地元
サーフィンできて幕府もある、全国で唯一「自虐」を知らない県の実力
「東京コンプレックス以外は全部そろっている」。そんな全国唯一の県が神奈川です。「埼玉の人たちって、強烈にコンプレックスがあって、それで逆に元気じゃないですか? 神奈川の人って、そういうのがないんですよ」。そんな神奈川ならではの県民性について、テレビ神奈川(tvk)の看板番組「キンシオ」「関内デビル」に出演するキン・シオタニさんと、大場英治さんが語り尽くしました。
「キンシオ」は2010年にスタートしたイラストレーター、キン・シオタニさんの冠番組です。「県境を行く」「海岸線を行く」などの企画で、神奈川各地をくまなく巡ってきました。「関内デビル」は20年間放送されていた音楽バラエティーの後継として2年前にスタート。関内にある喫茶店という設定で、菊谷宏樹ディレクターが店のオーナー、「大場英治」として出演しています。東京都出身ですが、神奈川にはまってしまった2人に、「神奈川愛」を語っていただきました(菊谷ディレクターは「大場英治」として話していただいています)。
--キンさんの経歴を見ると、元々神奈川とはかかわりないですよね?
キン・シオタニさん(以下、キン)「全然ないです。吉祥寺に長いこと住んでいて、神奈川とのかかわりは10年前にテレビ神奈川さんで番組がスタートしてからです」
大場英治さん(以下、大場) 「俺も吉祥寺、三鷹でずっと生まれ育ったので、こっちに来るまで神奈川のことはほとんど知らなかったです。うちの親父が大洋ホエールズ(現・横浜DeNAベイスターズ)のファンだったんで、川崎球場とかには連れて行かれてましたけど。キンさんと一緒で、こっちで番組やるようになって、『神奈川って、こんなでけえんだ』って改めて知りました」
キン 「僕にとって神奈川のイメージって、それまでは横浜か鎌倉しかなかったんです。異国情緒のただよう横浜と古都鎌倉。ある意味、東京都民が唯一憧れるところですよね。番組が始まって神奈川県を知ろうと思って、『県境を行く』『海岸線を行く』という企画をやって、神奈川を一周しました。そのときに横浜、鎌倉以外の神奈川の良さを知ったんです。
東京で海があるといっても、お台場のほうに少しある程度ですよね? 神奈川ではサーフィンもできるようなすごい海がある。山も1000mを超えるような山がある。神奈川の広さと深さを知って、いっぺんに好きになりました。
でも、地元の人に『ここって、こんなにいいところなんですよ』と言っても、なかなか気づかないことが多くて。おこがましいけど、よそものの僕がアピールというか、盛り上げたいと思っています」
――神奈川に魅力を感じるようになった、きっかけのような場所はあるんですか?
キン 「横浜、鎌倉以外で『神奈川おもしろいな』と思ったのは、境川との出会いなんです。町田市と相模原市のところは、武蔵と相模の境なんですよ。昔は暴れ川と言われて本当に蛇行していて、それが境になっていた。川を改修してまっすぐになったけど、県境はそのまま。だから川の向こうとこっちに町田が飛び地になっていたりするんです」
大場 「境川、おもしろいよね。横浜市と市外との境目を通っているんで、大和市とか相模原市とか、横浜市じゃない側からの横浜側を見る目がおもしろい。『なんでこれしか離れていないのに、俺たちは横浜じゃねーんだよ』『なんで俺たち《045》じゃねーんだよ』って。
俺、吉祥寺とか三鷹とかに住んでいたころは、東京23区を敵視していたんですよ。吉祥寺とか井の頭通りとか、『最前線』なんで。電話番号が《03》になった瞬間、敵だと思っていた(笑)」
キン 「三鷹市の形って、神奈川に似ているんですよ」
大場 「ああ、似てるよね(笑) 真ん中ちょっと細まってますね」
キン 「この大場先輩は地元が一緒なんで、『中央線沿線の僕たちから見た横浜、神奈川』っていう、そこら辺のマインドが共通なんですよ。《0422》と《03》との壁のところが、言わないでも根底としてある。これが田園調布出身の人と話したら、全然ちがう雰囲気になると思うんです」
大場 「俺もう20年ぐらい横浜に住んでいるんだけど、47都道府県の中で、東京に対して一番憧れが少ないのは神奈川の人だと思う。特に横浜の人はいい意味で、しれーっとしている。横浜のことをバカにする人は、全国でもまずいないじゃないですか?
そうそう、ついに俺、横浜市歌が歌えるようになっちゃって。二十何年間、まったく覚える気なかったんですけど、今年になって口ずさめるようになっちゃって…恐ろしいことですよ。横浜マジックです(笑)」
キン 「横浜だって160年ぐらい前は、ただの横に長い浜で80軒しか家がなかったのが、今では375万人。日本が開港して以来、そこまで発展してきた。馬車道駅から降りて、tvkまで歩いてくる途中は、20世紀初めにつくられたような建物ばっかりじゃないですか? 横浜の人たちは、今もそれを大事にしていますよね。歴史に対するリスペクトが、横浜には特にあると思うんです」
キン 「東海道を京都までずっと行っても、江戸時代と同じ風景が一番残っているのは箱根、つまり神奈川なんですよ。昔の杉並木がまんま残っていて、『ああ、カゴ持って通ったのは、ここなんだろうなあ』と」
大場 「神奈川はないものがないんじゃないですか? 都会あり、田舎あり、市町村も全部あり、昔は幕府もあったわけでしょ? ないもののほうがないぐらいバラエティー豊か。東京まで行っちゃうと、だいぶなくなっちゃうものがあるけど、神奈川には、未だに残っている」
キン 「そうです。こここそが日本の縮図ですよ。…って俺、どこでも言ってるけど(笑)」
大場 「特異なおもしろい場所だと思うんですよね、神奈川って」
キン 「…であり、そこに住んでいる人たちがそこまで気づいていない気がします」
大場 「いい意味でも悪い意味でも、すごく恵まれている。こういっちゃなんだけど、埼玉の人たちって、強烈にコンプレックスがあって、それで逆に元気じゃないですか? 神奈川の人って、そういうのがないんですよ」
キン 「自虐ネタ、ないですもんね」
大場 「神奈川に唯一ないものがあるとすれば、東京への強烈なコンプレックス。それ以外は全部そろっているんじゃないですか?」
キン 「僕たちの場合、23区じゃないということに、なんかしらのものがあったけど、横浜の人はない。横浜の人は横浜すごい好きだなって」
大場 「地元のこと、普通にみんな好きなんですよ。大阪の人だって『大阪は一番やで』と言っている。でも『東京にはかなわないかもしれないけど』と思っている人がいて、『でも負けないぞ』って。そういうのが楽しいじゃないですか。横浜の人は、たぶんそういうのが非常に少ないと思うんですよね」
キン 「なるほど、もしかしたらハングリー精神がないから打たれ弱いのかもしれない。そういう仮説もちょっと確認してみたいですね」
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— 『キンシオ』&『関内デビル』神奈川魅力発見サミット【公式】 (@kin_devil_tvk) July 24, 2019
キン 「『キンシオ』を10年やって、神奈川のことを凄い知りました。いまはいろんな地域で放映してもらっているので、神奈川だけをとりあげることはなくなりましたが、これまで知った集大成を出したいと思い、イベントを企画しています。いつも暮らしている人たちにとっては当たり前でも、他ではそうではないということって、あるじゃないですか? みなさまの知らない神奈川を、よそものと半分よそものが語ります。そういうイベントですね」
大場 「言われたら何でもやりますよ、犯罪以外なら(笑)」
――イベント名は「tvk『キンシオ』&『関内デビル』神奈川魅力発見サミット」です
大場 「イベントのタイトルをつけるときに、『横浜』『川崎』というのはたくさんあるんだけど、『神奈川』というくくりでやるのは、珍しいし、そこに魅力を感じますね。たぶん、キンさんとかしかやれないと思うし。
俺とキンさん、性格は真逆だと思うんですよね。この人、人の話全然聴いていないと思う。俺の話もだけど、取材先で質問しとして、その話も聴いていない(笑)。
キンさんが見た町で俺が全く同じものを見ても、俺が思うことは違うだろうし、お客さんも違うことを思うだろうし、いろんな違うタイプの人が見た神奈川の感想だけでも、やっぱりおもしろい。仰々しいものをするんじゃなくって、神奈川県民ホールで主に神奈川県民を集めて、主に神奈川のことをやるという『トリプル神奈川攻撃』(笑)みたいな。
tvkでそんなイベント、たぶんやったことないんじゃないかな。神奈川、広すぎんですよ。扱うジャンルが多すぎて1回のイベントじゃ手に負えなかったんじゃないですかね」
キン 「楽しみだな。ネタがなくて困るわけじゃなくて、ありすぎて困る。鎌倉の人は『横浜よりも鎌倉だ』と思っているかもしれない。川崎はタテに長くて、海沿いと百合が丘の辺りじゃ全然違う。清川村という村もあるし、人口375万人の横浜市もある。そこらへんの広さと深さを掘れたらなあ、と思っています。とりあえず全部のことに触れてみたいんですよね。最後10分ぐらいになったら、もう地名を朗読するだけになっちゃうかもしれないけど(笑)」
大場 「神奈川県民に来てもらいたいのはもちろんですが、神奈川に昔住んでいた人、都内で住んでいて、神奈川に仕事に来ている人にもきてほしいですね。多摩川を超えるときは手形を持ってきてもらおうか(笑)」
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