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連載

#208 #withyou ~きみとともに~

子どもの「有休」奪った自覚ありますか? 精神科医が恐れる異常

つらいと感じることを、自分の個人的な強さや弱さにしてはいけないよ。

精神科医の井上祐紀さん=本人提供
精神科医の井上祐紀さん=本人提供

目次

今年の夏休みは、非常事態宣言下での休校期間も影響し、短縮されている学校も少なくありません。そんな夏休みの短さは、子どもたちにどのような影響をもたらすのでしょうか。「10代から身につけたい ギリギリな自分を助ける方法」の著者で、精神科医の井上祐紀さんは「子どもたちに『休みは軽いものだ』と覚えさせ、大人にさせてしまう可能性がある」と指摘。「夏休み短縮の決定には、過労の視点が足りていない。休み明けに体調不良があれば遠慮なく休んでほしい」と話します。子どもたちにとっての「休み」について考えます。

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夏休み短縮、「休んじゃいけない存在」?

文部科学省の調査(6月23日時点)では、コロナ禍で休校した自治体のうち9割以上が、小中学校の夏休みを短縮。このうち、夏休みの日数として最も多かったのが「16日」で、15日以下の自治体と合わせると全体の5割に上る。最短は「9日」(小学校で6%、中学校で8%)だった。
朝日新聞デジタル「夏休み、暑すぎ、短すぎ 最多は16日、最短9日 休校の小中」

――夏休みが短くなることは、子どもたちの心にどう影響すると思われますか。
休みは奪われるものだと思っちゃいますよね。
例えば、「コロナで会社の業績が落ちたから」といって大人の有休を削りますか?ということです。やらないですよね。有休は労働者の権利だからです。
それと同じで、子どもたちの夏休みが短くなることは「夏休みは子どもの権利じゃないんだ」と子どもたちが感じてしまうことにつながらないかと心配です。
それは、「休みは簡単に奪われてしまう」「休むことはやっぱりよくないんだ」など、休みは軽いものなんだと子どもたちに覚えさせたまま大人にさせるっていうことです。
夏休みの短縮に伴う議論には、この視点が足りないと思います。

――休みの価値が低い。
社会全体がまだまだ子どもの休みをものすごく低く評価していると思います。
今回、「僕たちは休んじゃいけない存在だ」と子どもたちに思わせることは、今後もつらくても休めない、つらくても休んじゃいけないと思わせる可能性があるという意味でも、ものすごく問題です。余暇への蹂躙ですよね。

井上さんは「社会全体がまだまだ子どもの休みをものすごく低く評価していると思います」と話します。
井上さんは「社会全体がまだまだ子どもの休みをものすごく低く評価していると思います」と話します。 出典:pixta

大人たちへ「異常事態、負担軽減を」

休む権利については、1994年に日本も批准したユニセフの「子どもの権利条約」の31条で「休み、遊ぶ権利」が明記されています。
ユニセフ「子どもの権利条約について」

――休みが短くなることで、身体的・精神的な負担もありそうです。
先生たちにとってもそうですが、負担が強すぎるとしか言いようがない。
労働者でいうと、有休が半分になったらどんな現象が起きるでしょうか。過労です。子どもたちの夏休み短縮には、過労の視点も足りていない。過労やオーバーワークが子どもにはないと言っているも同然ではないでしょうか。
当然、夏休みに得られる体験の幅も狭くなりますよね。休むことへの価値下げとしか本当に言えません。

――負担感が強まる子どもたちをどうケアすべきなのでしょうか。
子どもたちにばかりにコーピング(ストレスに対する対処)をさせるんじゃなくて、大人たちが「これっておかしいよね」「異常事態だよね」ってことに気づいて、子どもたちにも伝えてあげてほしいと思います。
結局、子どもたちをケアするには、大人と子どもがセットじゃないとできないようになっています。だから、親御さんには、もっと子どもたちの負担軽減に向けて声を上げてほしいし、「授業の遅れを取り戻そう」という流れに加担しないようにしてほしいです。

少ない休みでがんばれるスキルは要らない

――井上さんは、子どもたち自身が「自分は困難な状況にある」と状況を捉え直した上で、「私は援助が必要な存在なんだ」と気づいてもらうところまでをセットで「セルフケア」というお考えです。
「いまあることは当たり前だ」と思ってセルフケアするんじゃなくて、「これっておかしいよね」と、いまを捉え直すことも踏まえて、セルフケアしてほしいです。
「自分たちは守られるべき存在だよね」って思うことこそがセルフケアになるはずなので。

――それは、夏休み短縮について言えば、「短い夏休みでもがんばるためにはどうしたらいいか」ということではない。
「休みが少ない中で頑張れるケア」ではなくて、「休みが少ないのは異常なんだ」という風にまずは現実を捉え直してほしい。
もっと言えば、子どもたちにはブラック企業で働きながら頑張れるスキルなんていらないんです。ブラックなものはブラックなんだから、どうやって自分を守ろうか考えようっていう考え方です。

精神科医の井上祐紀さん=本人提供
精神科医の井上祐紀さん=本人提供

自分のつらさを看過しないで


――その上で、子どもたち自身ができることはなんでしょうか。
個人的なコーピングに終わって欲しくないという考えがある前提ですが、最大限できることは、「休みたい」と伝えることです。
子どもたちには、新学期が始まってから体調不良があれば遠慮なく休んで欲しい。
メッセージとしては、「周囲からの期待に100%答えることが健康に有害かもしれない。自分の辛さを看過しないでほしい」ということ。
そして、「あなたがつらいのには事情があるはず。つらいと感じることを、自分の個人的な強さや弱さにしてはいけないよ」ということです。

ーー子どもたちからの「休みたい」に対し、親や先生にはどのような対応が求められるでしょうか。
まず、「休みたい」と子どもが意思表示しても良いのだという雰囲気づくりを家庭や学校でもお願いしたいです。
その上で、子どもたちが「休みたい」と訴えたときには「休むことは悪いことではないんだよ」など、子どもたちが抱きがちな「休むことへの罪悪感」を軽減できるような言葉をかけて欲しいです。

――頑張る必要はないと言い切っていいですか?
はい。とにかく無理に頑張ってはいけません。こんな異常事態に自分を無理に合わせる必要はないと思います。


(いのうえ・ゆうき)
児童精神科医。東京慈恵会医科大学精神医学講座准教授。5月には「10代から身につけたい ギリギリな自分を助ける方法」(KADOKAWA)を刊行。

友だちや家族、恋愛など「中高生が生きづらさを感じたときの解決のヒントを提供したい」と執筆。


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