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官僚→大学教授、でも「身元保証」なし 病院・老人ホームの利用に壁

転院先探しに苦労した男性が介護施設に入る際に交わした書類。身元引受人欄には「きずなの会」とある(個人情報の記載がある部分などにモザイクをかけています)
転院先探しに苦労した男性が介護施設に入る際に交わした書類。身元引受人欄には「きずなの会」とある(個人情報の記載がある部分などにモザイクをかけています) 出典: 朝日新聞

目次

 家族の姿が多様化した平成では、日本の制度や慣習とのズレが生じ、悩んでいる人たちがいます。「身元保証」がその一つです。病院や高齢者施設には入院・入居の際、身元保証人を求める慣習があります。多くは家族が担いますが、頼れる人がおらず、身元保証業者に依頼する人もいます。朝日新聞デジタルで昨年3月に配信され、このほど刊行された『平成家族』(朝日新聞出版)に収録されたエピソードを紹介します。(朝日新聞記者、斉藤純江・高橋健次郎)※年齢や肩書などの内容は朝日新聞デジタル配信時のものです。

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「頼れる人は、いなかった」

 身元保証人がおらず、転院先探しの際に苦労した――。愛知県内の男性(66)は3年前、そんな状況に陥った。

 地元の建設会社で働いていた時、左半身の力が抜けるのを感じた。脳卒中。近隣の大病院に救急搬送されて2カ月が経った頃、リハビリ病院への転院を求められた。

 「頼れる人は、いなかったねぇ」

 男性は、力なく当時を振り返る。支払いの担保や緊急時の対応、院内で亡くなった場合の引き取りまで。病院側は身元を一手に引き受ける保証人を求める。最初の入院先には保証人を立てなくても受け入れてもらえたが、転院先はそうはいかなかった。

「頼れる人は、いなかった」と振り返る男性(写真はイメージです)
「頼れる人は、いなかった」と振り返る男性(写真はイメージです) 出典:pixta

 男性は独身だったが、きょうだいが6人。皆近くに住んでいた。だが、15年ほど前にきょうだいを巻き込む金銭トラブルがあり関係が悪化。保証人になってくれるよう頼めず、転院先が見つからなかった。

 男性を見かねた救急搬送先は、家族に代わって身元保証人を引き受ける名古屋市のNPO法人「きずなの会」に連絡した。入院の身元保証から亡くなった後の葬儀の手配まで行う。2001年の発足で、契約している会員は約4300人。

 男性は、きずなの会に190万円を支払って転院。現在は、年金を頼みに愛知県内の介護保険施設で暮らす。左半身のまひが残り、要介護度3。会には延命治療はしないと伝えている。

負担かけたくない、身元保証業者に

 東京都内で暮らす独身男性(86)も2017年1月、有料老人ホームの申込時に身元保証人を求められた。

 男性は東京大学を卒業後、中央官庁に入り、その後は大学教授などを経て退職。現在は認知症の妹と暮らしている。保証人を頼めるような親族や友人はすでに亡くなっている。「もう少し若い時分だったら頼める人もいたんだが」

 困った男性は有料老人ホームに伝えた。「保証人を頼める人はいない」。そこで、身元保証人を引き受けるNPO法人「りすシステム」(東京都)を紹介され、100万円を支払って契約した。

 神奈川県内の70代女性は4年前に母を亡くし、一人暮らしになった。将来に不安を感じて複数の保証業者を検討し、りすシステムと契約した。女性には連絡を取り合ういとこもいるが、親戚に負担をかけたくないと言う。

 「年をとってからの入院は、そのまま死ぬことだってありえる。その時、遺体の引き取りを求められても困るじゃないですか」

親族に負担をかけないため、身元保証業者と契約するケースもある(写真はイメージです)
親族に負担をかけないため、身元保証業者と契約するケースもある(写真はイメージです) 出典:pixta

保証人の有無「法令は建前」

 公益社団法人「成年後見センター・リーガルサポート」が2013年に調査したところ、回答があった全国603の病院や、特別養護老人ホームなどの介護保険施設、有料老人ホームといった高齢者施設のうち、9割超で身元保証人を求めていた。

 「債務の保証」「緊急の連絡先」「入院計画書やケアプランの同意」「遺体・遺品の引き取り」(複数回答)など、必要とされる役割はさまざまだ。

 病院や介護保険施設は、身元保証人がいないことだけで入院・入居を断ることは法令上、認められない。医師法や省令で「正当な事由がなければ拒んではならない」などと定められているからだ。

 それでも入院や入居を断るケースもある。拒否には至らずとも、病院や施設側が身元保証業者を紹介したり、成年後見制度の利用につなげたりするケースも多い。

 介護保険施設の関係者は「法令は建前。身元保証人がいないと、急変時や死亡時に現場は対応できない」。

身元保証人に求めるものは?
身元保証人に求めるものは? 出典: 朝日新聞

金銭トラブルも

 身元保証人は、慣習で家族が担ってきた。だが、国立社会保障・人口問題研究所によると、50歳までに一度も結婚したことがない人の割合である「生涯未婚率」(15年)は、男性で23.37%、女性で14.06%と上昇を続けている。2036年には人口の3人に1人が65歳以上になると推計されている。

 こうした時代背景から身元保証業者が誕生。内閣府・消費者委員会の報告書によると、全国に民間だけで数十~百社程度存在するとみられる。インターネット上で検索すると、料金はサービスに応じて数万円から数百万円。ただ、大手の「日本ライフ協会」が預託金を流用し経営破綻するなど、金銭トラブルも起きている。

 NPO法人「シニアライフ情報センター」(東京都)の池田敏史子代表理事は「身元保証業者は今後も増えていくだろう。ただ、トラブルを避けるため、業者を届け出制にして情報公開を義務づけるなど、リスクを減らす仕組みも必要だ」と話す。

 

家族のあり方が多様に広がる中、新しい価値観とこれまでの価値観の狭間にある現実を、「平成家族」として描いています。

みんなの「#平成家族」を見る

【お知らせ】「平成家族」が本になりました

 夫から「所有物」のように扱われる「嫁」、手抜きのない「豊かな食卓」の重圧に苦しむ女性、「イクメン」の一方で仕事仲間に負担をかけていることに悩む男性――。昭和の制度や慣習が色濃く残る中、現実とのギャップにもがく平成の家族の姿を朝日新聞取材班が描きました。

 朝日新聞生活面で2018年に連載した「家族って」と、ヤフーニュースと連携しwithnewsで配信した「平成家族」を、「単身社会」「食」「働き方」「産む」「ポスト平成」の5章に再編。親同士がお見合いする「代理婚活」、専業主婦の不安、「産まない自分」への葛藤などもテーマにしています。

 税別1400円。全国の書店などで購入可能です。

『平成家族』~理想と現実の挟間で揺れる人たち~(朝日新聞出版)

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