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2018年12月03日

ある日、山がなくなっていた……「盗伐」被害、警察が動きにくい理由

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盗伐現場の視察に訪れた田村貴昭衆院議員(右)と所有者の男性=2018年10月、国富町

盗伐現場の視察に訪れた田村貴昭衆院議員(右)と所有者の男性=2018年10月、国富町

 突然ですが、「山」持っていますか? 持っていない? ですよね……。では、ご実家や祖父母のお宅ではどうでしょう。「そういえば『うちには山がある』とか聞いたことのあるような……」という人は意外といるのではないでしょうか。実はその山、いま「お金になる」ということで、狙われているかもしれないんです。(朝日新聞記者・小出大貴)

「お袋の方がぼけているのかと思った」

 千葉市の海老原裕美さん(61)は2016年夏、実家の宮崎市に帰省し、母の明美さん(83)と一緒にお墓参りに行きました。その帰り道、家族で育ててきたスギ林を見に行きました。そこで見たのは、整然と立ち並んでいるはずの200本のスギ林が切り株に変わり果て、地面が向きだしのはげ山になっている光景でした。「山がなくなっていた。ここがうちの山と言うお袋の方がぼけているのかと思ったほど」

 市役所で調べると、伐採前に業者などが市町村に出す「伐採届」が10カ月前に出され、伐採されていたことがわかりました。所有者の名前の欄には、なぜか12年も前に亡くなっている父・政勝さんの名前が書かれ、「海老原」のハンコが押してありました。勝手に山の木を持ち去る「盗伐」の被害でした。

 その後、海老原さん家族は警察に相談。翌17年10月に伐採に関わった業者3人が、有印私文書偽造・同行使の罪と森林法違反(森林窃盗)で逮捕されました。「伐採届」を偽造して、山のスギを盗んだ疑いがあるとされました。

 しかし、宮崎地検は「証拠関係を考慮して」という理由で3人を不起訴にしました。3人のうち2人は同様の手口で近くの山林で盗伐をしたとして起訴され、今年3月に有罪判決を受けました。

9月に被害が発覚した山林。山肌がむき出しになったところに、台風の雨風で地面が緩み土砂崩れが起きた=2018年10月10日、宮崎県国富町

9月に被害が発覚した山林。山肌がむき出しになったところに、台風の雨風で地面が緩み土砂崩れが起きた=2018年10月10日、宮崎県国富町

9月に被害が発覚した山林。山肌がむき出しになり、台風の雨風で残っていた木も倒れた=2018年10月10日、宮崎県国富町

9月に被害が発覚した山林。山肌がむき出しになり、台風の雨風で残っていた木も倒れた=2018年10月10日、宮崎県国富町

「盗伐被害者の会」を設立

 海老原さんの山は被害発覚から2年以上が経ってもそのままで、今では雑草が生い茂って手もつけられないと言います。スギ林はお父さんの政勝さんが、海老原さんが生まれた記念にと買ったものでした。「許せない。行政の対応にも不満が残る。あの山にもう一度木を植えようなんて気力も湧いてきません」。結局何のお金も保障も受け取れないまま、今日まで来ています。

 海老原さんのような「盗伐」問題は、すでに全国で起き始めています。林野庁が3月にまとめた調査では、1月までの10カ月間に自治体に寄せられた「無断伐採」の相談件数は62件。九州・沖縄が33件と多く、関東9件、北海道・東北8件、中部5件です。うち11件は意図的な無断伐採である「盗伐」の疑いがあるとされました。

 海老原さんは「発覚した被害は氷山の一角」と考え、昨年9月「宮崎県盗伐被害者の会」を設立。続々と被害者が集まり、現在80家族ほどが被害を訴えています。

被害発覚から約2年経った海老原さんの山。9月の台風では雑草が生えていた斜面で土砂崩れが起き、残っていた木も倒れた=宮崎市、2018年11月21日

被害発覚から約2年経った海老原さんの山。9月の台風では雑草が生えていた斜面で土砂崩れが起き、残っていた木も倒れた=宮崎市、2018年11月21日

「被害届を受け取ってくれない」

 林野庁によると、戦後、全国の山で植林がされ、50~60年経って、いま木材として「切り時」を迎えているそうです。温暖な九州は木の育ちがよく、全国に先立って伐採期のピークを迎えています。つまり、宮崎の山で起きていることは、近い将来、日本中の山で起きる可能性があるということです。

 50~60年に一度の伐採期で行政も対応慣れしていないというのも問題の一つです。宮崎市では海老原さんの件に関し「手続きに不備があった」と認め、伐採届に住民票の添付を義務づけるなど、チェック態勢を厳しくしました。しかし、自治体ごとに運用ルールは違い、またどこかで同様の被害が起きることも考えられます。

 警察にとっても山林での捜査は難しいようです。山林では明確に境界線を示す地図がなかったり、そもそも口約束で境界が決まっていたりして、「盗まれた」ことを証明する証拠に乏しいのです。被害者の会でも「警察が被害届を受け取ってくれない」という悩みが多く出ています。現に有罪判決が出たのも、先の一例だけです。

宮崎市の戸敷正市長に被害を訴える被害者の会のメンバー。前列中央の男性が海老原裕美さん=2018年8月30日、宮崎市役所

宮崎市の戸敷正市長に被害を訴える被害者の会のメンバー。前列中央の男性が海老原裕美さん=2018年8月30日、宮崎市役所

高齢化によって「山離れ」

 では、どうすれば被害を防げるのでしょうか。宮崎のある伐採業者は「所有者が山から離れて暮らしていたり、高齢で山に入れなかったりする場所を狙って盗伐をした例も聞いたことがある」と言います。

 50~60年かけて木がお金になる木材になるまで成長するうちに、所有者側では世代交代や高齢化によって「山離れ」が進んだことで、盗伐ができてしまう一因を生み出してしまっているのです。海老原さんは、自分が千葉にいて、お母さんが高齢で山に入れないことから「狙われたのでは」と言います。宮崎大の藤掛一郎教授(森林経済学)は「自分の山に興味を持ち、管理することが最善の盗伐防止策」と話しています。

 一度、ご家族と「山持ってなかったっけ」と話してみるところから、盗伐被害の拡大は防げるのかもしれません。

9月に被害が発覚した山林。伐採用の重機が通る林道が勝手につくられ、切られた木は丸太になって積まれていた=2018年10月10日、宮崎県国富町

9月に被害が発覚した山林。伐採用の重機が通る林道が勝手につくられ、切られた木は丸太になって積まれていた=2018年10月10日、宮崎県国富町

「あれはうちの山だで」

 宮崎県で記者として働く私も、実家の長野県で祖父が「あれはうちの山だで」と話すのを子供の頃に聞いた記憶がありますが、木の種類や場所なんて全く知りませんでした。

 ちなみに私の祖父が話していた長野の山は、お金になる価値はない雑木林でした。価値がないとしても父や孫の私がいずれ引き継ぎ、管理をしていかなければいけません。

 山には動植物の生態系維持や治水の効果もあります。宮崎の盗伐現場の山は荒れたまま放置され、9月末の台風24号で土砂崩れが起きた場所もありました。「国土の3分の2が森林」と言われる日本で、半世紀ぶりに木が切り時を迎えている今は、山を持つ人の責任を改めて考える時期なのかもしれません。

被害に遭った海老原さんの山近くにある同時期に発覚した別の盗伐現場。かつてはスギ林だったが、今では雑草が生い茂る=宮崎市、2018年11月21日

被害に遭った海老原さんの山近くにある同時期に発覚した別の盗伐現場。かつてはスギ林だったが、今では雑草が生い茂る=宮崎市、2018年11月21日

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