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<金正男暗殺を追う>ゲートまであと40m…「ぬめり気のある液体」
2017年2月13日朝、マレーシアの空港にいた金正男(キム・ジョンナム)氏に、見知らぬ女2人が近づいた。目隠しをするように手で正男氏の顔を覆い、謎の液体を塗りつけた。女たちが現れてから立ち去るまで、わずか数秒。取材で入手した空港の監視カメラには、その一部始終が記録されていた。(朝日新聞国際報道部記者・乗京真知)
午前8時58分、マレーシアの首都郊外のクアラルンプール国際空港。監視カメラは、空港3階の出発ホールに向かう正男氏の姿を映している。
青い半袖シャツの上に、薄いグレーのジャケット。黒いバッグを右肩にかけ、おなかを突き出して、ゆったりと歩く。
大勢の人が行き交う出発ホールの中ほどで、一度立ち止まる。頭上の掲示板を見上げ、出国便を確認する。再び歩き始め、カフェの横を抜けて、最寄りの自動チェックイン機まで36歩進む。左胸のポケットに手を伸ばし、パスポート(旅券)らしきものを取り出す。出国ゲートまで40メートルほどの位置だ。
自動チェックイン機をのぞく正男氏の左前方から、灰色のノースリーブを着た髪の長い女が近づく。なにやら声をかけながら、一歩踏み込む。正男氏が顔を向けたところで、すかさず顔に手を伸ばす。
と同時に、正男氏の背後から、別の女が飛びつく。白い長袖シャツを着た細身の女。目隠しをするように肩越しに両腕を伸ばし、手のひらを顔になすりつける。
挟み撃ちにされた正男氏は、体をねじるように反転させ、女たちの手を振り払う。
ノースリーブの女が近づき、長袖の女が飛びつくまで、4秒足らず。女2人は立ち止まることなく、別々の方向に走り去る。
一瞬の出来事で、隣の旅行客さえ異変に気づいていない。振り返ったり、助けに入ったりする者は、誰もいない。
正男氏は、遠ざかる女の背中を見つめながら、よろめき、2歩、後ずさりする。左手にパスポートを握りしめ、そのまま1分弱、立ち尽くす。いったい何が起きたのか。指先を顔に近づけ、ゆっくり頰につたわせる。油のような、ぬめり気のある液体が、塗りつけられていた。
◇
【クアラルンプール国際空港】マレーシアの首都クアラルンプールの中心部から南約40キロの郊外にある。正男氏が襲われたのは、格安航空会社専用の第2ターミナルの3階にある出発ホール。2階には到着ホールや診療所、1階にはタクシー乗り場がある。衣料品店やレストランが入る商業施設が併設されている。
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