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#10 #withyou 悩み相談

学校での「仮面」は脱がなくていい 平野啓一郎さんの「分人構成図」

 ©︎根本清佳、前田真由美(innovation team dot)
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目次

【8/26無料イベント開催】しんどい子が安心できる「居場所」を考えます

「学校での『仮面』を脱いで楽になりたい――」。西日本在住の15歳の男性から寄せられた悩みに、作家の平野啓一郎さんは「対人関係ごとの自分は全て、本当の自分だと考えたらいいと思います」と答えます。小さい頃から周囲と考え方が違っていたという平野さんに、かぶらざるをえない「仮面」との付き合い方を聞きました。
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《著名人や専門家が「10代の悩み」に答えるシリーズです。平野さんに答えていただく悩みはこちらです。》
悩み

 

 中学2年生のときに、自分より成績の低い友達を「あおって」しまい、疎まれ、1年間くらい遊びに誘われなくなった経験があります。それからは、成績が上がっても、何も言わないようにしています。いろんな場面で「こういうときにはこういった方がうまくいく」と考えながら行動しています。
そんな自分は、学校で「仮面」をかぶっていると感じています。しんどいしむなしいです。本当の自分は、誰にも気を使わない家での自分。関係を円滑にするための「仮面」に納得していますが、仮面を脱いだ方が楽になれるのかなと思うこともあります。でも、これまでの関係が崩れてしまうのではないかと怖いです。
(西日本 高校生男子 15歳)

 

悩みを寄せてくれた西日本在住の15歳男性
悩みを寄せてくれた西日本在住の15歳男性

対人関係ごとの自分はすべて「本当の自分」

 僕は、「自分」は複数の人格の集合体と考えていて、その一つ一つの人格を「分人」と呼んでいます。
 人には、様々な人と接する多様なコミュニティーがありますが、「どこかに本当の自分がいて、(あるコミュニティーでは)ウソの自分を演じている」と考えるのではなく、対人関係ごとの自分は全て、本当の自分だと考えたらいいと思います。
 学校での「分人」もいると思いますが、それは必ずしも演技しているだけではなく、相手との関係の中で、そういう自分になっているということだと思います。そこで少しずつ自分の考えを言うのも大事だと思いますが、その状況を変えられないのであれば、「別の場所でなら、違う自分になれる」と考えた方がいいと思います。

 

イヤな気持ち、自分の100%ではない

 僕は「分人」をテーマに中学や高校で講演するときは、生徒たちに分人の構成比率をかいてもらうんです。学校にいるときや、塾にいるとき、親といるときなど、その時々の分人を書いてもらいます。すると、学校での自分はごく一部だということが相対的に認識できます。

つまり、「嫌な気持ちになっている自分」がいたとしても、それが自分の100%ではなく、自分のごく一部にしか過ぎず、他の部分では楽しい自分がいるんだということを視覚的に把握するというのが大切です。
 

仮面の自分、一生ではない

 中学3年間や高校3年間は、すごく長く感じるし、自分の世界は、教室と家と塾くらいしかイメージできないと思いますが、長い人生の中でそれは本当に短い期間です。だから、クラスにいる自分がそういう風(仮面をかぶっている)になってしまっているがために、自分が一生そういう自分として生きて行くと思わなくていいと思います。

 僕自身も「中学時代」と「現在」の分人の構成比率を書くと、全然違うんですよね。現在の構成図は、中学のときは絶対に想像できなかった人たちの関係の中で形作られた自分が、僕の大半を占めているんです。
 あなたの未来にも、いまは想像できない自分が、色んな人との出会いを通じて生まれてくるはずです。それを楽しみにがんばってほしいです。
 
悩みを寄せてくれた西日本在住の15歳男性
悩みを寄せてくれた西日本在住の15歳男性

性格を否定されること、悪いことじゃない

 人から自分の性格について、否定的な態度をとられたりすることは悪いことばかりじゃないんです。

 人間は不愉快なことがあれば怒るものだし、人とうまくやっていく上では、「こういう言い方をすれば相手は怒るんだな」とか、「こういうことを言ってはいけないんだな」というのを学ぶのも人生です。自分が言われたことを吟味してみて、それが理不尽に自分の人格を否定されるようなことなのか、それとも自分自身が改めた方がいいものなのか、まず考えるのが大事だと思います。

 

 質問には「成績の低い友達を『あおった』」とあります。多分、「揶揄した」ということだと思いますが、そのこと自体がよかったのかどうかを考えることが大事です。

 逆の立場になって考えたら、良い気持ちはしないでしょう。「そういうことを言わない方がいいんだ」と学ぶことは、僕はすごく大事だと思います。

 だから、そこで「自分の態度を改めるのは、自分の人格を否定されたことだ」と必ずしも捉えるべきではないと思います。「よくなかった」と反省して改めれば、もっといい人間になれるわけですから。

不愉快な思いをしたときに、悩むのではなく「考える」

 大事なのは、自分が不愉快な思いをしたときに、考えることです。

 僕自身もそうなのでよくわかりますが、自分が傷つきやすいとか、人より繊細な人間だと自覚がある人は、鈍感になるのは難しいです。感情的なことですから。でも、知的になることはできるんです。「知的に」「論理的に」考えるということがすごく大事です。

 傷ついたのなら、なぜそう考えたのかを考える。「悩む」というとネガティブな印象があるけど、「悩む」ということは、つまり、「考える」ってことなんです。

 悩んだ経験は、考えた経験でもあります。それは決して悪いことではないし、よく考えた人の方が進歩もあります。

作家の平野啓一郎さん
作家の平野啓一郎さん

「40人に1人」、大人になってつながる

僕の場合は、みんなが考えていることと僕が考えていることって、だいたいいつも違っていて、クラスに40人くらいいたら、だいたい39対1で僕の意見は却下されていました。

でもなんか、そういうもんだと思って生きています。いま、世の中の大半が僕と違う考え方だと。あの人たちはいま大人になっていると思うと、まあそうかなと思うし。割と納得できます。

大人になって、作家になって思うのは、世界中に当時の僕みたいな「40人に1人」の人がいるんです。文学ってそういう人たちのネットワーク。それはすごい規模なんですよね。

そういう人たちと時を経て出会って話すと、すごく共感する。クラスという狭い世界では理解されなかったけど、世界にはその人たちがいるんですよ。それはアニメかもしれないし音楽かもしれない。

ベストセラーで例えても…感性の理解者たくさんはいない

文学でいうと、いま10万部も売れればベストセラーって言われますけど、1億人の人口でいうと、0.1%でしょう。ということは、1000人に1人じゃないですか。

1000人規模の学校ってあんまりないでしょう。学校の中に自分の言うことを一人も理解してくれる人がいなくても、もしかしたら、隣の学校にいったらいるかもしれない。その人がいるだけでもうベストセラー作家なんですよ。

40人くらいのクラスで自分のことを理解してくれる人がたくさんいることを期待するのは、1億2000万人の中で、3000万人とか4000万人が自分の感性を理解してくれるのを期待するのと同じなんですよ。そんなの無理に決まってます。

話が合わなくても気に病まないで、「感化」も一つ

 クラスで話が合わない人には、適当に笑っていていいんじゃないですか。「愛想笑い」は大人になってからもあると思います。

 それが「本当の自分を生きていない」って思うのもすごくよくわかります。でも、例えばみんながおもしろいと言っているものについて「そんなのおもしろくない!」って言うのは角が立ちます。おもしろくないと思うのなら、家に帰って自分の好きなことをすればいいんです。

 仲の良い友達を感化していく、ということもできますよね。僕の頃なんかは、無理やりCDを貸したりしていました。ギターを弾いていたので、バンドをやるなら友達をその気にさせていかないといけないから、ちょっとずつ仲間に引き入れていきました。

  そういう友達が一人か二人かできれば全然良いと思います。


  ◇ ◇ ◇

著名人や専門家が10代の悩みに答えるこの企画は、電話などで10代からの相談を受け付けているチャイルドラインの高橋弘恵専務理事に協力いただいています。チャイルドラインの電話相談には2018年度、のべ19万人から相談があり、この企画の相談内容は実際に寄せられる相談をもとに、架空の内容を設定しています。また、回答はあくまで回答者の個人的な見解であり、悩みへの一意見です。
【関連記事】平野啓一郎さん、孤独だった中学時代 「援軍」との出会い

<平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)>
「日蝕」で芥川賞を受賞。「マチネの終わりに」が映画化され11月公開予定。近著に「『カッコいい』とは何か」。

いろんな相談先があります

・24時間こどもSOSダイヤル 0120-0-78310(なやみ言おう)
・こどものSOS相談窓口(文部科学省サイト
・いのち支える窓口一覧(自殺総合対策推進センターサイト
イベント

2学期が始まる。しんどくて、逃げたい……。夏休みが終わるのを前に、そんな思いを抱える子どもたちの「居場所」について考えるイベントを8月26日に昼と夜の2部構成で開きます。

(昼の部)10代が安心して過ごせる「居場所」とは?@日本財団ビル 14:30~17:30
子どもの問題を取材してきたノンフィクション作家の石井光太さん、自分の不登校経験をマンガ「不登校ガール」で描いた女優の園山千尋さん、フリースクールネモ代表の前北海さんが、「居場所」について考えるトークイベント。無料です。詳細や申し込みは→https://withyou-ibasho.peatix.com/view

(夜の部)本音トーク!「#居場所」@Twitter本社からTwitterライブ配信(@withnewsjp) 22:00~23:30
不登校経験があり、今は俳優や漫画家などとして活躍する個性的な面々が、つらい日々によりどころにした「居場所」について、本音トーク! ハッシュタグ「#わたしの居場所」に寄せられたアイデアもシェアしていきます!
 

withnewsでは、生きづらさを抱える10代への企画「#withyou ~きみとともに~」を続けています。

今年のテーマは「#居場所」。 

 目に見える「場所」でなくても、本や音楽…好きなことや、救いになった言葉でもいいです。生きづらい時間や不安な日々をしのげる「居場所」をみなさんと共有できたらと思います。 以下のツイートボタンで、「#居場所」について聞かせてください。


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