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連載

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#16 withコロナの時代

都心の高い家賃「狭いのになぜ住んでる?」 在宅勤務で移住に関心

移住先の新潟市内でパソコンを使う「フラー」の渋谷修太社長=同社提供
移住先の新潟市内でパソコンを使う「フラー」の渋谷修太社長=同社提供

目次

withコロナの時代

新型コロナウイルスをきっかけに働き方や生活が変わるなか、都市部から地方へ移住を考える人が増えています。テレワークによって遠隔でのコミュニケーションや仕事がしやすくなり、「どこに住んでも支障ない」と感じているからです。これまで人口減対策として移住を促進してきた自治体や支援団体は、移住への関心の高まりに、ウェブを使ったオンライン見学会などで応じています。(朝日新聞記者・上田学)

薄れる都心の必要性

東京都品川区のITコンサルタント藤原翔平さん(36)は会社員の妻里奈さん(37)、5カ月の長男と2LDKの賃貸マンションに住む。家賃は月23万円。職場まで30分以内の立地が魅力だが、コロナの影響で4月以降、仕事が在宅でのテレワーク中心に切り替わった。自宅で過ごす時間が増え、「高い家賃でなんでこんな狭いところに住んでいるんだっけ」と気付いた。

在宅勤務は今後も続く予定で、都心にこだわる必要性を感じなくなった。里奈さんの職場も同様で、「都心は電車も混むし、自然に囲まれた地方に住もう」と意見は一致した。

移住先は、新幹線が通る小田原(神奈川)や熱海(静岡)が候補。子どもの教育環境も考えながら、実際にテレワークを体験して決めるつもりだ。

テレワークする藤原翔平さん=本人提供
テレワークする藤原翔平さん=本人提供

東京都府中市の会計事務所勤務、積姫南杏(せき・ひなこ)さん(22)も今春、大学卒業を控えて地方移住を決めた。

東京で生まれ育ったが、両親の出身地・鹿児島県の奄美大島をたびたび訪れ、人との濃いつながりに憧れていた。そんな折、コロナで生活は一変した。外出できず、買い物はネット通販に。友達との飲み会はほとんどオンラインになった。教員免許を取るために卒業後に履修する大学の講義も、遠隔で受けられる。ネット環境さえあれば、どこに住んでも物質的には同じだと感じた。

「それなら、地方のほうが豊かに暮らせるのでは」と、自分の将来を見つめ直したという。

藤原さんと積さんは、IT企業「カヤックLiving」(神奈川県鎌倉市)が運営する移住支援サービス「SMOUT(スマウト)」に登録している。18年にサービスを始め、今年5月の新規登録者は最多の1千人以上。6月はさらに上回る勢いで、計1万5千人に達した。広報担当の梶陽子さんは「特に広告を出したわけでもなく、地方移住に関心が高まっているのでは」とみる。

自宅でパソコンを使う積姫南杏さん=本人提供
自宅でパソコンを使う積姫南杏さん=本人提供

社長自ら新潟へ「どこに住んでも支障ない」

新型コロナをきっかけに地方へ移住する企業のトップもいる。ソフトウェア開発会社「フラー」(千葉県柏市)の渋谷修太社長(31)は6月初め、出身地の新潟県に移住した。

同社は従業員約100人のうち約80人が千葉の本社、約20人が新潟オフィスに勤務する。本社を千葉に置いたのは、首都圏の取引先との打ち合わせが多かったからだが、4月以降ほとんどテレビ会議になった。全社で在宅勤務に切り替えるなか、「どこに住んでも支障ないとわかった」という。今は顔を合わせる必要がある時だけ、千葉の本社に出社する。

移住先の新潟は「ご飯はおいしいし、物価が安くて快適」。仕事の途中に海を見て気分転換することもあり、「日に日に元気になっていると実感する」。

移動時間がなくなった分、打ち合わせや会議の件数が以前より増えた。そのせいで「ずっとしゃべりっぱなしで声が枯れた」。やや出無精になったと感じるが、利点が上回るという。

フラーの新潟支社=同社ホームページより
フラーの新潟支社=同社ホームページより

働き方への意識に変化

就職情報会社「学情」が4月24日~5月1日に行った調査によると、20代の回答者の36%が地方への転職を希望し、2月より14ポイント増えた。「地元に帰りたい」「都市部で働くリスクを感じた」などの理由が多い一方で、「テレワークで場所を選ばず仕事ができると分かった」も目立ち、働き方への意識に変化が生じているとみられる。

慶応大大学院の鶴光太郎教授(比較制度分析)は「テレワークの流れは不可逆的。遠隔でのコミュニケーションが拡大すれば、大都市の企業に勤めながら居住は地方といった地方活性化が始まるだろう」と話す。

カヤックLivingのオンライン移住ツアー。静岡県熱海市からのネット中継を230人以上が視聴し、動画投稿サイトの録画は3千回近く視聴された=2020年3月4日、同社提供
カヤックLivingのオンライン移住ツアー。静岡県熱海市からのネット中継を230人以上が視聴し、動画投稿サイトの録画は3千回近く視聴された=2020年3月4日、同社提供

行政もオンラインで支援

地方回帰の流れの中、移住先をオンラインで紹介する取り組みが各地で開かれている。

長野県中野市は5月、移住希望者向けに、テレビ会議システム「Zoom(ズーム)」を使って市職員が市内を案内する「オンライン型オーダーメイド見学ツアー」を始めた。市内の保育・教育施設、空き家の物件、先輩移住者などを希望に応じて紹介する。1週間前までに申し込めば無料で利用できる。

ツアーに参加し、ブドウ農園などを見学した永井寛(ひろし)さん(28)は、6月初めに愛知県から移住した。「役所の手厚い態勢が移住の決め手になった」と話した。

山口県周防大島町のまちづくり団体「LOCONECT(ロコネクト)」代表の泉谷(いずたに)勝敏さん(46)は5月末、オンラインの移住フェアを企画。ネット上で38道府県の138団体が参加し、移住を考える170人余りが相談した。総務省の地域力創造アドバイザーも務める泉谷さんは「働き方や都市での生活に疑問を感じ、移住を考える人が今後も増えるのでは」とみる。今秋に2回目のフェアも計画する。

カヤック社もズームを使った「オンライン移住ツアー」を3月から順次開催。6月26、27日には「移住フェス」を開き、73地域をまとめて情報発信した。

地方移住を支援するNPO法人「ふるさと回帰支援センター」(東京都)の嵩(かさみ)和雄副事務局長は「働き方改革と絡めて、地方に住みながらの在宅勤務が広く認められるようになれば、移住に踏み出せなかった人の背中を押すのではないか」と話す。

オンライン見学ツアーで、タブレット端末越しに移住希望者に話すブドウ農家の関良祐さん(左、2020年5月21日、長野県中野市提供)
オンライン見学ツアーで、タブレット端末越しに移住希望者に話すブドウ農家の関良祐さん(左、2020年5月21日、長野県中野市提供)
 

新型コロナウイルスによって、私たちの生活や経済は大きく変わろうとしています。未曽有の事態は、コロナウイルスが消えた後も、変化を受け入れ続けなければいけないことを刻み込みました。守るべきもの、変えるべきものは何か。かつてない状況から「withコロナの時代」に求められる価値について考えます。

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