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2018年08月31日

「あの花」脚本家が、じんたんに不登校を「脱却」させなかった理由

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岡田麿里さん(右)と「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のシーンから(c)ANOHANA PROJECT

岡田麿里さん(右)と「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のシーンから(c)ANOHANA PROJECT

 思春期の揺れる心情が描かれたアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」や「心が叫びたがってるんだ。」の脚本を手がけた岡田麿里さん(42)は中高生時代に不登校でした。「あの花」では、不登校の主人公を描きながら学校シーンはほとんど登場させなかった岡田さん。「あの花」と「ここさけ」の生みの親が、生きづらさを抱えた若者たちに伝えたいこととは? (聞き手 朝日新聞大阪社会部記者・金子元希)

これだけ覚えておいて

【岡田麿里さんのメッセージ】
・周囲を気にするよりも自分を気にしよう
何がしたいのか、何が得意なのかを考えよう
・少しでも息のしやすい『次』の場所を見つけよう

「通常営業の教室に行く勇気はなかった」

 ――いつから不登校になったのですか。

 「きっかけは小学校時代です。学校でのポジション、アニメ現場の言葉で言うなら『キャラクター設定』につまずきました。その結果、中1の途中から高校まで5年半、登校拒否児をしていました。ずっと息苦しくて、現状から逃げることができず、何の変化もなく消えていく日々でした」

<岡田さんは1976年生まれ。埼玉・秩父の公立中に通っていた。文部省(現・文部科学省)が「登校拒否」を「不登校」に改めたのは1999年だった>

 ――学校にまったく行っていなかったのですか。

 「自分を登校拒否児とは認めたくなくて、修学旅行や学期の終わりは『つじつま合わせ』になんとか登校しました。中間テストの日に行ってみたことも。その度に激しくダメージを受けて、また何カ月も学校に行けなくなってしまうんですけど。通常営業の、いつもの教室に行く勇気はなかったです」

「あの花」の登場人物がいる橋のモデルになった旧秩父橋。奥に見えるのは秩父橋=埼玉県秩父市

「あの花」の登場人物がいる橋のモデルになった旧秩父橋。奥に見えるのは秩父橋=埼玉県秩父市

出典: 朝日新聞

「妄想で過去をやり直していた」

 ――夏休みはどんな位置づけでしたか。

 「夏休みは大好きでした。それは、他の子たちも同じように学校を休んでいるから。普段は外を歩くだけでも緊張していたのですが、夏休みは『私だけが休んでいるわけじゃない』と開きなおれて、自由にふらつけたんです。夏休みが終わるときは、絶望的な気持ちになりました」


 ――学校に行かないとき、何を考えていましたか。

 「どうしてこうなってしまったのかと、過去のことばかり考えていました。こうすればよかったんじゃないかと、妄想で過去をやり直してみたり。母親に対して罪悪感もありました。『私を捨ててくれないかな』とか。その方が『学校に行く』『行かない』の問題から離れた場所に行けて、今よりマシだとまで思っていました」


 ――高校を出ると、不登校が終わったのですね。

 「上京してゲームの学校に通うことになったのですが、すごく気が楽になりました。早朝にふらっとコンビニに行けるとか、過去の私を知っている人が全然いないとか」

登場人物が並ぶイメージ画のモデルになった旧秩父橋下=秩父市寺尾

登場人物が並ぶイメージ画のモデルになった旧秩父橋下=秩父市寺尾

「つらいことがあっても踏ん張れる場所はある」

<ゲームの学校に通っていた1995年、テレビでアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」が放映され、人気を博した。アニメの業界が世間の注目を集めていく時代とも重なった>
 

 ――環境を変えたことが良かったのですね。

 「学校には『自分も不登校だった』という子が何人かいて、彼らと話すことでも救われましたね。真面目でしっかりした子が多かったな。私はだらしないですが……」


 ――仕事をするようになり、どう感じましたか。

 「私自身、シナリオを書く仕事を始めてからつらいことも多々ありましたが、学校に通うよりも困難ではありませんでした。つらいことが起こらない場所は存在しないけれど、つらいことがあっても踏ん張れる場所はあるんだなと感じました」

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のシーンから(c)ANOHANA PROJECT

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のシーンから(c)ANOHANA PROJECT

「ハッピーエンドとなるのに抵抗があった」

<アニメ「あの花」は2011年にテレビで放映され、2013年に劇場版が公開された。秘密基地に集う仲間だった6人の小学生。だが、1人の死をきっかけに疎遠になってしまう。月日がたち、高校生になると、主人公の少年(宿海仁太=じんたん)は不登校。そこに死んだはずの少女が現れる……という物語だ。大ヒットし、「聖地巡礼」として舞台になった秩父を多くのファンが訪れた。>

 ――自分の経験と重ねるファンも多いのでは。

 「不登校の男の子を主人公として描きましたが、ラストで『学校に行けるようになった』としたくありませんでした。不登校からの脱却が、ハッピーエンドとなるのに抵抗があったんです。物語の中で、学校のシーンはほとんど描いていません」

「心が叫びたがってるんだ。」のシーンから(c)KOKOSAKE PROJECT

「心が叫びたがってるんだ。」のシーンから(c)KOKOSAKE PROJECT

<2015年公開の劇場版「ここさけ」は、過去のトラウマで言葉を発するとおなかが痛くなる女子高生(成瀬順)が主人公。母親との関係に悩む姿が描かれている>

 ――当時の思いが投影されているのですか。

 「書いているときは、まったく意識しませんでした。『あの花』よりも自分から離れたものにしようと思っていたので、学校で起こる出来事がメインになっていますし。でも、書き終わってから『自分の過去を意識したか』と聞かれることは、『あの花』より『ここさけ』の方が多いですね」

「心が叫びたがってるんだ。」のシーンから(c)KOKOSAKE PROJECT

「心が叫びたがってるんだ。」のシーンから(c)KOKOSAKE PROJECT

<2017年には自伝「学校へ行けなかった私が『あの花』『ここさけ』を書くまで」(文芸春秋)を著した>

 ――自伝を書いて、何を思いましたか。

 「この歳になっても、私は意外と変わっていないなと感じました。性格にしてもそうですし、基本は家にこもって仕事をしていて、同じような日々をくりかえしているし。ただ、当時よりはだいぶ気が楽です。それは、今いる場所が自分にあっているからだと思います」

岡田麿里さん

岡田麿里さん

「少しでも息のしやすい『次』の場所を見つけてほしい」

 ――学校生活をどう振り返りますか。

 「不登校になってしまったからこそ、学校に通えていた頃のことは、ちょっとしたことでも本当によく覚えています。学生ならではの人間関係の悩みやポジションの取り方、息苦しさや焦燥感などは、脚本を書く時に役にたつこともあります」


 ――中高生やいま息苦しさを感じている若者に向けてメッセージを。

 「学校生活を楽しめるのは、語弊があるかもしれませんが『運がいい』子たちなのかなと。クラスでも部活でも、自分にとって『生きやすい』場所に所属できることってなにより大きいですから」

 「『生きづらい』場所で活路を見いだそうと努力するのは、大変なわりに貰(もら)いが少ない。そこで傷つくぐらいだったら、周囲を気にするよりも自分を気にしたほうがいいと思います。誰の目に映っても完璧な自分を求めるのではなく、『わりといいな』と自分が共感できる自分を探していく」

 「何がしたくて、何が得意なのか。まったく悩みのない場所はないとして、『これなら耐えられる』と思えるつらさはどんな性質のものか。そのうえで、少しでも息のしやすい『次』の場所を見つけていってほしいです」

     ◇

 おかだ・まり 脚本家。自伝「学校へ行けなかった私が『あの花』『ここさけ』を書くまで」を原作にした実写ドラマが9月1日、BSプレミアムで放映予定。その脚本も書き下ろした。2018年2月公開のアニメ映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」では脚本とともに初監督を務めた。


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