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ネットの話題

武田砂鉄さんが貫くわかりにくさ ツイッターで記事を宣伝しない理由

オンラインイベント「武田砂鉄さんと考える『わかりやすい記事の罪』コロナショック後『PV狙いの記事』は生き残れるのか~withnewsおはなし部~」で話す武田砂鉄さん
オンラインイベント「武田砂鉄さんと考える『わかりやすい記事の罪』コロナショック後『PV狙いの記事』は生き残れるのか~withnewsおはなし部~」で話す武田砂鉄さん 出典: 朝日新聞

目次

新型コロナウイルスから、ネットの中傷まで、わかりやすい情報が広まりやすい時代です。ライターの武田砂鉄さんは「めんどくさい性格」と思われながらも、世の中のわかりやすさに異議申し立てをしています。時流からあえて遅れたことを取り上げ、自分の興味にマッチしない情報が載っている新聞や雑誌を大事にする武田さん。便利な世の中に逆行していそうで、本当に大事なものが何かを投げかけています。そんな武田さんが危惧する「わかりやすさの罪」について聞きました。

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安全な方に乗っかろうとする罪

――ネットの炎上や、激しい言葉による中傷にはどう向き合えばいいのでしょうか?

「自分の視界に入っているものが決して物事の全体像ではないと考えることが必要だと思います。先日、新宿の劇場で新型コロナウイルスの集団感染が起きた後、ある歌舞伎役者が、ブログで『考え無しに目先の金に釣られて尻尾振りやがった罪は深い』などと、手厳しい言葉で批判していた。劇場側の対応・配慮が足りなかったところもあるようですが、目先の金ってとても大事です。誰がどう尻尾を振ったのでしょう。こういう強い言葉に『せーの』で乗っかって叩いていいのかどうか、立ち止まって考えないといけない」

「たとえば不倫報道についても、若い女性タレントなら叩かれ、落語家なら芸の肥やしになる、とされる。擁護するのか、批判するのか、この件についてはどっちに乗っかれば安全かが問われ続けている感じがします。私はこう思う、よりも、みんなはどう思うが優先されれば、当然、『せーの』が繰り返されます」

「強い言葉に『せーの』で乗っかって叩いていいのかどうか、立ち止まって考えないといけない」
「強い言葉に『せーの』で乗っかって叩いていいのかどうか、立ち止まって考えないといけない」 出典: 朝日新聞

なぜ池上彰さんの「わかりやすさ」が重宝されるのか 

――新著『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版)では、池上彰さんを重宝するメディアに対して、厳しい投げかけをしています。

「池上さんに対する論評というより、メディアが、『池上さん的』なもの=短時間で解説してくれるものを欲し続けるのはなぜなのだろう、という問題提起をしました。本来、池上さんのテレビでの仕事は、社会情勢を整理した上で、その奥にある様々な事象について視聴者に考えてもらうというものだったはず。それが、ある時から、『ごちゃごちゃしてるから池上さんにまとめてもらおう!』という展開になってしまった。入り口に向かってもらうための整理が、出口に掲げられている整理になってしまった」

「世の中には様々な問題があるのに、伝える側が『ひとまず、手短にまとめると、こういうことになっています。ではでは、次の話題にいきましょう』という傾向を強めすぎだと思います」

――本ではタモリさんの存在を「トリッキー」と評しています。

「見かけたテレビで、長らく『わからなさ』を大切にしてきた、『わかんなくてもいいから、それをやらないと面白いものができない』と話していたのが印象的でした。他の大御所と比べても、いまだに何を考えているかよくわからない感じを貫かれていますよね」

「テレビを見ていると、司会を務める芸人さんに対して、どう向かっていくのが正しいのか、ルール化されているように感じることがあります。視聴者まで、どういうアプローチをするのが正解かをわかっている。結果、『ツッコミが甘い!』みたいな反応が起きる。タモリさんのように、正体不明な自分でいることを徹底されていると、そういうルールが生じないですよね。分析されない存在で居続けることって、とてもタフなことなんだろうなと想像します」

「(タモリさんは)他の大御所と比べても、いまだに何を考えているかよくわからない感じを貫かれていますよね」
「(タモリさんは)他の大御所と比べても、いまだに何を考えているかよくわからない感じを貫かれていますよね」 出典: 朝日新聞

PV数で一喜一憂する罪

――ネットではPV数が重視されてしまう問題があります。

「ネットに記事を書いた時、担当者から『SNSで記事を拡散してください』って言われることが多いんですが、自分で読んでもらいたいなと思ったらするし、別にしたくない、どこからか辿り着いてくれたらいいな、と思ったならば、拡散しません。記事を宣伝するのは、こちらの役割じゃないと思っているので。こちらの仕事はライターで、ライター兼宣伝マンではないので」

「自分の記事をすべて宣伝するという姿勢でいると、1PVでも多く読まれる方がいいという前提に立つことになってしまう。メディアだけでなく、書き手までも、PV数が問われることを認めなくてもいいんじゃないかと」

「PV数ばかり気にしていると、味つけ濃くしようかなとか、それこそ、わかりやすくしなきゃとか、提案された派手な見出しを許容したりと、自分の考えを文章にする行為とかけ離れたところばかり気にしてしまう」

「武田砂鉄が武田鉄矢さんみたいなことを言うと……ひとりの人が心を打たれたり、考え込んだりしたならば、それだけで価値があるんじゃないか、と思います。数字というわかりやすいものの怖さと重さを最低限気にしつつも、そればかり気にしないようにしなければ、と日々思っています」

「自分の記事をすべて宣伝するという姿勢でいると、1PVでも多く読まれる方がいいという前提に立つことになってしまう」
「自分の記事をすべて宣伝するという姿勢でいると、1PVでも多く読まれる方がいいという前提に立つことになってしまう」 出典: 朝日新聞

マッチングされる罪

――雑誌連載に力を入れている武田さんにとって、ネットにはない雑誌の魅力とは?

「長いこと雑誌を読んでいて、雑誌の何が好きかといえば、読みたかった記事の隣に載っているコラムをたまたま読んだら面白かったり、ちっとも面白くなかったりするという環境にあるんです。全てが自分にマッチングする文章が載っているわけじゃない。新聞の面白さもそこにある。新聞を頭から読んでいって、最後まで知りたい情報であることは皆無。ペラペラめくっている中で、予想だにしない発見があることが面白い。ある意味、時流に乗り遅れているけれど、時流とは違う流れに突っ込んで浴びるのって有意義です」

「もう6年ほどcakesで芸能人や著名人について考察する連載をしていますが、その時に話題になっている人を書けば、おおよそアクセス数が多くなります。でも、それだけではなく、この人のことを書いてもアクセス数は低いだろうけど、でも、自分としてはこの人について考えてみたい、という人を欠かさずに書くようにしています。こんな人に興味ないよ、と思われても、別にいいんです。みなさん、どんなことに興味があるんだろう、ってことばっかり考えていたら、最終的に、自分で考えることをやめてしまうと思うので。『わかりやすさの罪』では、そういった危うさについて考察してみました」

オンラインイベントでは視聴者からの質問も活発に寄せられた
オンラインイベントでは視聴者からの質問も活発に寄せられた

※記事は、7月22日に開かれたオンラインイベント「武田砂鉄さんと考える『わかりやすい記事の罪』コロナショック後『PV狙いの記事』は生き残れるのか~withnewsおはなし部~」の話を再構成しました。

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