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「友人に恋愛感情を抱いた」20代でレズビアンと気づいてからの日々
「友人に触れたいと思った」NPO法人 東京レインボープライドの営業部門長をしている吉村美音さんは、20代前半に自分がレズビアンであることを認識しました。その時は異性の恋人もいる状況。長く親にも友人にも言えずに苦しみました。「悩むかもしれないが、悲観的にならないでほしい」。そう訴える吉村さんと「性のグラデーション」について考えます。(ライター・大岩眞己)
「私は今、恋愛感情を彼女に抱いている。付き合っている彼氏よりも楽しい」
それまで異性の恋人もいて、学生の頃はむしろ、「そういう人たち(LGBTQ)は理解できない」とさえ思っていたといいます。「自分の感情の変化に悩んだ」と明かします。
「私はこの人だけが好きなのか、女性が恋愛対象として好きなのか」
吉村さんはネットの掲示板を通じ、レズビアンやバイセクシュアルの人と実際に会い、そこで出会った人に恋愛感情が抱けるのかを確認してみようと決意します。そして自分が女性に対して恋愛ができることに気づきました。
「私の中にこれまで女性(同性)を好きになるという『認識がなかった』自分の中の認識、領域が広がっただけ」
そう結論づけました。
自分がレズビアンだと気付いた時、家族や友人たちは吉村さんに彼氏がいたことを知っていました。
「今までの信頼を崩してしまうのでは?」
グラデーションで変わった性を、「恋愛対象が変わりました」とカミングアウトするのには迷いが生まれたそうです。パートナーとの日常の話でも、聞いている人が勝手に「彼氏の話」と思い込み「ちょっと変わった彼氏だね」と会話が食い違ってしまうこともありました。
実際、カミングアウトしていない人や、自分の中でもあいまいな人は、同性のパートナーの話でも異性と付き合っている風に話している人も少なくありません。
それでは、友人や信頼している人にうそをつき続けることになります。吉村さんの中で、LGBTQの当事者であることを明かさない日々はとても苦しく、心の負担になっていました。
吉村さんがカミングアウトしたのは、転職して入った今の会社(freee株式会社)で自己紹介をした時でした。様々なことを「あえて共有する」という考えがあったため、新しい場で、信頼が積み重なる前に言うことを決意しました。
両親には、レズビアンだとは伝えていませんが、男性とは付き合わないと話し、パートナーも紹介しています。しかし、「しっかりと受け止めるにはまだ時間がかかりそう」と話します。
途中からLだと気づいた吉村さんですが、「性はグラデーションで、もしかしたら将来男性と付き合っているかもしれない、未来は何があるのかわからない」と話します。
「自分がLGBTQだと気づくきっかけは、誰かを好きになったタイミングだった。同じ経験をした人には、その気持ちは素敵なことで、悪いことではないと思ってほしい」
狭い世界の中で周りにLGBTQの人がいないと、自分だけが異分子なのではと思ってしまうかもしれません。でも今は、吉村さんのように、インターネットなどを使えば悩みを共有したり、出会いを広げることができます。
「同じような考え、価値観の人と話してほしい。悩んでいるのはあなたひとりではない。自分は変じゃないと思ってほしい」
自分がLGBTQだと気づいたばかりの人には「悩まないでなんて言えない。悩むかもしれないが悲観的にならないでほしい」と呼びかけます。
「私は今、NPO 法人でLGBTQイベント『東京レインボープライド』の運営に携わっていますが、LGBTQに限らず『すべての人が個性を認め合い、自分らしく生きられる多様な社会になってほしい』という想いでやっています。それは、メンバー全員が同じ思いでやっていて、皆さんの未来が明るい方向へ向かうために今、先輩たちが頑張っているので、悲観的にはならず、一緒に楽しい世の中をつくっていきましょう」
吉村さんは現在、毎年ゴールデンウィーク期間に行われるアジア最大級のLGBTQイベント「東京レインボープライド」の営業局で、イベントに参加していただける協賛企業を集める活動をしています。世界のプライドパレード(「セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)のパレード」を指すもの)を見ることが好きだったり、レズビアン向けのアプリに関わっていたりした縁から、知り合いに誘われ、参加者から運営者に回りました。
活動を通じて気づいたのは、企業やストレートの人が「自分たちの行動や何げない一言が傷つけているのではないか」と必要以上に心配しているという現実でした。
「怖い、わからない存在と感じていて、変に気を遣われてしまっていることを知りました」
イベントに実際に参加してLGBTQ当事者も、アライ(賛同者)も一緒にいる空間の中で、「本当に身近にいる存在なんだ」「私たちと変わらないんだ」と実感してくれたそうです。
「その言葉を聞いたり、ロゴマークをLGBTQを表すレインボーに変えてくれる。今までの見えない未知の存在から、遠い存在じゃないと認識を変えてくれた。受け入れられているという実感がわきます」
「レズビアン同士というだけで恋愛関係が必ずしも生まれるわけではない」
吉村さんの言葉を聞き、ストレートの人にとっても、ただの異性の友人というだけで全員恋愛に発展するわけではないという当たり前のことに、あらためて気づきました。
LGBTQだからストレートだからというのは、恋愛対象の違いだけで、人との関わり方は同じなはずです。そして、今の自分の性が変わることだって普通にあり得る。
大人になってからレズビアンだと気づいた吉村さんだからこそ伝えられる、強いメッセージでした。
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