連載
#8 平成B面史
「茶髪と平成」ヘアカラー老舗と振り返る アムラーで特別ボーナス
突然ですが、みなさん「茶髪」についてどう思いますか?今からは信じられないかもしれませんが、20年ほど前、記者(34)が中高生だった頃はまだ茶髪=不良、チャラい人と思われていました。茶髪が一般的になったのは、実はつい最近のことです。平成の時代、日本に住む若者の髪色に何が起きたのか探りました。(朝日新聞記者・日高奈緒=1984年・昭和59年生まれ)
「ビゲン」や「ビューティラボ」シリーズで知られる「ホーユー」の本社(名古屋市東区)にやってきました。
1905年創業。明治時代に染毛剤「二羽からす」を発売以来、ヘアカラー商品を展開してきた業界大手です。
総務部の小林直樹さん(昭和59年入社)、商品企画部の清水由紀子さん(平成16年入社)と永利麻衣さん(平成24年入社)が迎えてくれました。
--平成の間に茶髪への意識って変わったと感じますか?
小林さん「1980年代、茶髪にしている若者は『不良』と思われていましたよ。ホーユーでは主力の白髪染め商品の他に、髪をブリーチ(脱色)する商品も出していたんですけど、パッケージがすごく地味なんです。大人っぽいデザインです」
ーーなぜですか?
小林さん「若者を不良に誘発しないようにという配慮からです。会社でもブリーチの商品を作っているということを大々的に営業は言えないという雰囲気がありました。それでも若者には売れていましたよ。先生にバレないよう、段階的に髪の色を抜いていく商品もありましたね」
――茶髪が一般的になりだしたのって、いつごろから何でしょうか?
小林さん「安室奈美恵さんにあこがれる『アムラー』が出てきた頃(注:1995年ごろ)ですね。今でも安室さんの曲を聴くとこの頃を思い出しますよ。パッケージデザインもちょっとポップなものに変えたのもこの頃です」
小林さん「今見ればそんなに奇抜なデザインではないですけど、当時の幹部はこれでも難色を示しまして。私は営業も経験していたので、これまでのデザインでは店側から『かわいくない』と言われていたのは知っていたんです。だから上の意向は無視して変えてしまいました」
清水さん・永利さん「えっ!」
小林さん「昔は小さな会社でしたからね。数人のチームで商品開発からテレビCMの人選なんてことまでやってたんですよ。入社した頃は社名が知られていないので、『“ビゲン”のホーユーですけど』って電話で名乗っていたくらいで」
―― この時のブリーチは4色だけだったんですね。
小林さん「そうなんです。昔はこれしかなかった。それからどんどん新色の開発が進んでいきまして、2000年に発売した『ビューティーン 体験シリーズ』ヘアカラーは7色になりました」
――このイラストのパッケージ、覚えてます。私は地方の高校生だったので買えなかったんですが……
小林さん「この時はDA PUMPをCM起用したところ、ものすごい人気が出ました。店に並べると1日で売り切れる。渋谷なんかを歩くと若者が店をはしごして探していましたね。このシリーズで一番売れたアッシュ系の1本だけで、今のビューティーンシリーズ全体くらいの売り上げがあったんです」
寺尾絢子さん(広報・1999年入社)「入社直後に特別ボーナスが出たのを覚えています」
永利さん「そんなすごい商品があったんですね……」
――男性はサッカー選手でも髪を染める人が増えた記憶があります。特に日韓ワールドカップがあった2002年ごろだったでしょうか。
小林さん「そうですね。女性の方がファッションの流行に革新的で、男性には後から流行する傾向がありますね。2000年前後から男性の髪色も明るくなっていきました。商品でも男性向けのものが多く出ています」
――この頃私は大学生だったんですけど、いつごろか「黒髪ブーム」のようなものがあったような気がします。
清水さん「黒髪というより最近は『暗髪(くらがみ)』と呼んでいます。真っ黒というより、落ち着いた髪色を好む傾向が少しずつ広がってきました」
広報担当・長田芳枝さん(広報・1984年入社)「『アジエンス』シリーズが出てきたのは2003年でしたね。(注:花王が販売するヘアケアシリーズ。「東洋人の髪」に合う商品としてCMには黒髪が印象的な中国人の人気俳優チャン・ツィイーさんを起用し、大ヒットした)」
永利さん「2010年代前半ごろからの傾向ですが、落ち着いた茶髪派と人と違う色を好む個性派とで二極化が進んでいます。個性派の芸能人でいえば、きゃりーぱみゅぱみゅさんのようなイメージですね」
小林さん「女性に人気の芸能人の髪色って、その時代を象徴していることが多いなと思います。安室さんに始まり、浜崎あゆみさん、倖田來未さん。最近だと西野カナさんですね」
――現在の商品でも一見茶色なんだけど、微妙に違っているものがたくさんあるんですね。
清水さん「今はクリームタイプから泡タイプのヘアカラー剤が主流になっているんですが、『単なる茶色は嫌』『無難な茶色の中から色々選びたい』というニーズが高く、最近は奇抜でない新色を作るのが商品開発の中心になっています。市販向けの商品では、同じような茶色でもミルクティーベージュとかハニーブラウンとか、微妙な違いをイメージしやすい名前にしています。逆に、ヘアサロン用の商品は雰囲気重視のものが多いです」
――むしろ最近だと染めていない人の方が珍しくなっているんでしょうか。
永利さん「当社の調査だと、2018年で若い女性のうち約15%は『一度も染めたことがない』と答えています。1999年は30%くらいいたのですが」
清水さん「『黒髪が私のアイデンティティー』という人か、まったく髪を染めるのに興味がないか、どちらかが理由のことが多いですね」
――私も、大学は入りたての頃は周りがみんな茶髪になるものだから、私は「あえて」染めたくないという変なこだわりを持っていました
清水さん「そういう人でもだんだん周り『染めてもいいかな?』という気分になってきて、カラーを始める人もいらっしゃいますね」
――平成も終わりを迎えますが、髪色はどうなっていくんでしょうか
永利さん「髪色の画一化というのは終わっていくんじゃないでしょうか。一人一人がなりたい色、似合う色を見つけていく時代になり、ニーズもどんどん細分化されていくと思います。もちろん、安室奈美恵さんのような時代を変えるスーパースターが現れれば、話は別かもしれません」
小林さん「安室さんが出た頃は髪色を染めているだけで他人より目立つことが出来て、それをよしとして染める人が多かったんですね。でも今はファッションが保守化する傾向にあって、髪色も落ち着いた、他の人から浮かないようなスタイルが流行しています。でも流行ってサイクルがあるんです。今は保守的だけど、そのうち革新的なものが流行するような時代がやってくるんじゃないでしょうか。我々の商売としてはそちらがありがたいなとは思いますね」
1/9枚