連載
中学で薄毛、仲間は陰口…「アンタッチャブルな空気」壊すため金髪に
14歳のころから、薄毛に悩んできた大学生がいます。中高時代は、学校で容姿について陰口をたたかれるなどして、人前に立つ自信を喪失。行事への参加を諦めたこともあります。しかし「周囲の『アンタッチャブルな空気』を壊したい」と、あえて金髪にする逆転の発想で、前向きさを取り戻しました。薄毛のコンプレックスや、当事者をさげすむ風潮と、どのように向き合えば良いのか。聞いてみました。(withnews編集部・神戸郁人)
大学生は、「ぽじはげぶっだ」さん。薄毛と向き合ってきた体験について、ツイッター(@posihage)やブログで発信しています。「自分と同じように悩む若い人たちに、少しでも役立つ話ができれば」と、取材に応じてくれました。
――抜け毛が多いと気付いたのはいつごろでしたか
14歳、中学2年生でした。シャンプーをしていた時、鏡に映った自分のつむじを初めて目にしたんです。地肌が透けるほど薄かった。薄毛が多い家系であったことなどから、「いつか俺もハゲるな」と思ってはいたものの、ショックでした。
――生活に影響は出たのでしょうか
人前に立つ自信が無くなりました。バスケットボール部に入っていたのですが、汗をかくと、髪がぺちゃんこになるのがつらくて。「いじめられるのでは」という思いが強まり、練習に消極的になっていきました。
エスカレーターに乗るのも苦しかったです。通りすがりの人に、頭をじろじろ見られているような気がして。地獄でしたね。だんだんと内気になり、元は外遊びが大好きだったのに、1人でゲームやアニメを楽しむようになりました。
――薄毛を理由に、学校でいじめられた経験はありますか
それは無かったです。むしろ、「触れちゃいけない」という周囲の空気を感じました。自分の存在が「アンタッチャブル化」していたのだと思います。
高校進学後もバスケ部に入ったのですが、1年生の時、練習後に「あいつの頭やばくない?」「それ言うのやめとけよ」と、先輩がひそひそ話しているのを聞いたんです。
居心地が悪いですよね。他人に気を遣わせるのも申し訳なかったですし。同時に「やっぱり、ハゲって悪く言われるんだ」「これからの人生、ずっとこうなのか」と、絶望的な気持ちになったことも忘れられません。
――対策は考えたのでしょうか
親にも友達にも相談できず、17歳の時、1人で植毛クリニックに行きました。でも「治療には100万円ほどかかる」と言われて、諦めました。
その後も試行錯誤しました。発毛作用があるとされるシャンプーを使ってみたり、ネットで育毛剤や発毛剤について調べたり。ただ、具体的な成果は得られなかったんです。
――そんな中、何が転機になったのでしょう
大学1年生で、ダンスサークルと出会ったことです。派手な服装や髪形のメンバーが、格好良く踊るのを見て、「俺もああなりたい」と入りました。でも、最初は頭を隠すため、野球帽をかぶり通っていました。
一方で「何かアクションを起こさないと、またアンタッチャブル化する」という恐怖心もありました。そこで加入して2カ月後、思い切って髪を金色に染めたんです。「黒髪だと薄毛が気になるんで、やっちゃいました!」と、告白もしました。
「実は薄いって気付いてたけど、似合うじゃん」。仲間たちは、最初こそ驚いたものの、すぐ笑いかけてくれました。周りにありのままの自分を受け入れてもらえたことで、どんよりした曇り空が、一気に明るくなった思いでした。
――ブログやツイッターで、薄毛に悩んだ経験について発信していますね
僕自身、「コンプレックスで青春を台無しにしてしまった」という後悔があります。そこで、同じ悩みを持つ人に少しでも役に立てればと、去年始めました。読者から、薄毛との向き合い方を相談されることもたびたびです。
今も覚えているのですが、高校2年生の時、文化祭の実行委員になりたいと思っていたんです。学校全体が盛り上がる、一大イベントの中心にいたかった。でも「ハゲが人前に立てるわけがない」と勝手に決めつけ、諦めて行動しませんでした。
――気後れしてしまったのですね
大学で金髪にして以降は、積極的に行動できるようになりました。他のメンバーより懸命にダンスを練習し、サークル内のダンスバトルで優勝するなどの経験ができました。おかげで、中高時代は味わえなかった青春を過ごせたと思っています。
髪を染めたのはきっかけでしかありません。「これは頑張った」と言える経験を重ねたことこそが、帽子無しでも過ごせる自分をつくってくれました。
――薄毛に悩む学生に伝えたいことは
僕は中高生のころ、周りが恋愛やおしゃれを楽しんでいる中、「何で俺だけ……」と思っていました。最近は、「悩みとどう心地良く付き合っていくか」を考える方が良いと感じています。
薄毛に関するつらさがあったから成長できたし、見える世界があった。弱みと考えているものは、自分がそう思い込んでいるだけかもしれないし、強みにもなりえます。
悩みをさらけ出せる人には、相手も心を開きやすくなる。薄毛に劣等感を抱く学生には、勇気を持って一歩踏み出すことも考えてほしい、と言いたいです。
今回取材をした私も、実は薄毛に悩んできた1人です。正確には、毛が少ないというより、一本一本が細く柔らかい状態。いわゆる「つるっぱげ」ではなく、言われてみれば薄めかな、という程度です。
しかし、中高時代はしんどい思いをしました。苦痛だったのは、朝の髪形を整える時間。整髪料をつけすぎると、髪がまとまり地肌が見えてしまう。三面鏡の前でせわしく頭を動かし、「髪がつぶれていないか」と、あらゆる方向から確認したものでした。
うまくいかない日は、最悪の気分です。勉強も運動も手につきません。「もう嫌だ」と、「毛生え薬」に頼った時期もありました。こうした経緯は、ぽじはげぶっださんの歩みとよく似ています。
これほど髪のことを気にするのは、「周囲の価値観から外れたくない」という気持ちがあったから。特に、見た目が重視されがちな学校生活では、「ハゲ」のレッテルをはられるのはつらい。何とか「普通」になりたいと、必死でした。
裏を返せば、周りの目が気にならなくなるほど、誇れるものがない。そんな状態だったのかもしれません。だから、ぽじはげぶっださんが、自分のコンプレックスを強みに変えたという話からは、大きな勇気をもらいました。
私の場合は、趣味や大学でのサークル活動を通じ、色々な友人と出会えたことが転機になりました。髪の量より、私自身の人間性に目を向けてもらえた経験が、外見への意識を小さくしてくれました。
ぽじはげぶっださんと私に共通するのは、髪以上に大事にできるものがある、という点です。そしてそれは、自分自身を大切に感じることで、初めて達成されるものだと思います。このことは、あらゆるコンプレックスと向き合う上で、必要になるのではないでしょうか。
「普通」になれないことは、決して悪くない。むしろ、自分に合う環境や、打ち込めるものを探す方が、充実した生き方につながる。そう教えてもらえる取材となりました。
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