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連載

#2 クジラと私

捕鯨は残酷? ノルウェーの船上解体で目の当たりにした「行為」

記者が乗船した捕鯨船が捕ったミンククジラ=2019年7月27日、ノルウェー領スバールバル諸島沖
記者が乗船した捕鯨船が捕ったミンククジラ=2019年7月27日、ノルウェー領スバールバル諸島沖

目次

クジラを殺し、食べることはなぜ「残酷」と言われてしまうのでしょう? クジラにまつわる疑問の根っこを探るため、捕鯨船に乗り込んで挑んだ密着取材。そうして訪れた初めての捕獲、目の前で進む解体。たしかに激しい……。でも、私の心に生まれたのは「残酷」とは少し違う気持ちでした。日本が31年ぶりに商業捕鯨を再開した今年の夏、ノルウェーの捕鯨船から「命を食べて生きる」ことについて考えました。
(朝日新聞記者・初見翔)

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クジラを追って

突然の幸運

ノルウェーの捕鯨船に乗れたのはいまでも驚くほどの偶然でした。国内の捕鯨船に乗ろうとしましたが、見つからない。そこで海外でも、と探していたところ、ノルウェーの捕鯨会社に日本法人があるという話を聞きました。

さっそくホームページを探して電話したところ、「ちょうどあさってからノルウェーに行って船に乗るところですよ。もし同行できるなら乗せられるかもしれない」と。あわてて航空券を手配して、防寒着を買いに走りました。

乗せてくれることになったのは、ノルウェー最大の捕鯨会社「ミクロブスト・バルプロダクタ・エーエス」の捕鯨船KATO(カトー号)です。日本法人ミクロブストジャパンの志水浩彦社長(43)が、私が乗れるよう、現地の船長と話をつけてくれました。

志水さんはカトー号が捕った鯨肉を日本に輸入して販売するのが仕事で、自分が売る肉の生産現場を確認するため、毎年ノルウェーに行って船に乗っているといいます。

乗船した捕鯨船「カトー号」=2019年7月21日、ノルウェー・オーレスン
乗船した捕鯨船「カトー号」=2019年7月21日、ノルウェー・オーレスン

出航7日目で初捕獲

7月下旬、ノルウェー西部の港町オーレスンから船に乗りました。カトー号は全長38メートル、幅8メートル。捕鯨船と聞いてイメージしていたよりも少し小ぶりに感じます。でも、ノルウェーの捕鯨船の中では大きいほうなのだそうです。

乗組員はわたしたち日本人をのぞいて11人。クジラは船上で解体し、肉を船内で冷凍保管できるため、一度海に出ると最低2週間は陸に戻りません。私は2段ベッドの置かれた小さな2人部屋を、ノルウェー人乗組員と共有することになりました。

初めてクジラを捕獲したのは出航7日目の夜でした。夜と言っても夏の北極圏なので一日中明るい白夜です。クジラをみつけてから20分ほどかけて追いつき、船首に取りつけられた捕鯨砲で仕留めます。

その名の通り、大砲でもりを撃ち込むのですが、衝撃はすさまじく、船全体に鋭い振動が走ります。ロープのついたもりは、クジラの体を貫通。たいていは即死しますが、このときは死ぬまで少しかかりました。

捕鯨砲を撃つ、カトー号のダグ・ミクロブスト船長=2019年7月28日、ノルウェー領スバールバル諸島沖
捕鯨砲を撃つ、カトー号のダグ・ミクロブスト船長=2019年7月28日、ノルウェー領スバールバル諸島沖

船上で解体、生暖かい肉を食べる

死んだクジラは船上に引き上げられ、すぐに解体されます。血抜きのために首もとに包丁を入れると、勢いよく血が流れ出ます。解体が進むと内蔵もあらわになりました。

背肉や腹肉など、大きな塊に切り分けられると、船内の加工場に運び込まれ、細かく切り分けられてから冷凍されます。クジラは私たちと同じ恒温動物なので解体中の肉からは湯気も上がっていました。

私はもともと、捕鯨に賛成でもなければ反対でもありません。鯨肉を食べることにも抵抗はありませんでした。ただ、今回取材するにあたってひとつ不安なことがありました。クジラが殺され解体される現場を見たら、鯨肉を食べられなくなってしまうのではないか――。

それは取り越し苦労でした。死んで静かに目を閉じるクジラの様子は神々しくさえ感じました。解体作業中の乗組員が肉を一切れ分けてくれたとき。まだ生暖かい肉を口に入れると、全く臭みはなく、上質な脂を感じます。私は「命を食べて生きている」という思いを深くしました。

捕獲したミンククジラの肉の処理が進む、カトー号船内の加工場=2019年7月27日、ノルウェー領スバールバル諸島沖
捕獲したミンククジラの肉の処理が進む、カトー号船内の加工場=2019年7月27日、ノルウェー領スバールバル諸島沖

残酷? それとも……

同じ現場を見て、「残酷だ」「耐えられない」と感じる人がいることを否定するつもりはありません。鯨肉を食べるか食べないかは個人が選べばいいことだと思います。

ただ、こんなことも考えました。クジラは巨大だし、障害物のない海だから、殺しているところは、見ようと思えば見えてしまう。私たちは牛や豚などの家畜が殺される現場を見ることはまずできません。だからこそクジラばかり残酷さが強調されてしまうのではないか。

そして、それは、先に私が述べた「命を食べて生きている」ことを実感しやすい食べ物であることの裏腹でもあると思うのです。

 
【連載:クジラと私】クジラを食べられなくなったら困りますか?平成生まれの私はこれまで、「困らない」と思ってきました。でも、今その考えは変わりつつあります。この夏、ノルウェーの捕鯨船に乗った記者が、捕鯨をめぐるあれこれを発信していきます。

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