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樹木希林さん「二次使用はご自由に」留守電に流れたメッセージの意味

樹木希林さんが描いてくれた自身の似顔絵。亡くなる2カ月前、若者に送ったメッセージのファクスに添えられていた
樹木希林さんが描いてくれた自身の似顔絵。亡くなる2カ月前、若者に送ったメッセージのファクスに添えられていた

目次

 「二次使用はどうぞご自由に」。7月中旬、樹木希林さんの事務所に電話をすると、樹木さん本人の声でこんな留守電が流れました。最初はその留守電の意味を深くは考えず、要件を書いたファクスを送りました。学校に行くことや、生きることがつらい若者へのメッセージを届ける企画「#withyou~きみとともに~」でお願いした取材。配信した記事は、死去のニュースが流れた後も、拡散され続けています。樹木さんは、どんな思いで取材に答えてくれたのか。今、留守電の言葉から考えてみたいと思います。

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ずっとずっと考えていた

 ファクスをしてから1週間ほどたった7月のある日、突然、私の携帯電話に着信がありました。

 すぐにかけ直すと「今代わります」と女性の声。やがてテレビや映画で聞き慣れた、あの声がしました。

 「樹木希林です」

 突然、ご本人が出たことに驚きました。芸能文化担当の記者でもなかった私は、樹木さんとお話ししたのはこれが初めて。こちらの緊張などお構いなしに、いつもの調子で樹木さんは話し出しました。

 「どんなことを書けば良いのか、ずっとずっと考えていてお返事が遅くなっちゃったの。ごめんなさいね」

無力よね

 樹木さんがマネジャーをつけていないというのは別の記事で読んだことがありました。山のように送られてくるファクスの1枚1枚を自分で読み、私たちの企画書に目を留めて下さったのだと思い、驚きました。

 生きづらさを抱える若者へのメッセージという企画の趣旨を深刻に受け止め「難しい」と取材を辞退される方もいただけに、「今回も断られてしまうかな」という心配もよぎりました。だからこそ、続く樹木さんの言葉は意外なものでした。

 「どうしたら伝わるのかしら。本当に無力よね、まったく書けないの」

 申し込んだのはインタビューでしたが、樹木さんはその時すでに、自分でメッセージを書くことを決めていたようです。

 今思えば、体が本調子ではない中、自身のメッセージを伝える方法を考えてくれていたのかもしれません。

 一切の妥協をせず、若者へのメッセージに向き合ってくれた樹木さんは、次のように続けました。

死んだ後の世界はすばらしい?

 「死に向かっている人間は、考えの中に入り込んでしまって、どうしたら伝わるのか分からなくなっちゃうのよね」

 「国は何か支援をしているのかしら」

 私と話をしているというよりも、その向こうに多くの今まさに苦しんで、悩んでいる若者が実際に見えているかのようで、「どんな言葉が届くのかしら」と途方に暮れた話し方でした。

 そんな樹木さんの口調が突然変わります。きっぱりと「でも、死んだ後の世界はすばらしい、というふうに、私は捉えていないの」と言いました。

 「楽になるっていうでしょ」「私はいろんな本を読んできたけど、生きているときより大変らしいのよ、脅しみたいになっちゃうけどね」

あとはお任せします

 そこからの樹木さんは晴れ晴れとした声でした。

 「じゃあ、今日中にファクスをペラっと1枚送りますから。使うかどうかはそちらで決めて。あとはお任せします」「原稿料はいりません」

 こう矢継ぎ早に話して、電話を終えてしまいました。そして本当にその日のうちに、ただ1枚、筆書きで自画像入りのファクスが1枚、届きました。

樹木希林さんから送られてきた1枚のファクス
樹木希林さんから送られてきた1枚のファクス
昔からの本を読むと およそ 同じことを言っている
自殺した魂は 生きていた時の 苦しみどころじゃ ないそうだ
本当かどうかは わからないけど
信用している

私は弱い人間だから
自分で命を絶つことだけは
やめようと 生きてきた
こんな姿になったって
おもしろいじゃない

KIKI KILIN 75才

二次使用はどうぞご自由に

 後日、過去の写真の引用などを確認しようと電話をしましたが通じず、原稿にしたものを確認するため再度ファクスを送ったところ、樹木さんから「何でも好きに使ってください」「ファクスが壊れちゃうから、もう確認もいらないから」と会社に伝言が残っていました。
 
 表現したいことはすべて、あの1枚に出し切った。一連のやりとりからは、樹木さんの、そんな思いが伝わってくるようでした。

 「二次使用はどうぞご自由に」

 樹木さんの留守番電話の意味もようやく分かりました。

 樹木さんの手から離れた、まっすぐな言霊のようなメッセージ。どうぞ、自由に使って、広げて下さい。曲げられてしまったり、悪用されたり、そんな不安はみじんも感じさせない強さがありました。

 その言葉を、樹木さんが届けたかった多くの若者に広がるよう、これからも伝え続けていきたいと思います。

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