメ化される機会に巡り合わなければ実現しません。地域側で自助努力できる範囲があまりにも限られています。

一方、「鬼滅の刃」のようにファン主導で形成される場合、実際に制作側がそこを舞台モデルとしたかどうかは定かではないものの、作品と「ゆかりのある場所」として付加価値をつけることが可能です。

「鬼滅の刃」では全国の観光地で作品と結びつけて誘客合戦が行われていますが、実は、他の人気作品でも同様に展開できる可能性は十分あります。

「鬼滅の刃」のように、舞台を架空のものとしている作品だけでなく、地域とタイアップしていて、舞台をがちがちに設定している作品でも同様です。

例えば東京・お台場を舞台にしたアニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」では、東京・門前仲町にあるもんじゃ焼き屋「門前仲町三久」がファンの「聖地」になっています。作品の舞台ではありませんが、ファンと店員との交流によって生み出された「ボトムアップ型」の典型例です。

作品の舞台にならずとも「聖地」となっているケースは、地域側がファンの動向を素早く認知し、おもてなしにつなげることで生まれるものです。

「鬼滅の刃」のブームをきっかけに、既存の作品でも新たな「ボトムアップ型」の「聖地」が誕生することを願っています。

河嶌 太郎

「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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