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#68 #withyou ~きみとともに~

夏休み明け、命絶つ子ども 「学校絶対主義」が招く「9月1日問題」

「学校は行かなくてはならない場所」、そんな意識が広く共有されています(画像はイメージ=PIXTA)
「学校は行かなくてはならない場所」、そんな意識が広く共有されています(画像はイメージ=PIXTA)

目次

 多くの学校で、夏休み明けが近づいています。今の時期に、18歳以下の自死が年間で最も増えることを知っていますか?例年2学期が始まる月日をとり、「9月1日問題」とも呼ばれるこの事象。「背景には、どんなときも学校に通うべきという『学校絶対主義』がある」。フリースクール「東京シューレ」の奥地圭子理事長は、そう語ります。子どもの命を守るため、家庭で気をつけるべきこととは?俳優の石田ひかりさんと、奥地さんの対談後編です。(withnews編集部・神戸郁人)

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「登校しなきゃ」追い詰められる子どもたち

俳優の石田ひかりさん=仙波理撮影
俳優の石田ひかりさん=仙波理撮影 出典: 朝日新聞
<夏休み明けに子どもの自死が増える理由。それは、学校に通うことを当然視する、社会意識にあると言えそうです>

 
石田さん 娘たちが、終業式前に保健だよりをもらってきました。「どうしても宿題が終わらなかった人は、先生に相談をしてください」とあり、私が子どものころとは大きく違うのに驚きました。
 
奥地さん その意図は、よく分かりますね。夏休みの宿題ができなかったのがきっかけで、不登校になる子って結構いますよ。
 
石田さん それが、いわゆる「9月1日問題」ですか?
 
奥地さん 学校に関する事柄が、子どもに心理的な影響を与えるという点で、つながっている部分もあります。しかし「9月1日問題」は、自死が本質です。内閣府の調査によると、命を絶つ18歳以下の人数は、夏休み明けが一番多いんです。
 
 死を選ぶのは、学校が始まるのが苦しいからです。1学期に学校で嫌な経験をした子も、夏休みに入ればホッと一息つけます。しかし休み明けが近づくと、「また登校しないといけない」と追い詰められた気持ちになります。
 
 2学期は、受験勉強が本格化し、文化祭などの行事も立て込みますね。周りと比較されることが増え、ストレス度が高まる。楽しめれば良いけれど、学校で苦しい思いをしたことのある子は、「新学期が始まるのが怖い」と話します。
夏休み明けは、自死する18歳以下の人数が突出して多い(内閣府「平成27年版自殺対策白書」に基づく)
夏休み明けは、自死する18歳以下の人数が突出して多い(内閣府「平成27年版自殺対策白書」に基づく) 出典: 朝日新聞
石田さん 長期休み中にゆっくりできる分、負担感が増えてしまうんですね。
 
奥地さん 苦しければ逃げて良いし、学校以外に学びの場を求めて良い。しかし日本社会では、長らく「登校するのが当然」とされてきました。
 
 子どもたちも、親や先生からそう教わり、「行かなくてはいけない場所」と思わされている。この「学校絶対主義」が、9月1日問題の要因だと考えています。

親は干渉しすぎず、時に腹を割る

フリースクール「東京シューレ」理事長の奥地圭子さん=仙波理撮影
フリースクール「東京シューレ」理事長の奥地圭子さん=仙波理撮影 出典: 朝日新聞
<対談では、子どもとの向き合い方も話題になりました>
 
奥地さん 石田さんの娘さんたちは、「学校がしんどい」という雰囲気を出すことはないですか?
 
石田さん 無理して行っていると感じたことはないですね。
 
奥地さん それは素晴らしい。ただ、もし行き渋ることがあれば、「何かあったの?」と声をかけると良いですよ。「あなたの話をいつでも聞くよ」という空気があると、深刻なことにはならないと思います。
 
 問題がキャッチできたら、一緒に考える。もし先生に相談する場合は、まず子どもの了解を得ることが大事です。そうしないと、親への不信感が高まってしまいます。
どんな時も、子どもの意思が最優先(画像はイメージ=PIXTA)
どんな時も、子どもの意思が最優先(画像はイメージ=PIXTA)
石田さん 子どもが「先生に言わないでほしい」と伝えてきたら、どうすれば良いですか?
 
奥地さん 言わないことですね。ただ、ギリギリの状況であれば「先生にも一緒に考えてもらおう。でも、その後のことは必ずあなたに相談するから」と付け加えますね。
 
 思春期の子は、素直に何でも言う年齢ではないから、親は気持ちが理解しづらい。まずは、本人が置かれている状況を見えるようにしておく、というのが良いんじゃないでしょうか。
 
石田さん それが一番難しいですね……。娘たちは、友人たちとスマホを使ってやり取りしています。人間関係について、見えにくいのが悩みです。端末を持たせるときには「お母さん全部見るからね!」と伝えましたが。
 
奥地さん それは、多分むかつかれていると思います(笑)。もちろん、親としては善意で言っているんですけどね。子どもをもっと信頼して、ここぞというところでは、腹を割って話す。普段はあまり干渉しすぎない、というのが、関係をつくる上で大事になるのでは。
 

子どもの発想生かせる学校に

対談を終え、ほほえみ合う奥地さんと石田さん=仙波理撮影
対談を終え、ほほえみ合う奥地さんと石田さん=仙波理撮影 出典: 朝日新聞
<2人は終盤、「先生が子どもを信頼し、その発想力が生かせる場所に学校を変えていくべきだ」という意見で一致しました>
 
奥地さん 今ってね、情報化が進んで、時代状況が変化していると思うんです。「みんな一緒が良い」との考えは好ましくない。自分が大切にされている、という感覚を、子どもたちは持てませんから。
 
 だから、子どもの声で学校をつくっていくと良いんじゃないでしょうか?その方が楽しいし、いじめなどで登校できなくなるリスクも減ります。
 
石田さん 確かに!先生にとっても、子どもたちのエネルギーを毎日受け止め続けるのは、本当に大変でしょうしね。子供が主体になることは大賛成です。
 
奥地さん そうですね。東京シューレが開校した私立中学校では、全ての行事を、子どもが実行委員会形式で進めるんです。苦労もありますが、結果的には満足感や達成感につながる。コミュニケーション能力も育ちます。
 
 先生たちにとっても、負担が減る。何より、子どもと一緒につくっていく楽しさが味わえる。「これは子どもたちに任せてみよう」という考え方が、もっと広がれば良いなと思います。
 
◆石田ひかり(いしだ・ひかり)
 1972年、東京都出身。中学生時代に芸能界デビューし、大林宣彦監督の映画「ふたり」などで主演を務める。現在はテレビ番組の司会を始め、各方面で活動。中学生の娘2人を育てる母親でもある。

◆奥地圭子(おくち・けいこ)
 1941年、東京都生まれ。息子の不登校がきっかけで、85年にフリースクール「東京シューレ」を設立。不登校について考える親の会や、「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」の立ち上げにも関わる。
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