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岸谷五朗&寺脇康文、エイズの子どもたちを支援し続ける理由
エイズ(AIDS)の子どもたちを支援するチャリティーイベント「Act Against AIDS 2018 『THE VARIETY 26』」が12月1日、日本武道館で開かれます。「THE VARIETY」は、俳優の岸谷五朗さんの働きかけで1993年に始まりました。26回目の今年は、初の試みとして全国の映画館50館でのライブビューイングが用意されました。これまでに海外の子どもたちや国内の啓発事業に寄付した支援金は、計約2億9千万円にのぼります。何が岸谷さんたちを突き動かして、エイズの子どもたちへの支援を続けるのでしょうか。(朝日新聞文化くらし報道部記者・三ツ木勝巳)
〈エイズの子どもたちへの支援のきっかけは、岸谷さんがパーソナリティーを務めていたラジオ番組に届いた14歳の少女からの一通のはがきでした。その少女が一番恐れていたのが、差別。差別が怖いから何も打ち明けられないと訴えていました〉
岸谷 「まだ、エイズは謎の病気だと受け止められていたんです。米国では、現代アートの作家のキース・ヘリングなど有名なアーティストたちが次々と亡くなっていました。日本では、血友病治療に使った血液製剤からHIVへの感染が問題化していました」
「どんな病気か分からないから差別が生まれ、空気感染するかもしれないとか言われたり、親友だった友人が離れていったり。知識がないからただひたすら差別していく。人間の一番大切な信頼感や絆を壊す病気だと痛感しました。エイズが絆を壊す病気ならば、絆で仲間たちを募って啓蒙(けいもう)ということをしていかなければいけないと思ったんです」
〈第1回は、1993年12月1日、国立代々木競技場第一体育館で開かれました〉
岸谷 「僕が自分で交渉し、出演してくれたメンバーはみんなノーギャラ。信頼感だけで集まってくれました。普通に頼んでも出演を受けてもらえないかもしれないと思い、FM局の前で小室哲哉さんが出てくるのを待って、出演を口説いたこともありました。当時、TM NETWORKの活動停止前のすごく忙しいなか、結局小室さんには中心になってやっていただきました」
〈実はその前に、日本青年館で医師や、自らもHIV陽性でエイズの啓発活動をしていたDJのパトリック・ボンマリートさん(2013年死去)らを招いて、シンポジウムを開いたことがありました。でも、一番来てほしかった若者が集まりませんでした。そこで生まれたのが「THE VARIETY」です〉
岸谷 「僕らのこの『THE VARIETY』というのは、チャリティーを目に見える形に具体化しているんですね。いま、支援しているラオスには、お客様のチケット代で、小児病棟が建ちました。啓発はもちろんですが、お金を集めることもすごく大事なポイントに置いているんです」
「お客様が来てくれるきっかけは僕らのエンターテインメントの作品ですが、そこでミュージシャンの皆さんの歌を聴き、僕らのコントを見てもらいました。そして、そのショーの中で、この子たちのためなんだよって、視察に行ったVTRを紹介して、お客さまの1枚のチケットがこんなに役に立っているだと実感してもらう。いろんなアーティストに出てもらうことでそれぞれのファンの方への啓発も広がる。エンターテインメントの力を借りなければ、ここまで続かなかったかもしれません」
〈他の会場での開催を経て、1990年代後半からは日本武道館で開催しています。2回目から寺脇さんが加わり、二人三脚で活動してきました。少しでも寄付額を多くしたいと、以前は、スタッフの交通費や弁当代も自腹。出演者にお礼を言うために開く打ち上げも、岸谷さんが自腹で開いていました〉
岸谷 「まとまったお金を送りたいと思うと、やっぱり会場が大きくないとできない。日本武道館でやるのにもかかわらず、衣装などは手作りで、スタッフが手縫いしていたこともありました」
寺脇 「僕も、デビルマンにふんした時につけたデビルウィングというのが、段ボールでしたからね」
岸谷 「そこまで、節約する気持ちになってしまうんです。いまは必要経費はきちんと処理して、やっと我々なりのチャリティーの形ができてきたと思います。次の年の日本武道館で、みなさんの1枚1枚のチケットが、この車や、こんなワクチンなどになりましたと発表しています」
〈「THE VARIETY」をはじめた当時、岸谷さんは、中学生や高校生のリスナーが家族で食卓を囲んでいた時にエイズの話をしたら、お父さんやお母さんに「ご飯中にそんな話をするんじゃありません」と怒られたというはがきをもらって、衝撃を受けたといいます〉
岸谷 「性交渉でうつる病気でもあるということもあって、それを忌まわしむ人がたくさんいました」
寺脇 「ひどい偏見です。当初に寄付をしたルーマニアの孤児施設の子どもたちは、注射針の使い回しからの感染でした。子どもたちには何の罪もない」
岸谷 「HIV陽性の子どもたちのための施設をつくって、大人になって自立できるまで支援しようと思いました。貧困国だったチャウシェスク政権時代、栄養失調の子たちに輸血をしていた輸血針やHIV陽性の血が入った血液そのものから広まってしまった。寺ちゃんが現地を訪問しています」
寺脇 「最初に訪問した時は、同行したボランティアの高校生数人と一緒に、桃太郎のお芝居を見せました。簡単な殺陣もやったら大喜びしてくれた。心の栄養をあげられたこともうれしかった。孤児の施設ですから、子どもたちは体の病気もあるけれど、心に欠けた部分があるというか、愛情とか、満たされないものがいっぱいあると思いました」
「1人を腕に抱いてブランコのような遊びをすると次は私、その次は僕と順番を待って、みんなが延々と並ぶんです。滞在中、ずーっとくっついて離れない子がいました。でも、僕が帰国してすぐに亡くなったと聞きました。とてもしんどかったですね」
岸谷 「当時、HIVポジティブでも、栄養のバランスがいいと生き延びられるが、悪いとエイズを発症してしまう。そこで、薬の投与はもちろん、食事で栄養のあるものを食べさせようと思いました」
寺脇 「僕らが送ったお金がその子どもたちの食事代になる。発症した子は離れの病棟に移るんですが、子どもたちは『あそこに行ったら、さよならなんだ』というようなことを話していました。もちろん僕ら以外にもいろんな団体があるけれど、僕らがやめてしまったらば、この食事代はどこから出るのかと思った時、僕は単純に、じゃあ子どもたちの食事のためにやり続けようと思いました」
岸谷 「施設が毎年、子どもたちの写真を送ってくれていましたが、毎年亡くなっている子がいました。心が痛かったです。でも、元気に成人になって自立した子どもたちもたくさんいます」
〈その施設には95年から20年間支援を続けました。子どもたちの成長を見届けて、2005年からは、ラオスのエイズ対策への支援に中心を移しました〉
岸谷 「いま、ラオスで子どもたちの病棟ができています。僕が現地に視察に行って、その時は何もなかった平地に、いろいろな病棟の一つとして建ちました。僕らの活動のタイトル『THE VARIETY』の看板のある小児病棟です。医師を呼ぶお金や設備の購入費も、この寄付から出ていると思います」
〈岸谷さんは、ラオスで、HIVの子どもやその家族にも会い、貧困や差別の状況に心が痛みました〉
岸谷 「壁もないような家に住んでいる家族もいらした。家族から家には来ないでほしいと言われたこともあります。取材みたいな形だと怪しまれてしまう。ちょっと離れたレストランまで出て来てもらいました。ラオスでは、HIVの家族はいまだにコミュニティーの中からはじかれてしまうんです。まだまだエイズに対する知識が足りない。貧困国であればあるほど母子感染した子どもたちは、苦しんでいます」
「病院もコミュニティーから離れたところに行くのですが、道路事情がとても悪い。昨年は、その道路事情にとにかく耐えられる車をということで、四輪駆動車を寄付させてもらいました」
〈今回も出演する俳優の三浦春馬さんも、これまでに何度も現地を訪れ、昨年の日本武道館でも、その様子を報告しました〉
寺脇 「いまは、3人でやっていますよね」
岸谷 「そういう若い後輩が意識を持ってくれるのはうれしいです。継続していくのは本当に大変なので、どんどん一緒に入ってきてくれるといいですね」
〈過去には俳優陣のほか、岸谷香さんやサンプラザ中野くん、福山雅治さん、パッパラー河合さん、Perfume、ポルノグラフティら数多くのミュージシャンも参加してきました。今年は、俳優陣だけで舞台をつくりあげます。副題は「遂に!俳優だけの武道館ライブ!!…大丈夫なのか~~!?~」。俳優陣は、小池徹平さんや城田優さん、柚希礼音さんら総勢三十数人が登場します〉
岸谷 「エンターテインメント性は変わりません。舞台俳優が出てきています。みんな歌ったり踊ったりが得意なメンバーです」
〈今年は、より多くの支援金を送るため、初めて全国の映画館50館で、同時生中継のライブビューイングもします〉
岸谷 「1枚のチケットが全部チャリティーになります。啓発に関しても、これだけの映画館でエイズのチャリティーをやるんだよということをアピールすることはとても大事なことと思っています。この近代的なライブビューイングというシステムは、『THE VARIETY』にとってすごくいい仕組みなんです」
寺脇 「本当は、もうエイズの人はいなくなったから、やめていいよというふうになりたいんです。お金を送るところはもうないよというふうになったらいいなと思うんですけれど、まだまだならないんですよね」
岸谷 「お客様は『よくこんなメンバーが集まっている』と思ってくれていると思います。僕らが一生懸命頑張ってチャリティーをしてきて毎年毎年、一つずつ重ねてきたら、26回目になっていた。アーティストはみんなただ我々を信用して参加してくれている。人間の絆の力で、人間の一番大切な絆を壊す病気と闘って絆を修復している。そう思っています」
ライブ・ビューイングは、12月1日午後6時開演。全国各地の映画館。3600円(全席指定、税込)。詳細はURLから。https://liveviewing.jp/contents/aaavariety/
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