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連載

#31 #withyou ~きみとともに~

「詩の扉は誰にでも開いている」 不登校経験の女子高生・詩ぃちゃん

詩人の言葉やエッセイをまとめたフリーペーパーを出している詩ぃちゃん
詩人の言葉やエッセイをまとめたフリーペーパーを出している詩ぃちゃん

目次

 詩人の言葉やエッセイをまとめたフリーペーパーを発行する女子高生がいます。冊子の名は「詩ぃちゃん」。鋭い感性でつづられた文章が評判です。詩を読まない10代に向け「詩の扉をひとつでも増やしたい」と、その魅力を発信しています。高校で不登校を経験した彼女は、その期間があったからこそ「本当に好きなものを見極められた」と話します。

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【今日から6回に分け、連載「表現しよう」をお届けします。気持ちを表現する方法について、様々な人に話を聞きました】

全部読めなくてもいいです、これだけ覚えておいて

【詩ぃちゃんのメッセージ@表現しよう】
・詩は短い文章なのに、その世界は広く深い
・詩人の視点を取り入れると、心の動きがまるで違ってくる
・言葉で表現することは、新しく考えを進めること
大阿久佳乃(おおあく・よしの) 2000年生まれ。三重県の高校2年生。17年8月、フリーペーパー「詩ぃちゃん」1号を発行。感性に合う詩人の言葉を紹介し、日常の思いをつづっている。好きな詩人は吉原幸子。大学で言語学を学ぶのが目標。最新3号は7月発行。発行状況や近況は、Twitter@YoshinoOakuで発信している。
大阿久佳乃(おおあく・よしの)
 2000年生まれ。三重県の高校2年生。17年8月、フリーペーパー「詩ぃちゃん」1号を発行。感性に合う詩人の言葉を紹介し、日常の思いをつづっている。好きな詩人は吉原幸子。大学で言語学を学ぶのが目標。最新3号は7月発行。発行状況や近況は、Twitter@YoshinoOakuで発信している。

詩の魅力は「お得感」

――詩はいつから読んでいますか

 中学2年生くらいから。ある日、書店をうろうろしていたら、詩集のコーナーがあって、(大正期の童謡詩人)金子みすゞの詩集がありました。ぱらぱらめくったら、全然知らない詩があって。金子みすゞには、どこか「人権の授業感」があります。その感じが、中学生ですれているかもしれませんが、嫌でした。でも、開けた詩がぜんぜん違って、いいなって。

――どういうところに、ひかれたのですか

 こんなこと言ったら怒られそうですけど、「お得感」があったのですよ。そもそも飽き性で長い文章を読むのがあまり得意じゃない。すごく短い文章なのに、こんな広く、でかいことが言えるのかって思いました。風景の広がり方が、今まで読んだものと違かった。

――「詩ぃちゃん」を始めたきっかけは何ですか

 昨年の春、詩を通して知り合いになった京都の古書店主に、周りに詩を読む子が少ないことを、お話ししました。そしたら、フリーペーパーというやり方を教えてくださって。それで「ええい、やっちゃえ」と。ラインでクラスの友人に「やらへん」って聞いたら、秒で返ってきて。その友達に表紙のデザインなどをやってもらいました。

“みんなどうして詩を読まないのだろう。考えて、浮かんだのは、いま、十代にとって、詩の扉がとても小さくて、少ないということです”

“詩は誰に向かっても開けています。ぜひ、一度覗き見してほしい”
詩ぃちゃん

適当な気持ちで読んでも

詩人・茨木のり子を紹介。“茨木さんは、誰にでもわかる言葉で、問いかけてくる。語りかけてくる。疲れ切って辛くなったとき、ちょっと休みたくなった時、心のとまり木のようになってくれる”
詩人・茨木のり子を紹介。
“茨木さんは、誰にでもわかる言葉で、問いかけてくる。語りかけてくる。疲れ切って辛くなったとき、ちょっと休みたくなった時、心のとまり木のようになってくれる”

――詩を読む10代は少なそうです。難しいイメージがあるのでしょうか

 難しい詩もあるけど、難しい小説が世の中にあるのと同じようなものです。詩も短いのもあるし、簡単なのもある。世の中にはいろんな詩があるので。それを、体験してみても損ではないです。

 「詩はいいぞー」ってやりたいというよりも、「詩を読むことは特別じゃないよ、教科書の中のものだけじゃない」と言いたいです。私みたいに適当な気持ちで詩を読んでいても、全然大丈夫。何かそういうの、知ってほしいって思います。

――自分で詩を書くことはありますか

 詩は中学の頃、書いていたんです。でも、「詩ぃちゃん」でエッセイを書き始めたら、こっちのほうが楽しいなって思って。

詩を通して考える

“「詩で考える」、これは私の詩を読む目的の一つです”

“詩人の視点をちょっと取り入れるだけで心の動きがまるで変わってくる。動き方そのものや、動くスケールが変わるのですね”
詩ぃちゃん

――言葉で自分の気持ちを表現することについて、どう思いますか

 言葉で表現するのは他人への伝達のためというより、まずは自分のため、という側面が私にとって大きいです。それを書いている最中、どんな言葉があてはまるか探しているうちに新しく思いつくこともあります。言葉で表現することは、新しく考えを進めることになるのだと思います。

――どのように書いていますか。表現する上で、悩みはありますか

 最初、私はノートに書いています。その時は自分との対話状態ですね。自分らしさ全開で、(思っていることを)箇条書きみたいな感じで書きます。次にそれを文章に書き直します。「だ・である調」だったものを、を「です・ます調」に変えて。
 
 私のことを「詩ぃちゃん」と呼んでくれる方もいるんですけど、私らしさと「詩ぃちゃん」らしさ、1号の時はだいたい同じだった。でも3号くらいになると、ちょっと変わってきて・・・。3号はなじみのある「だ・である調」で書こうと思っていました。そうすると、「詩ぃちゃん」らしさがなくなる。ズレが出てきました。

詩人・吉原幸子を紹介。“吉原幸子の詩を読むとき、私は自然と気を引き締めてしまいます。彼女の詩は、詩人と、読んでいる自分が一対一であることが、かなり明確に感じられるからです”
詩人・吉原幸子を紹介。
“吉原幸子の詩を読むとき、私は自然と気を引き締めてしまいます。彼女の詩は、詩人と、読んでいる自分が一対一であることが、かなり明確に感じられるからです”

――好きな詩人はいますか

 すぐ思いつくのであれば、吉原幸子さん。吉原さんは、だいたいが「愛」っていう詩題。向き合っていると自ずと苦しい感じになる。その苦しさが、そのまま苦しくもあったり、苦しさが心地よかったりするのが、いいですね。

「高校生」というレッテル

――「詩ぃちゃん」にはどんな反響がありましたか

 最初は自分のまわりでまったくなかったんですよ。関西の古本屋さんとか、本好きな方が反応してくれました。そこから反応が広がって、私のまわりでやっと反応が届きました。

――どんな反応がありますか

 うれしいのは、「高校生」っていうワードが入っていないものです。高校生がやっている貴重さみたいなことを聞くと、「うん?」って。私が高校生じゃなかったら、こんなに広まっていなかったと思うので。仕方がないのですが、どこか釈然としません。私が高校生という言葉に助けられているのも事実であり、高校生という言葉になんやねんと思わされているのも事実なんです。

不登校の半年があったから

「詩ぃちゃん」を発行する大阿久佳乃さん
「詩ぃちゃん」を発行する大阿久佳乃さん
“私は学校から帰ると、たいてい疲れています。ほとんどの高校生がそうかもしれないけれど、純粋に楽しかった、という気持ちであることはまずない。今日という日はなんでもないはずなのに、思わず溜息などが出てくる”
詩ぃちゃん

――「詩ぃちゃん」には不登校の経験も書いています

 私は出席日数が足らず1年留年しています。2016年、「最初の」高校1年生の時、やりたいことが、あまりわかっていませんでした。すごく忙しくて、追い立てられるままでした。めっちゃ勉強、がぁーってやって。あんまり考えずに。読書の時間とかもあまりなくて、自分も本を読む時間がなくてもいいやと思っていました。

 そして、きっかけなしにいきなり学校に行けなくなりました。突然です。半年ほど不登校になってしばらくは、ぼんやり、だるい感じの期間がありましたが、それから2~3カ月したくらいから、めちゃくちゃ本や詩を読み始めました。いい言葉そのものに触れることって、やっぱり「必要」と思いました。

 だから自分にとって何かを読むことは、趣味というよりも必要なことっていうのに気づいて。そういうふうに気づくことができたから、(不登校の期間が)あってよかったなって。立ち止まってみなかったら、言葉が自分にとっていかに大切かというのがわからなかったです。

――立ち止まることも、時に必要ということですか

 私は今、何に向かいたいか、はっきりしています。詩に向きあおうと思ったのは、その期間がなかったらできなかったことだなって思います。中学から何回か不登校をしていたんですけど、意味のある不登校でした。

“去年がなければ、私は自分の本当に好きなものを見極めることはできませんでした。読書が自分にとってどれほど大事か気付くことはありませんでした”
詩ぃちゃん

言葉 私に必要なもの

“詩を読むことは共感以上のもの、むしろ「一体となる」経験を与えてくれる”
“詩を読むことは共感以上のもの、むしろ「一体となる」経験を与えてくれる”

――その時期に読んでいたのものは

 ギリシア悲劇全集を読んでいました。戯曲もすごい好きなので。一回人生で読みたかったものを読んでみようという感じでした。清水昶(あきら)という人の詩も読んでいました。

――その読書の中で、不登校中の心に響いた言葉はありますか

 私は、言葉に「感動」したことは本当になくて。ギリシア悲劇とか清水昶の詩を読んだ時に、感動したというよりも「必要」と思いました。こういう詩を読んでおもしろいと思うこと、その「体験そのもの」が必要というか。

 私は感情化したくて、ものを読むのが無理です。だから「泣ける本」というのは反感があります。言葉の連なりとか、それが作り出す映像の豊かさに感動します。励ましてくれるような物語とかはどちらかというと苦手です。

――その体験が「詩ぃちゃん」をつくって、今の自分をつくっていると

 私はそう思います。

話す相手がいれば 草木でもハムスターでも

詩人・吉野弘を紹介。“励まされたってどうにもならない。そう感じるような荒んだ心の時、励ましてこないからこそ このひとの言葉は貴重です”
詩人・吉野弘を紹介。
“励まされたってどうにもならない。そう感じるような荒んだ心の時、励ましてこないからこそ このひとの言葉は貴重です”

――学校生活はどうですか

 私が通っている学校は、生徒がチームで研究したり、頻繁にテストや集会があったり、すごく忙しいです。体育祭や文化祭も大規模にやりますが、そういった学校行事が苦手です。

 今、学校をやめるか、やめないかを考えています。高校生活と、大学に行くこと、「詩ぃちゃん」を続けること。今の私には三つあって、どれかを手放すなら高校です。なんで悩んでいるかというと、ここで得た人間関係が捨てがたいからです。私、こういう趣味なのでなかなか10代の友達が……。クラスの友達やいい先生にも出会いました。自分の中で、どう折り合いをつけていくか。

――学校に居心地のわるさを感じている人たちに、言葉をかけるなら

 本当に人並みのことしか言えないんですが、話せる人がいるっていうのが一番大事です。まずはその辺の草木からでもいいので。私ハムスターを飼っているんですが、「うざ絡み」するのがめちゃくちゃ好きなんですよ。「何してんの、何してんの」ってめっちゃ言うんですよ。

 まじめな話ばかりしすぎると、話すこと自体おもしろくなくなると思うので。不登校のことを話し合うのも大事だと思うんですけど、不登校以外の話題をいっぱいしゃべろうと。不登校だからこそ、自分がほかに夢中になっていることとかを、話せる人は強いです。

――学校以外にも何かあると強いということですか

 学校に行かないと、それだけで沈むんですけど、こういうふうに別の人とつながれる話題があると違うと思います。その中で、自分の方向性も決まってくることもあると思います。

ラインで叫ぶ 心は軽くなる

「詩ぃちゃん通信」では日常の思いをつづる。“本心がどうしても見つからないときもあるけれど、「詩ぃちゃん」は全部本心だとはっきり言えるものでありたい”
「詩ぃちゃん通信」では日常の思いをつづる。
“本心がどうしても見つからないときもあるけれど、「詩ぃちゃん」は全部本心だとはっきり言えるものでありたい”

――普段話をするのはだれですか

 まず母とよくしゃべりますよ。担任の先生や、高校は別の中学時代の友達だとか。ラインがあるって便利ですね。直接しゃべると場所、時間がいるので。切迫しているときほど、そのくらいのツールが役立ちます。

――切迫している時とは

 急に、おわっ、来たみたいな。今、高校をやめるのか、やめないかを迷っています。急にその選択権が自分にあるって大いに感じた時とか。

 そういう時はラインで中学時代の友達に「ちょっとー!!!」と、メッセージを送ります。ただ叫ぶだけです(笑)。返事がきたら、それだけで安心するんです。不安に向き合うことも大事ですが、思い詰めすぎるのもよくないので。

表現を通じて広がった輪

(左から)詩ぃちゃん2号、3号、2.5号。いずれも配布終了。最新の状況はTwitter@YoshinoOakuから
(左から)詩ぃちゃん2号、3号、2.5号。いずれも配布終了。最新の状況はTwitter@YoshinoOakuから

――「詩ぃちゃん」を出したことで気持ちの変化は生まれましたか

 一番変わったなと思うのは、会いたい人ができたことです。「詩ぃちゃん」を置いていただいているお店の方とか、いっぱいいます。以前は、そんな新しい人間関係をつくることは、あまり好きじゃなかった。「詩ぃちゃん」でできたつながりに関しては、積極的にお会いしたいし、お話したいなって思うようになりました。

――「詩ぃちゃん」を通して、輪が広がった

 こんなフリーペーパーを読んでくれている、変な人は誰なんだい?って感じです(笑)。外交的になりました。めっちゃ、ちょっとですけどね。

詩ぃちゃんのTwitterはこちら


 

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