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連載

#6 山下メロの「ファンシー絵みやげ」紀行

コレクターが夢見た、お土産界の「ツチノコ」 静岡・清水での出会い

ファンシー絵みやげの保護活動をするために、静岡へ。そこにはこれまでにないありがたい展開が……。

今回の目的地は「天女の羽衣伝説」が残る静岡県
今回の目的地は「天女の羽衣伝説」が残る静岡県

目次

80~90年代に日本中の観光地で売られていた雑貨みやげ「ファンシー絵みやげ」を集める山下メロさん。時代の流れとともに消えていった「文化遺産」を、保護するために全国を飛び回っています。今回の旅先は、静岡県静岡市。清水の逸話にまつわるお土産を保護していると、ある名勝が気になり始めました。導かれるようにそこへ向かうと、山下さんが「ツチノコ」と称する、ある存在を見ることに……。

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ファンシー絵みやげ紀行

「ファンシー絵みやげ」とは?

私は、日本中を旅しています。自分さがしではありません。「ファンシー絵みやげ」さがしです。

「ファンシー絵みやげ」とは、1980年代から1990年代かけて日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげの総称で、ローマ字日本語、二頭身デフォルメのイラストが特徴です。写真を見れば、実家や親戚の家にあったこのお土産にピンと来る人も多いのではないでしょうか。

バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち
バブル~平成初期に全国の土産店で販売されていた「ファンシー絵みやげ」たち

バブル時代をピークに、バブル崩壊とともに段々と姿を消し、今では探してもなかなか見つからない絶滅危惧種となっています。

私は、その生存個体を保護するための「保護活動」を全国で行っているのです。

今回の旅先は静岡県静岡市。さまざまな逸話が残る三保からスタートします。

キーホルダーを手がかりに

その日は、車で静岡市清水区の三保に向かい、ファンシー絵みやげの保護活動を行っていました。

三保の松原。遠くに富士山が見える
三保の松原。遠くに富士山が見える

清水といえば、講談などでも有名な侠客(きょうかく)・清水次郎長(しみずのじろちょう)の地元です。その清水次郎長ののれんを発見し、保護しました。

そして三保の松原には、天女の羽衣伝説があるため、天女をモチーフとしたファンシー絵みやげも無事見つかりました。

天女モチーフのキーホルダー。ラメがまぶしい
天女モチーフのキーホルダー。ラメがまぶしい

調査を終えて、なお時間があるのでどこか探したいと思い、キーホルダーに目をやると、「三保」とともに「日本平」と書かれていました。

そこで、名勝としても有名な日本平へ向かうことにしました。調べてみるとロープウェイがあるようなので、おそらくその乗り場にお土産を扱う売店もありそうです。

天女の羽衣にも
天女の羽衣にも

はるかなるロープウェイ乗り場

三保から日本平へ向かいます
三保から日本平へ向かいます
海沿いを車で走っていると、特産品であるいちご畑のビニールハウスが目立ちます。次第に、観光いちご農園の看板も増えてきました。

ここらへんにロープウェイ乗り場があるはず……と辺りを探してみますが、どこにも見当たりません。そこにあるのは久能山東照宮の入り口と、参道に立ち並ぶ土産店だけです。

地元の方に聞くと、日本平へ向かうロープウェイの乗り場は、1159段もの石段を上った先にあるとのこと。
この階段の先に、ロープウェイが……。
この階段の先に、ロープウェイが……。
見上げると、はるか山の上まで石段が続いていました。

久能山東照宮も、この階段の上にあります。地元の人いわく1159段は「いちいちご苦労さん」のゴロ合わせで覚えるとか。つまりそれだけ参拝は大変なようです。

さすがに上まで登ると日が暮れそうな時間なので、まずは確実な参道の店から見ていくことにしました。私の目的は、より多くの「ファンシー絵みやげ」を保護することなのです。

保護活動のキーマン登場

シャッターが閉まっている店も散見されましたが、それでも5店舗ほどは営業していたので、端の店から調査を開始。

次郎長や、まさに久能山のキャラクターと言うべき「いちご娘」のファンシー絵みやげを発見しましたが、少ししかありません。

静岡特産のいちご。静岡マラソンの途中でふるまわれることも=2017年
静岡特産のいちご。静岡マラソンの途中でふるまわれることも=2017年 出典: 朝日新聞

そんなときに、店内で商品を確認して回っている人を見つけました。

この方は店員さんではなく、問屋さんです。卸している商品の在庫をチェックするために、取引先の店を回っているのです。ファンシー絵みやげの保護活動で、4,000店舗ものお土産店に訪れていると、どんな人がお店に出入りしているのかわかるようになってきます。

私は店の人と間違えたフリをして、「こういった商品ありませんか?」と聞きました。どのみち問屋さんはこういった質問の対応もしますので問題はありません。むしろいきなり「問屋さんですよね?」なんて声をかけて玄人ぶるほうがよっぽど心象が悪いかなと思っています。

「んー。最近見ないねぇ」と問屋さん。そして「こういうのもうないよね?」と店の人にも聞いてくれます。問屋さんは、こうして過去から現在まで数々の土産店の店頭を見ているので、この「最近見ないねぇ」が非常に信頼できる情報なのです。

「清水の次郎長」「いちごちゃん」のファンシー絵みやげとともに
「清水の次郎長」「いちごちゃん」のファンシー絵みやげとともに

問屋さんがそう言うなら望みは薄いのかなと思いつつ、いったん階段下の鳥居前で記念撮影して次の店へ。

ここにはファンシー絵みやげがありませんでした。一応情報収集しようと店の人と会話していると、先ほどの問屋さんがやってきて在庫チェックをはじめました。

せっかくなのでもう少し踏み込んで聞いてみようと「倉庫などにこういった在庫残ってませんか?」と言ってみました。「んー。もう残ってないと思うなー」とのお答え。在庫チェックがお忙しそうなので、質問はそこまでにして引き続き店の人と色々と喋り、店を後にしました。

驚きの展開へ「うちの倉庫見る?」

次の店へ行くと、すでに先ほどの問屋さんが在庫チェックをしていました。そこで、展示されているファンシー絵みやげを発見。なんとか売ってもらえないか店の人に交渉しようとタイミングをうかがっていましたが、たまたま数人のお客さんが会計待ちをしていて声をかけられず、店内をうろついていました。

すると、なんと、問屋さんから話しかけてきました。

 

問屋さん

よく会うね

 

山下メロ

はい、調査なので

 

問屋さん

全部の店を見るの?

 

山下メロ

はい、調査なので

 

問屋さん

そんなに熱心に探してるんだね。ここで終わりだから、うちの倉庫見る?

 

山下メロ

ええ!いいんですか!?

驚きの展開です。

これまでも、問屋さんと偶然一緒になって話す機会があったり、問屋さん直営の土産店で在庫のチェックをお願いしたりすることはありましたが、実際に倉庫を見せてもらえることはありませんでした。

「じゃあ、もう少しで作業が終わるから、ちょっと待っててね」

後で分かったことですが、この方はその卸会社の社長さんでした。偶然にも、決裁権のある社長自ら外回りして在庫チェックをされていたのです。一従業員であれば、誰だかよく分からない人間をおいそれと倉庫に入れる権限がありませんし、わざわざそんなことを上司に確認してくれません。

な、なんという展開……(イラスト・山下メロ)
な、なんという展開……(イラスト・山下メロ)
私にとって、問屋さんの倉庫は「ツチノコ」です。

「そこにきっと在庫が眠ってる」と色々な人に言われるものの、ついぞその姿を目にする機会には恵まれず、もはやこの世に存在しないんじゃないかとさえ思っていました。これまでにないありがたい展開に、私は興奮状態でした。
まさに、幻の存在(イラストはいらすとや)
まさに、幻の存在(イラストはいらすとや)
社長の作業が終わるまで、時間を無駄にしないよう店の商品のチェックを続けていましたが、今起きた事が衝撃的すぎて、ほとんど視覚情報を脳が処理しません。見ているようで何も頭に入ってこないのです。もはや久能山東照宮への石段や、その上のロープウェイ乗り場の売店のことなど完全に忘れていました。

ついに、夢に見た問屋さんの倉庫へ…

「終わったから、後ろついて来て」
 
社長はさすがにお仕事中だけあって、容赦ない素早さです。慌てて私も車に乗り込んで、先を行く社長の車を追いかけます。地元の道を知り尽くした社長の運転に、引き離されないように必死に食らいついて、清水にある会社の倉庫へたどり着きました。

社長が倉庫の扉を開くと、まるで天国の扉が開くようにまばゆい光があふれ出てきました。
倉庫には棚が縦横に並び、そこに段ボールが整然と並んでいます。見渡す限りの段ボール。段ボール。段ボール。これは、普通の感覚だと天国とは思えないでしょうけれども、私にとっては、その1つ1つに夢が詰まっているかもしれないと思えるのです。

今の売れ筋商品こそが取り出しやすい場所にあるため、長いこと第一線を退いている商品は奥に追いやられていて、探すのも一苦労です。それでも、高い場所へひょいと登って段ボールをどんどん開けていく社長のプロフェッショナルな動きを頑張って追いかけ、私もお手伝いしました。
 
本当にあった、問屋さんの倉庫。この段ボールひとつひとつに夢が…!
本当にあった、問屋さんの倉庫。この段ボールひとつひとつに夢が…!

「もう残ってないと思うなー」と社長が言われていた通り、倉庫を探してもらっても、ファンシー絵みやげはなかなか見つかりませんでした。

それでも、特別に倉庫に入らせていただいたこと、そして倉庫におけるプロの動きが見られたことは貴重な体験でした。

しかも、捜索作業の途中で、社長が「まだ時間あるの?仕事があるのでちょっと出てくるから待ってて」と言って出かけてしまうなんてことも。さっき会ったばかりなのに倉庫に置き去りにされるというのも、信頼されている感じがして嬉しかったです。

作業中も、これまで気になっていたことや分からなかったことを質問し答えていただいたり、お土産業界の色々なお話を聞かせていただいたり、それはそれは楽しい時間でした。そして、いくつかのファンシー絵みやげが見つかり、保護させていただきました。

気づくとあたりは真っ暗です。すでに捜索活動は3時間を超えていました。もう久能山東照宮に戻っても、石段の上の売店は開いてないでしょう。いや、それどころか慣れない倉庫作業でとてつもなく疲れ果てており、石段をのぼる体力など残っていません。

そんな状況でなんとか東京までたどり着いたら深夜になっていました。眠気と疲労からベッドに倒れこみたい気持ちでしたが、すぐにパソコンを起動して調べものを始めました。なぜかというと、実は帰り際に問屋さんからとある依頼を受けたのでした……。この続きは、次回のコラムで詳しくお伝えします。

  ◇

山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」を保護する旅はまだまだ続きます。withnewsでは原則週1回、山下さんのルポを紹介していきます。

ファンシー絵みやげ紀行

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