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YouTuberが「リアルイベント」をする理由…… UUUMが考える次の一手
YouTuberが活動の場を広げています。2018年はドラマやCM、テーマパークまで生まれました。「毎日、動画のアップを続けて、2、3年たってようやく1人前」という世界に何が起きているのか。HIKAKINさんが所属する事務所UUUM役員の言葉から、記者が考えるユーチューブを「卒業」しつつあるYouTuberの姿を追います。
2018年11月にあったイベント「U-FES.2018」にはHIKAKINさん、はじめしゃちょーさんら、UUUMに所属する人気YouTuberが勢ぞろいしました。
のべ2万8000人を集めた一連のイベント、観客の多くは10代の若者たちです。スクリーンに名前が出るたび歓声があがります。
まるでアイドルのコンサート……。でも、ちょっと違うのは、ステージの「ゆるい」進行です。
イベントでは、YouTuberたちが様々なゲームに挑戦します。ただ、舞台に用意されたクイズゲームの機械は、本番なのに故障。司会をつとめる水溜りボンドの2人がツッコミを入れる様子を、観客は爆笑しながら楽しんでいます。
「例えば、フィッシャーズがすごくわかりやすいんですけど、クラスにいるちょっとゆかいな悪ガキたち。その身近さによって、つながりも深まっているんです」
そう話すのはUUUMの執行役員の笠原直人さんです。
昨年はYouTuberにとって「二つの大きな変化」があったと言います。
「一つは、ジャンルが広がったこと。昔のテレビの深夜番組みたいなイメージだったクリエーターだけでなく、釣りやゴルフなど大人の趣味の領域に広がりました」
「もう一つは、オンラインとオフラインの垣根を超えたこと。HIKAKINとSEIKINが大手通信会社のCMに起用されたり、フィッシャーズがCD発売記念イベントを開いたり、活動の場所が広がりました」
タレントとして企業にも注目されるようになったYouTuberたち。ユーチューブ以外に活動の場所を広げようとする時、ステージで見せた「ゆるさ」はどうなるのでしょうか?
笠原さんは「身近な存在であることが大事なのは、これからも変わらない」と言います。
「台本に書いてあることを言わされている感、ではない。旅行に行っても、調子がちょっと悪くても、毎日動画をアップする。うそはつかないし、つけない。だから、多少、コンテンツに振れ幅があっても、ユーザーは受け入れてくれるんです」
実際、ライブ会場での進行が多少アバウトでも、逆にそれが場を盛り上げる場面を何度か目にしましたが、それほど違和感は感じませんでした。
時間配分が予定通りいかずに焦る様子を出演者がステージでネタにし、それをファンが喜ぶ。完璧ではないこと自体が、表現として受け止められているようでした。
同社の取締役の渡辺崇さんは、YouTuberとして成功するには「王道しかない」と断言します。
「毎日、動画を上げ続けて、2、3年たってようやく1人前。この世界、根性以外ないんです」。
有名になるまでの道のりを含めた、人柄そのものが人気の源であることが、YouTuberの強さになっていると解説します。
笠原さんはそれを「絶対的安心感」と表現します。
「コンテンツの質以外の部分で『なんだか落ち着く』『気が合う』そんなレベルから安心感が生まれていると思います。いつも通う定食屋をいちいち食べログで検索はしませんよね。そんな日常使いの延長でフォローをしてくれているのでしょう」
ユーチューブで活躍するクリエーターの事務所であるUUUMですが、2018年は70回以上、リアル空間でのイベントを開いています。
ユーチューブ以外の場所に進出する理由として、YouTuberのファン層である10代との接点が多様化している状況があります。
笠原さんは、10代の若者たちにとって大事なのは、どこで見るかということよりも、クリエーター個人とのつながりだといいます。その結果、お気に入りのクリエーターであればユーチューブ、ツイッター、インスタグラムなど、様々な場所、プラットホームを使い分けフォローしにいくそうです。
笠原さんは「いずれ、議論の主語は、コンテンツしかなくなるでしょう」と予測します。
「今まで別個のものとして語られることが多かったオンライン、オフラインといった垣根や、タレントなのか動画クリエーターなのかという分け方も関係なくなる」
そしてその流れは2019年、どんどん加速すると見ています。
「コンテンツが軸になる流れは、10代にとって当たり前になるし、それを受け入れる世代や性別も広がっていくでしょう」
そんなYouTuberに課題はないのでしょうか?
壁の一つが、個性や人柄を含めた人気が、初めて接する人に受け入れられるかどうかです。
地上波のドラマや、大手企業のCMのターゲットは、YouTuberに接点のある人だけではありません。
10代には圧倒的な知名度でも、YouTuberの名前も知らない人にとってみれば、「ゆるさ」が売りのキャラクターに違和感を覚える場面も出てきそうです。
笠原さんは「クリエーターの活動は、映画、テレビドラマのようなターゲットを絞らないコンテンツを意識していなかった。企業の広告やテレビで求められる役割とは相反している部分もあり、そこが難しいところ」と言います。
渡辺さんは「個性を売りににすればするほど、全員が同じ個性にひかれることはなくなる。同時に、ターゲットを絞らないマスの世界のヒットコンテンツにのっていないと、知られることもない。そこを超えないと、誰もが見るコンテンツにはなれない」と話します。
そんな中、UUUMが2019年に力を入れるは「動画以外の活躍の場を広げていくこと」。
2019年1月には、フィッシャーズ、UUUM、ゴールドエッグスの共同プロデュースによるスポーツテーマパーク「フィッシャーズパーク」が千葉県柏市にオープンしました。
2018年、Instagramクリエーターを活用した事業を展開する「レモネード」も吸収合併しています。
渡辺さんは「自ら視聴者を抱えて活動できるようなクリエーターの育成を加速させていきたい」。笠原さんは「チャネルを増やしていくことが、様々な垣根をこえていくための燃料になる」と意気込みます。
笠原さんは、HIKAKINさんのイベントに訪れた親子の反応に手応えを感じているそうです。
「子どもと一緒にきたお母さんが興奮しながら『いつも見ています』と、まるで特撮ヒーローの俳優さんに会ったようなリアクションをしてくれたんです」
個性を大事にしながら、ファンの裾野をどこまで広げられるか。2019年、YouTuberの実力が試されるのは、むしろ、ユーチューブ以外の場所になりそうです。
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