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国民は飢えているのに… ベネズエラで大統領「ステーキ動画」大炎上

塩を振るまねをするベネズエラのマドゥロ大統領
塩を振るまねをするベネズエラのマドゥロ大統領 出典: SNSに投稿された動画のキャプチャー画像

目次

 1年前は100円だった物が、100万円に? そんな信じられないことが南米ベネズエラで起きています。働いても働いても食べ物が手に入らないと多くの国民が逃げ出しているこの国で、ツイッターとインスタグラムで拡散した動画が騒動を引き起こしました。(朝日新聞サンパウロ支局長兼ハバナ支局長・岡田玄)

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ごきげんに塩を振る大統領

 骨付き肉を軽やかに切る、黒いTシャツ姿の男性。その横で満足そうに肉を食べる男女。動画に登場する2人は、南米ベネズエラのマドゥロ大統領夫妻です。

 経済協力を求めて9月に中国を訪れた帰り、トルコのイスタンブールに立ち寄った時に撮影されました。

出典: Youtubeに転載された動画

 訪れたのは有名シェフ、ヌスレット・ゴクチェ氏が経営する高級レストラン。独特のスタイルで塩を振るパフォーマンスで知られ、ゴクチェ氏は英語でSalt bae、日本語では「塩ふりおじさん」や「塩ふりお兄さん」などと呼ばれています。

 食べ終えたマドゥロ氏は葉巻をくわえ、ゴクチェ氏のTシャツを胸にあてながら、ごきげんな様子で塩ふりをまねました。

1キロの肉を買うのに、950万ボリバルが必要だった。1.45ドルに相当する=ロイター。8月20日、ベネズエラ政府はデノミを実施。100000ボリバルが1ボリバルになった。
1キロの肉を買うのに、950万ボリバルが必要だった。1.45ドルに相当する=ロイター。8月20日、ベネズエラ政府はデノミを実施。100000ボリバルが1ボリバルになった。

 スペインのエルパイス紙によると、この動画はゴクチェ氏がインスタグラムやツイッターに投稿したといいます。

 これに対し、「国民は飢えているのに、大統領は国民の金でぜいたくをしている」など批判のコメントが殺到。1時間で1000件を超えたとする報道もありました。

 すぐ削除されたものの、動画は現在も拡散しています。

 帰国後の9月18日、マドゥロ大統領は記者会見に臨みました。右手を鶴のように構え、一言。「塩の振り方を学んだ」

 CNNスペイン語版は、マドゥロ氏が食べたステーキの一つは1皿55ドルで、ベネズエラの最低賃金3カ月分以上に相当すると報道。世界各地にあるゴクチェ氏のレストランのうち、アメリカのマイアミの店の前でベネズエラ人たちが抗議集会を開くなど、波紋が広がっています。

食べ物ない…ゴミあさる庶民

 ベネズエラでは経済危機が深刻。国際通貨基金は、今年のインフレ率を年100万パーセントと予想しています。100万円が、1年後には100円の価値しか持たなくなるということです。

 食料や医薬品が不足。餓死する人や、満足な治療を受けられずに命を落とす人もいるといいます。国連によると、2014年以降に230万人がベネズエラから周辺国に移り住みました。

 多くのベネズエラ人が、その日の食事にも困るような暮らしをしています。取材で話を聞いたベネズエラ人の中には、食べ物を求めてゴミをあさったという人もいました。

ロバの動画で逮捕

 ベネズエラでもう一つ問題になっているのが、独裁的な政治です。

 西部メリダ州で、消防士2人が逮捕されました。きっかけは1本の動画でした。

出典: Youtubeに転載された動画

 消防署内を歩くロバが撮影され、「大統領が訪問されました」などとナレーションが入っています。

 ロバは間抜けや無能を意味し、スペイン語で「ブロ」と言います。政権に批判的な人たちは、マドゥロ氏を「マブロ」と呼んでいます。つまり、この動画は強烈な風刺です。

 やはりSNSで拡散しました。

食べ物がなく国を脱出し、路上で生活するベネズエラ人たち=2018年9月8日午後8時59分、ブラジル・ボアビスタ、岡田玄撮影
食べ物がなく国を脱出し、路上で生活するベネズエラ人たち=2018年9月8日午後8時59分、ブラジル・ボアビスタ、岡田玄撮影

 ベネズエラの人権団体フォロペナルによると、動画を作って投稿したとして、41歳と45歳の消防士2人が警察当局に13日夜から拘束されています。

 弁護士によると、2人は「憎悪扇動」の罪に問われており、有罪なら懲役20年になる可能性があるといいます。2人は容疑を否認しているとのことです。

 「憎悪扇動罪も1年前にできたばかりの法律。言論を抑圧するために作られた」と弁護士。200人を超える人が、政治的な発言を理由に身柄を拘束されたままだといいます。

国連難民高等弁務官事務所が運営している避難民キャンプで、食べ物を口にする子ども=2018年9月9日午後6時7分、ブラジル・ボアビスタ、岡田玄撮影
国連難民高等弁務官事務所が運営している避難民キャンプで、食べ物を口にする子ども=2018年9月9日午後6時7分、ブラジル・ボアビスタ、岡田玄撮影

政権の不支持率、75%超え

 こんな状況ですから、政権への批判は強まるばかり。17日発表の世論調査では、マドゥロ氏の不支持率は75%を超え、84%が政権交代を望んでいました。

 また、30.5%が一日一食のみ、28.5%の人が一食も食べられない日があると回答。20%は政権交代しないなら国外に出ると答えました。

 「大量の食料や医薬品を持ってきてくれるなら、軍事介入されてもよい」。そう回答した人は、84%でした。

ベネズエラの首都カラカスで18日、記者会見に臨むマドゥロ大統領=ロイター
ベネズエラの首都カラカスで18日、記者会見に臨むマドゥロ大統領=ロイター

 当のマドゥロ政権は、人道危機で大量の避難民が生じていることを「フェイクニュースだ」と主張しています。

 確かに、無関係の動画をインターネット上に流し、マドゥロ政権批判に利用してる人たちもいます。

 しかし、私は、食事や医薬品を求め、国境を越えてきたたくさんのベネズエラ人たちに会いました。

 テントで暮らせればよい方で、多くの避難民は路上で生活し、ゴミ袋を使って雨露をしのいでいます。移住しようとしたけれど、仕事も見つからず、地元住民の襲撃におびえている人もいました。そんな人が、街にあふれていました。

 食い物の恨みは怖い。この言葉を、マドゥロ大統領に送ります。

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