連載
「あの花」脚本家が、じんたんに不登校を「脱却」させなかった理由
思春期の揺れる心情が描かれたアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」や「心が叫びたがってるんだ。」の脚本を手がけた岡田麿里さん(42)は中高生時代に不登校でした。「あの花」では、不登校の主人公を描きながら学校シーンはほとんど登場させなかった岡田さん。「あの花」と「ここさけ」の生みの親が、生きづらさを抱えた若者たちに伝えたいこととは? (聞き手 朝日新聞大阪社会部記者・金子元希)
――いつから不登校になったのですか。
「きっかけは小学校時代です。学校でのポジション、アニメ現場の言葉で言うなら『キャラクター設定』につまずきました。その結果、中1の途中から高校まで5年半、登校拒否児をしていました。ずっと息苦しくて、現状から逃げることができず、何の変化もなく消えていく日々でした」
――学校にまったく行っていなかったのですか。
「自分を登校拒否児とは認めたくなくて、修学旅行や学期の終わりは『つじつま合わせ』になんとか登校しました。中間テストの日に行ってみたことも。その度に激しくダメージを受けて、また何カ月も学校に行けなくなってしまうんですけど。通常営業の、いつもの教室に行く勇気はなかったです」
――夏休みはどんな位置づけでしたか。
「夏休みは大好きでした。それは、他の子たちも同じように学校を休んでいるから。普段は外を歩くだけでも緊張していたのですが、夏休みは『私だけが休んでいるわけじゃない』と開きなおれて、自由にふらつけたんです。夏休みが終わるときは、絶望的な気持ちになりました」
――学校に行かないとき、何を考えていましたか。
「どうしてこうなってしまったのかと、過去のことばかり考えていました。こうすればよかったんじゃないかと、妄想で過去をやり直してみたり。母親に対して罪悪感もありました。『私を捨ててくれないかな』とか。その方が『学校に行く』『行かない』の問題から離れた場所に行けて、今よりマシだとまで思っていました」
――高校を出ると、不登校が終わったのですね。
「上京してゲームの学校に通うことになったのですが、すごく気が楽になりました。早朝にふらっとコンビニに行けるとか、過去の私を知っている人が全然いないとか」
――環境を変えたことが良かったのですね。
「学校には『自分も不登校だった』という子が何人かいて、彼らと話すことでも救われましたね。真面目でしっかりした子が多かったな。私はだらしないですが……」
――仕事をするようになり、どう感じましたか。
「私自身、シナリオを書く仕事を始めてからつらいことも多々ありましたが、学校に通うよりも困難ではありませんでした。つらいことが起こらない場所は存在しないけれど、つらいことがあっても踏ん張れる場所はあるんだなと感じました」
――自分の経験と重ねるファンも多いのでは。
「不登校の男の子を主人公として描きましたが、ラストで『学校に行けるようになった』としたくありませんでした。不登校からの脱却が、ハッピーエンドとなるのに抵抗があったんです。物語の中で、学校のシーンはほとんど描いていません」
――当時の思いが投影されているのですか。
「書いているときは、まったく意識しませんでした。『あの花』よりも自分から離れたものにしようと思っていたので、学校で起こる出来事がメインになっていますし。でも、書き終わってから『自分の過去を意識したか』と聞かれることは、『あの花』より『ここさけ』の方が多いですね」
――自伝を書いて、何を思いましたか。
「この歳になっても、私は意外と変わっていないなと感じました。性格にしてもそうですし、基本は家にこもって仕事をしていて、同じような日々をくりかえしているし。ただ、当時よりはだいぶ気が楽です。それは、今いる場所が自分にあっているからだと思います」
――学校生活をどう振り返りますか。
「不登校になってしまったからこそ、学校に通えていた頃のことは、ちょっとしたことでも本当によく覚えています。学生ならではの人間関係の悩みやポジションの取り方、息苦しさや焦燥感などは、脚本を書く時に役にたつこともあります」
――中高生やいま息苦しさを感じている若者に向けてメッセージを。
「学校生活を楽しめるのは、語弊があるかもしれませんが『運がいい』子たちなのかなと。クラスでも部活でも、自分にとって『生きやすい』場所に所属できることってなにより大きいですから」
「『生きづらい』場所で活路を見いだそうと努力するのは、大変なわりに貰(もら)いが少ない。そこで傷つくぐらいだったら、周囲を気にするよりも自分を気にしたほうがいいと思います。誰の目に映っても完璧な自分を求めるのではなく、『わりといいな』と自分が共感できる自分を探していく」
「何がしたくて、何が得意なのか。まったく悩みのない場所はないとして、『これなら耐えられる』と思えるつらさはどんな性質のものか。そのうえで、少しでも息のしやすい『次』の場所を見つけていってほしいです」
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おかだ・まり 脚本家。自伝「学校へ行けなかった私が『あの花』『ここさけ』を書くまで」を原作にした実写ドラマが9月1日、BSプレミアムで放映予定。その脚本も書き下ろした。2018年2月公開のアニメ映画「さよならの朝に約束の花をかざろう」では脚本とともに初監督を務めた。
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