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「第四の人生は月旅行の添乗員に」大学で宇宙研究、向井千秋さんの今

いまは東京理科大で特任副学長を務める向井千秋さん=山本裕之撮影
いまは東京理科大で特任副学長を務める向井千秋さん=山本裕之撮影 出典: 朝日新聞社

目次

 25年前、日本人初の女性宇宙飛行士として地球を外から眺めた向井千秋さん(66)。いまは東京理科大学の特任副学長です。宇宙開発が、ファッション通販サイトを運営するZOZOの前澤友作社長が契約した月旅行計画など、民間の主導で進んでいます。そんな現状をどう見ているのか、聞いてみました。(朝日新聞国際報道部・飯島健太)

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2018年9月、スペースX本社に置かれたファルコン9ロケットの前で握手するイーロン・マスクCEOとスタートトゥデイの前沢友作社長=米カリフォルニア州、香取啓介撮影
2018年9月、スペースX本社に置かれたファルコン9ロケットの前で握手するイーロン・マスクCEOとスタートトゥデイの前沢友作社長=米カリフォルニア州、香取啓介撮影 出典: 朝日新聞

宇宙で感じた「地球こそ特殊」

 向井さんに取材したのは、冷戦が終わって30年でどう時代が変わり、私たちはどうあるべきか、という企画でした。向井さんはもともと心臓外科医。1994年と98年、宇宙飛行士として地球を外から眺めました。

 「宇宙って特殊な所なのに、よく2回も行きましたね、って言われます。いやいや、そうじゃない。地球こそが特殊ですよ。これほど多種多様な生命体が育まれている星は地球以外にありません」

 2015年4月に東京理科大学の副学長になり、16年4月から副学長の上に「特任」がついた向井さん。大学の管理・運営の担い手から、特命業務の担当にシフトしたそうです。

月面での生活、大学で研究

 何ですか、特命って。

 「宇宙教育プログラムを進めることです。私学だからこそできる宇宙研究に力を注いでいます」

1994年7月、スペースシャトル「コロンビア」に乗った向井さんは、宇宙からテレビを通じて河野洋平副総理(当時)と話した。右はカバナ船長。宇宙では体液が上半身に移動するため、顔がむくんで見える=NASAテレビから
1994年7月、スペースシャトル「コロンビア」に乗った向井さんは、宇宙からテレビを通じて河野洋平副総理(当時)と話した。右はカバナ船長。宇宙では体液が上半身に移動するため、顔がむくんで見える=NASAテレビから 出典: 朝日新聞

 その一つが、月面で生活する計画です。研究・開発に関心を持つ民間企業も仲間に加わっています。

 水や食べ物、空気、エネルギーをどうやって生みだし、それを循環させるか。たとえば、尿を飲み水に使うための「浄水」、バイオ燃料のための糞便の分解、人工の光による農作物の育成、といった技術の開発を目指しています。

 「実現すれば、災害を受けた地域、砂漠地帯、資源の少ない日本にも有益です。月面とともに、地球のことを考えているんです」

2016年3月、東京理科大の「宇宙教育プログラム」の修了式。向井さんを囲んで記念撮影=東京都新宿区
2016年3月、東京理科大の「宇宙教育プログラム」の修了式。向井さんを囲んで記念撮影=東京都新宿区 出典: 朝日新聞

冷戦期と変わった宇宙開発

 宇宙が話題になることは確かに増えました。

 ZOZOの前澤社長と電気自動車のテスラを手がける米実業家イーロン・マスク氏は2018年9月、大型ロケットで月旅行をする計画を発表しました。

 向井さんが興味を持つのは、米国と旧ソ連の冷戦時代と大きく違って、いまの宇宙開発は国家プロジェクトではなく、民間が進めていく点です。

 「ビジネスになる、って考える企業が出てきたということでしょう。光触媒やLED、省エネなど、宇宙で必要になってくる技術は日本が得意とする分野。おもしろくなりそうですね」

2018年10月、温室効果ガスを観測する衛星「いぶき2号」搭載のH2A40号機の打ち上げに際して開かれた会見。打ち上げは成功した=鹿児島県の種子島宇宙センター、金子淳撮影
2018年10月、温室効果ガスを観測する衛星「いぶき2号」搭載のH2A40号機の打ち上げに際して開かれた会見。打ち上げは成功した=鹿児島県の種子島宇宙センター、金子淳撮影 出典: 朝日新聞

第四の人生「月旅行の添乗員に」

 前澤社長の計画では、月旅行は早ければ5年後にやって来ます。

 「前澤さん、とても良い試みをされていると思いますね」

 でも、月旅行は身近に感じられません。

 向井さんは違います。

 「興味の赴くまま医師、宇宙飛行士、そして教育に携わった。第四の人生は、そう、月旅行の添乗員ですね」

1994年7月、「コロンビア」に向かう向井さん=米フロリダ州のケネディ宇宙センター、松沢竜一撮影
1994年7月、「コロンビア」に向かう向井さん=米フロリダ州のケネディ宇宙センター、松沢竜一撮影 出典: 朝日新聞

 えっ!?と聞き返し、「冗談でしょう」と思いましたが、その表情は真剣でした。それだけ、月旅行の現実が迫っているようです。

 「みなさんが思っているほど、地球って大きな星ではないのです。ですので、自国が中心の『なんちゃらファースト』じゃなくて、同じ宇宙空間の住人だという共通の事実に目を向けたいですね。そうやって、地球の特殊性を守っていきたいですね」

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