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「恋愛感情を抱かないのが条件」能町みね子さん、大成功の結婚生活
文筆家の能町みね子さん(40)は、30代半ばで「私には恋愛を楽しめない」との結論に至り、その後、ゲイの男性と「恋愛感情抜きの結婚生活」を送っています。2年ほど暮らした感想は「今のところ大成功」だそう。様々な生き方が認められつつあるとはいえ、恋愛や結婚の場面では古い価値観が根強いものです。「もっと気軽に結婚、離婚すればいいんじゃないかな」という境地に達したという能町さんに、現在の「結婚生活」を聞きました。(朝日新聞記者・高野真吾)
――朝のラジオ出演お疲れ様でした。昨年末に出版した『結婚の奴』(平凡社)で「夫(仮)」と表現したゲイライターのサムソン高橋さんと暮らす家からの出発でしたか?
「そうです。すごく早く家を出るので、昨晩、サムソンさんが朝食用におにぎりと目玉焼きを作ってくれていました」
――うれしい気遣いですね。2人の間に恋愛感情がないとすると、先月のバレンタインでチョコを渡すとかは当然なしで……
「それが、渡しているんです。他の人の分と合わせてですが、14日に都内の百貨店に買いに行きました。半分ぐらいは自分で食べたい気持ちで、お祭りみたいなノリですが。5個入りで、1500円ぐらいしましたかね。その日に家で『バレンタインだから買ってきたよ。結構高かった』と渡しました」
――サムソンさんは、喜びましたか?
「反応は『ああ~』でした(笑)。さらに食べた後、『味はそんなでもないよね』とも。でも、私も食べて、思っていたほど美味しくないなと感じたので同じ感想でしたね」
――今月14日のホワイトデーのお礼は
「私の誕生日が近いので、特に要求していないです。誕生日には割と豪華なパフェを一緒に食べにいくことにしています」
――とても仲良しの関係に見えます。恋愛感情なく、肉体関係もなく、入籍せずの「結婚」です。ともすると「仮面夫婦」になってしまうから、あえて盛り上げているのでしょうか。
「そういう意識はないです。誕生日に何かする、チョコを渡すという型どおりにやるのが面白い。恋愛関係でもないのに、そういうのをやっている方が自分も盛り上がります」
――以前はこうしたイベントに対する向き合い方が違っていたようです
「20代前半のころは、自分が楽しむのではなく、相手に『彼女として』どう思われるのかを気にしていました。イベントは、付き合っているから、やらなきゃいけないもの。だから、クリスマスにはプレゼントを買っていたし、バレンタインのチョコは手作りしなきゃダメだと思い込んでいました」
――書籍で「みんなが楽しんでいることになっている恋愛というやつを、そもそも楽しめない私のような人もいるのだ」と30代半ばで悟ったとの記述があります。
「恋愛は他の人がするので、私もやっていたという感じでした。ですが、恋愛らしきことをしても、あまり楽しめたことはなかった。話が合わないのにデートしたり。恋愛の色々なことが好きになれなかった」
――37歳の初夏に「結婚について考えるブーム」が起こります。一人暮らしで荒れた自室に嫌気がさし、仕事がはかどらずに深夜、気持ちが落ちることなどが原因でした。「結婚生活」で狙い通りに諸問題は解決されましたか?
「サムソンさんが自宅の掃除はしてくれ、部屋は快適です。家に帰れば彼がいるので、1人で変に考え込んだり、暗い気持ちになったりすることもなくなりました。仕事に使える時間も増えました」
――食生活も改善されましたか?
「昔は、家で料理をすることは皆無で、魚を食べることもなかった。今は週の半分以上は家で、向こうが準備した料理を一緒に食べています」
――「結婚」プロジェクトはうまくいっていると
「今のところは大成功と言っていい。1人でいる状態は、何か、生活が途中っぽい感じでした。私は22歳から33歳まで、大家さんが下に住んでいる古いアパートにいて、大家さんと同居している感じがうっすらありましたが、引っ越して完全に1人になると、自分だけのことだから生活がどうでもよくなってしまった」
「起きたらなるべく早く部屋を出て、なるべく色々なところを回り、なるべく遅く帰って寝るだけにする。家が落ち着く場所ではなかった。部屋も全然片付かず、片付かないまま次のところに引っ越す生活を続けました」
「こうしたことが解消され、ここが家だという感覚が深まってきました。精神的に落ち着きました」
――しばらくは、今の「結婚生活」を続けるのでしょうか?
「そうですね。今のところはやめる理由がないので。考え直すことがあったら、お互いが大きな病気になった時とかかもしれないですね」
――お互いに好きな人ができた時には
「それはその時に考えますが、お互いに可能性を考えられません。私は先ほど言ったように恋愛を楽しめないし、サムソンさんも、です。最近、猫を飼い始めました。私はむちゃくちゃ可愛いと感じていて、この気持ちが自分の母性だと思うほど。ところが、向こうはビジュアルとしては可愛いと思っているけど、愛情的なものを抱いていない。あの人が誰かをすごく好きでたまらないとなるのは、想像できないです」
――こうした「結婚生活」を他の人にも勧めますか?
「勧めますね。1人で満足している人にはしませんが、話が合うだけの人と、恋愛関係の発展じゃなく、結婚できればいい。もっと気軽に結婚、離婚すればいいんじゃないかな」
――恋愛結婚は、自分の感情に素直に従った結果と言えます。しかし、能町さんがしている『結婚』だと恋愛要素がない分、相手を見極める選択眼がシビアそうです。
「私はそうではない気がします。サムソンさんと友達として話が通じたのは、オプションとしては大きい。けれども、お互いに恋愛感情を抱かないのが最低条件なので、他の人にもできそうですけど」
――「結婚」だからと言って、変にハードルを上げるなと
「結婚というと普通に恋愛し、同居しているかのように見えますが、私の周りでは特殊な形態を取っている人も多いです」
「10年以上前、当時25、26歳の東大卒の男性が、専業主夫をしていました。奥さんの方が仕事ができるとか、で。夫婦で同じマンションの隣の部屋に住んでいる人たちもいる。単身赴任でなく、旦那さんが遠方にいて、奥さんが東京住まいという完全別居もある。女性から男性になったトランスジェンダーが相方になっているカップルで、精子を提供されて産んだ子どもを育てている夫婦も2組知っています」
「皆、楽しそうにしています。みんな公に言っていないだけで、実は色々な結婚をしているのです」
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