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コロナウイルス「中国で最も有名な日本人」が身をもって伝えたこと
中国で新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、世界各国から中国へ支援物資が届いています。その中でも、隣国である日本は現地のSNSで特別な存在になっています。日本から届いた支援物資の箱に漢文のメッセージが書かれていたり、友好都市を結んでいる町が素早く支援物資の調達に動いたり。「中国で一番有名な日本人」と言われている俳優の行動には「日本を見る目が変わりました」「日本もすぐ花粉の季節なので、マスクはぜひ自分たちのためにも残してね」など優しさの輪が広がっています。
「山川異域、風月同天(シャン・チュアン・イー・ユー、フン・ユエー・トン・ティアン/
私たちが暮らしている場所、山や川などが違いますが、同じ風を受け、同じ月を見て生きています)」
「岂曰無衣?与子同裳(チー・ユエー・ウー・イー?ユー・ズー・トン・サン/衣服がないというの?私の服はあなたの服だよ)」
中国へ送る支援物資には、このような漢文が書かれ、中国のSNSで話題になりました。
「山川異域、風月同天」は鑑真和上ゆかりの言葉で、このメッセージに心を動かされた鑑真が来日を決めたと伝えられています。中国語検定「HSK」の事務局が1月下旬から中国湖北省の大学へ送った支援物資に書かれていました。
「岂曰無衣?与子同裳」は中国の『詩経』に収録された詩の一節で、「肩を並べて一緒に戦う」意味が含まれています。海外の民営企業が日本で活躍しているNPO「仁心会」を経由し、在日本の湖北省商会の協力を得て、中国へ送った医療物資に書かれたものです。
2月11日に、京都舞鶴市が友好都市である大連市へ送った救援物資に、「青山一道同雲雨、明月何曾是両郷」(チン・シャン・イー・ドウ・トン・ユン・ユー、ミン・ユエ-・ホー・ツン・シー・リャン・シャン/青山がつながり同じ風雨を受け、頭上の明月も一緒のため、違うところ身を置くことを感じていない)を添えました。詩の出所は唐代詩人の王昌齢(ワン・チャンリン)が書いた『送柴侍御』です。
このように、支援物資は主に日本の友好団体、姉妹都市、華人華僑の団体、日本で物資を購入した海外企業から、提携都市/団体、そして感染状況が厳しい地域に送られたもので、「応援しています、そばにいます」などの意味が込められていました。
中国には現在、世界中から支援の物資などが届いていますが、同じ漢字圏である日本からのメッセージは人々の心に刺さったようです。微博では、漢文への感謝を示す書き込みが相次ぎました。
「日本人の文学的素養が高いです」
「正直に言うと、最近日本からの援助は素晴らしいと心から思うものが多いです。ナイス!」
「今年学んだ新しい漢詩は全部日本人が教えてくれた…」
「善意だけでなく、力強いでありながら、ロマンチックさも感じます。」
「感謝です!今回の肺炎が収まったら、また日本に行きます。たくさんショッピングします!」
「将来、機会があれば、日本の優しい人々に、直接感謝の意を伝えたいです」
「同じ漢字文化圏だからこそ、共鳴が多いですね」
日本と中国は、政府レベルでは緊張関係になることもありますが、長く友好都市を結んでいる地方都市は少なくありません。
新型コロナウイルスという危機に対して、日本の友好都市は素早く立ち上がりました。
大分市はいち早く武漢市へマスク3万個を送り、その後も日本政府のチャーター機を利用し、防護服や防護ゴーグルを送りました。
広島県と広島市が、四川省と重慶市へ合計10万個のマスク、そして防護服などを送りました。
阪神大震災の時に中国広東省と海南省の寄付を受けた兵庫県が、100万枚のマスクを寄付しました。
在中国の日本大使館の2月6日に更新された統計によると、少なくとも60組の友好都市が、支援物資を送ったそうです。
政府よりも身近な交流を続けてきた間柄に、ネット上では「日本は礼儀正しく、いい国です」「心より感謝です」などの声があがっています。
「中国で最も有名な日本人」と呼ばれる、俳優の矢野浩二さんも立ち上がりました。
矢野さんは中国で20年近く過ごし、現地のドラマに多数出演しています。人気テレビ番組の「天天向上」のレギュラーMCをつとめ、「天天兄弟」の一人として絶大な知名度があります。
中国語が堪能で、2009年には微博のアカウントを開設。フォロワー数は木村拓哉さんの189万人よりも多い、450万人を超えています。
1月23日に武漢が「封鎖」されたことを知った矢野さんは、マスクの支援に動きました。
矢野さん自身がイメージキャラクターを務める美容機器メーカーのビューティフルエンジェルの協力を得て、13万枚のマスクを中国へ送りました。
微博では「矢野浩二が13万枚のマスクを贈った」というハッシュタグが作られ、3.7億のページビューと3.4万以上のコメントが集まっています。
矢野さんの微博では、5万件以上のコメントが寄せられています。
「矢野さん、ありがとう!!感謝しています。」
「日本もすぐ花粉の季節なので、マスクはぜひ自分たちのためにも残してね」
「浩二兄さん、新年快楽!あなたの善意を心に銘じるよ」
「超素晴らしい!あなたの行動に感謝します」
「感謝します。本当に素敵。ご自身もお体を大事にして」
「中国のために動いてくれたことに感謝しています」
「もし日本人がみんな浩二さんのようだったら、日中関係はよくなりますよ。日本を見るを目が変わりました」
矢野さんにマスクを送ったことについて「地球人が地球人を助けること」と話します。
「20年近く中国に住んで、俳優として、多くの人に助けられて、応援してもらい、日本でも俳優活動できるようになりました。僕にとって中国なくして、矢野浩二は存在しない、そのぐらいの思いがあります。」
浙江省出身の筆者が母とビデオチャットをしていた時のこと。画面越しにこんな会話が自然に出てきました。
「あるシーイェという日本人はね、13万枚のマスクを中国に送てくれたんだ。とてもいい人だ」
「シーイェ」は「矢野」、つまり矢野浩二さんのことです。
母と話しながら取材で聞いた矢野さんの言葉を思い出しました。
「近い将来、日本には地震や台風などの災害が必ずきます。その時に中国の助けが必要になるかもしれません。困難の前にはお互い様です」
2008年に起きた四川大地震の時、日本は救援隊を派遣しました。2011年の東日本大地震の際は、中国から多くの救援物資が届きました。そして、2020年に起きた新型コロナウイルスでは、日本が援助に動いています。
大きな災難には隣同士が助け合う。困難な時ほど、その大切さを忘れないでいたいと思います。
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