連載
#12 「見た目問題」どう向き合う?
顔のあざ、インスタで公開 「かわいそう」じゃない女子大生の決意
顔の変形やあざ、まひ……特徴的な外見のため好奇の目にさらされ、学校や就職、結婚で差別を受ける「見た目問題」。生まれつき、顔の右側にあざのある大学4年生の彩さん(21)が、インスタグラムで自らの顔を公開し、大きな反響を呼んでいます。なぜ公開したのでしょうか。彩さんに話を聞きました。
都内の駅の改札口で、彩さんを待ちました。やってきたのは、笑顔がすてきな、どこにでもいる大学生。違うのは、顔の右側に薄い紫色のあざがあることです。
生まれつき「単純性血管腫」があり、毛細血管が拡張しているから、紫色に見えるといいます。中学1年生の冬まで、年3回ほどレーザー治療を受けてきました。あざに痛みはなく、見た目以外の症状はありません。
彩さんは今年4月4日、3年ほど前に始めたインスタグラムへの約1000枚目の写真で、初めて顔を公開しました。「“世の中、色んな人がいるんだなあ”と知ってもらいたい。皆知っていれば、見た目によって友達ができない、働けない、とか様々な“見た目問題”が少しは解消されるはず」とメッセージを添えました。投稿には、1900件を超える「いいね」が付きました。
(4月4日に公開したインスタグラムの写真)
インスタには、「世界中のみんなに、この文章を読んでほしい」とメッセージも。
なぜ公開しようと思ったのでしょうか? 彩さんは視線をそらさず淡々と話してくれました。
「もともとは日記の代わりに、旅先で撮った写真を載せていました。でも、顔写真を公開するのは、避けていました。SNSで公開することに抵抗や怖さがありましたので」
「フォロワーが増える中で、SNSとリアルな自分が乖離(かいり)していくことに抵抗を感じていました。また、SNSで知り合った人と、実際に会って友だちになることもあるので、SNS上に素の自分を出したほうがいいと思い、顔を公開しました。見た目問題に悩んでいる人たちの力になりたいとの思いもありました。私がSNSや街中で顔をさらしまくるから、みんな単純性血管腫のことを知ってねって、感じです」
公開後、フォロワーは4000人まで増えました。初めて会う人にあざの説明をする必要がなくなり、友だちづくりが楽になったといいます。
同じ症状を持つ子どもの親から、メッセージが届くこともありました。そんなとき、彩さんは必ず、「親が隠すのだけは絶対にやめて」と伝えているそうです。
「確かに、外に出れば、傷つくことがあるかもしれない。でも、『かわいそう』だからと外に出ないと、子ども自身が『自分はかわいそうな存在なんだ』って思うようになってしまいますから」
自身を「気が強く、いじられないタイプ」の子どもだったという彩さん。あざのことでいじめられた経験はありませんが、小さいころから他人の視線には敏感でした。
「街で、知らない人に顔を見られまくることに困っています。一瞬、パッと見られるくらいなら、まぁ仕方ないなって割り切っています。症状がある私だって、知らない症状を持つ人に会ったときにびっくりすることがありますから。でも、好奇の目で2回も3回も見てくる人には、不快感を覚えます」
「電車で隣に座ったおばちゃんに、『どうしたの?』って聞かれて、生まれつきって説明したら、『女の子なのにかわいそうねぇ』って言われて。なんで私は見知らぬ人に同情されるんだろうって。おばちゃんに悪気はなかったと思うので、許していますが。『かわいそう』とか勝手に決めつけないでほしいですね」
(インスタには旅の写真を載せることも多いです)
他人の視線は、アルバイトを選ぶときにも壁になりました。
「派遣の登録に行ったとき、面接相手に『その顔でもできる仕事を探そうね』って趣旨のことを言われて、『エッ』と思いました。結局、1度も仕事はもらえませんでした。見た目が関係あったのかどうか、実際はわからないですけど、面接での反応から考えると、差別されちゃったのかなって思いました」
他人の視線が気になって、恋愛にも消極的になっていました。「一緒にいたら、彼も他人からの視線を浴びるわけですから」
21年間あざとつきあい、積極的に発信もするようになった彩さん。最後に、聞いてみました。あざのある顔を受け入れていますか?
「『受け入れている』って表現はしっくりきません。今も、『あざがなかったらよかったなぁ』ってふと思うこともあります。正直、コンプレックスです。でも、『コンプレックス=ダメなもの』ではないと思います。私の『個性』とも思っています。覚えてもらいやすいですし。自分があざをもって生まれたことに、何らかの意味があると思っています」
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