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連載

#10 「見た目問題」どう向き合う?

変形した顔、悩んだ男性 小学生に伝えた「大切な時間」と「支え」

トリーチャーコリンズ症候群の石田祐貴さん(中央)
トリーチャーコリンズ症候群の石田祐貴さん(中央)

目次

 人とは違う見た目のため、好奇の目にさらされ、学校や就職、結婚で差別にあう「見た目問題」。上映中の映画「ワンダー 君は太陽」では、遺伝子の疾患で顔が変形した10歳の少年オギーが、見た目に悩む姿が描かれています。この映画を鑑賞した江原小学校(東京都中野区)の6年生68人が6月下旬、特別授業で、オギーと同じ疾患を持つ大学院生、石田祐貴さん(25)と交流しました。

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映画「ワンダー 君は太陽」オギー(写真右)は生まれつき顔のほおやあごの骨の発達に異常がある「トリーチャーコリンズ症候群」で、27回もの手術を受けてきた。顔にコンプレックスを抱え、外出時には宇宙飛行士のヘルメットをかぶっていた。自宅で学習を続けていたが、小学校5年から学校に通うことに。オギーは学校で好奇の目にさらされ、いやがらせを受ける。家族の励ましでなんとか学校に通い、子どもたちもオギーの人柄にひかれていく
映画「ワンダー 君は太陽」
オギー(写真右)は生まれつき顔のほおやあごの骨の発達に異常がある「トリーチャーコリンズ症候群」で、27回もの手術を受けてきた。顔にコンプレックスを抱え、外出時には宇宙飛行士のヘルメットをかぶっていた。自宅で学習を続けていたが、小学校5年から学校に通うことに。オギーは学校で好奇の目にさらされ、いやがらせを受ける。家族の励ましでなんとか学校に通い、子どもたちもオギーの人柄にひかれていく 出典: Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

特別授業、はじまりはじまり~

 石田さんが登場すると、子どもたちの視線が石田さんに集まりました。みんな真剣なまなざしです。特別授業が始まりました。

 

石田さん

僕の顔、オギーと似ているかな?  同じ病気です。
石田さん(左)と映画「ワンダー 君は太陽」のオギー
石田さん(左)と映画「ワンダー 君は太陽」のオギー 出典: Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

石田さん

僕もオギーと同じように、嫌な思いをしてきました。ジロジロ見られたり、「宇宙人」「バケモノ」と言われたり。

映画はハッピーエンドで終わりますが、僕は小学校・中学校は好きではなく、中学では、不登校も経験しました。高校は特別支援学校に進み、優しい友だちと出会いました。今は、大学院で楽しい日々を送っています。

だけど今も、初めて会う人は僕を見て、「エッ」と反応します。電車で僕が座っていたら、隣に座ろうとした人が、僕の顔を見て、そのままどこかに行ってしまうこともあります。

 

僕も何度も手術を受けていますが、違和感のない顔にはなりません。その分、内面を磨こうと思っています。

小中学校の友だちは

 質疑応答の時間には、「はいっ」と多くの子たちが手を挙げました。

 

児童

つらかった小学校・中学校の時にも友だちはいましたか?

 

石田さん

いました。幼稚園のころからの友だちが多かったです。物心ついたときから僕の顔を知っていたので、なんとも思わなかったんだと思います。

小学生のとき、友だちと公園で遊んでいると、見知らぬ子たちが僕の顔をからかってきました。そのとき、友だちが「放っておいて、気にせず遊ぼう」と言ってくれました。
小学生の前で話す石田さん
小学生の前で話す石田さん

 

児童

学校に行くのは、不安でしたか?

 

石田さん

とくに初めて会う人には「何か言われるかな」「仲良くしてくれるかな」と不安でした。

母「あなたのままでいい」

 

児童

不安なとき、心の支えになったことは何ですか?

 

石田さん

両親が、僕のことを普通の息子として、接してくれたことが大きいです。

オギーのように、僕も母親に「どうして僕はこんな顔なんだ」「なぜ、こんな顔で生んだんだ」と言ったこともあります。

母親は「顔がどうであれ、私の息子。あなたは、あなたのままでいい」と言ってくれました。僕の一番の理解者である親に、そう言ってもらえたことは支えになりました。
小学生の前で話す石田さん
小学生の前で話す石田さん

学校に通えなくなって考えたこと

 子どもたちは誰一人寝ることもなく、石田さんの話に耳を傾け続けました。

 

児童

つらいとき、どうやって気持ちを切り替えたんですか?

 

石田さん

中学校で学校に通えなくなったとき、1人でいろいろと考え、僕なりに答えを出しました。

まず、「石田と関わりたい」って周りに思ってもらえるような、魅力的な人間になろうと思いました。人に優しく接し、人の話をよく聞ける人間になろうと。

もう一つは、僕はこの見た目なので、初対面の人は僕に話しかけづらいと思います。ですので、自分から話しかけるようにしようと意識しました。
子どもたちと交流した石田さん(右)
子どもたちと交流した石田さん(右)

 

児童

支援学校から一般の大学に進学したのは、なぜですか?

 

石田さん

正直、不安でした。また嫌な思いをするんじゃないかって。

そんな時、支援学校の先生が「つらいことから逃げるな」と背中を押してくれました。

両親も「途中で嫌になったら、退学してもいいよ」と言ってくれました。進学した以上は頑張らないといけないと思っていただけに、両親の言葉は救いになりました。

当たり前、でも大切な時間

 

児童

人生で一番楽しかったことは何ですか?

 

石田さん

友だちと話して、笑うことです。

当たり前のことかもしれないですけど、僕の場合は、小学生のとき、友だちと笑いあえる時間が少なかったですから。それだけに、今はそういう時間がものすごく楽しいし、大切だなって感じています。
小学生の前で話す石田さん
小学生の前で話す石田さん

親切ってなんだろう?

 映画では、「親切にすること」の大切さが繰り返し訴えられます。子どもたちからも、こんな質問が出ました。

 

児童

石田さんにとって、親切とは何ですか?

 

石田さん

相手のことを思いやることです。

僕は聴覚にも障害があって、右耳のほうが聞こえやすくて、左耳は聞こえにくい。あるとき、友だちと話していた時、友だちが何も言わずに、僕の右側に移動してくれました。そういうさりげない優しさ、思いやりが、すごくうれしかった覚えがあります。

 授業の終わりに、石田さんが給食を一緒に食べることが発表されると、大きな歓声が上がりました。はじめは緊張していた子どもたちもすっかり打ち解け、記念撮影では、石田さんを中心に笑顔が広がりました。

子どもたちと給食を食べる石田さん(中央)
子どもたちと給食を食べる石田さん(中央)

びっくりしたけど、慣れました

 石田さんと児童に感想を聞きました。

 

石田さん

子どもたちに、トリーチャーコリンズ症候群を知ってもらえてよかったです。

僕が話したことが、子どもたちが生きていく上で、何かのヒントになってくれればいいなと願っています。

 

野村弦希さん(11)

石田さんを初めてみたときは、(見た目に)びっくりしました。

でも授業の時間がたつにつれ、そうした思いもなくなって、次に石田さんに会っても普通にお話ができるなと思いました。石田さんの顔に慣れたのかなと思います。

見た目ではなく、中身が大事なんだと思いました。
授業の後には、石田さんを囲んで記念撮影をしました
授業の後には、石田さんを囲んで記念撮影をしました

慣れてください。視線が違ってきます

 映画では、オギーの親友が、オギーと知り合い、「顔には慣れることを学んだ」と回想する場面があります。

 記者が石田さんと初めてお会いしたのは1年ほど前。正直に言えば、石田さんの顔を見て、違和感を覚えました。ただ、30分も話をしていると、違和感は薄まり、石田さんの話の内容を聴きとることに集中していました。

 そう、顔には慣れます。

 この記事を読んでいただいた中には、トリーチャーコリンズ症候群を初めて知ったという方も多いと思います。この記事を機に、石田さんの顔に慣れてください。そうすることで、街中で、見た目問題の当事者を見た時にも、「あっ、見たことあるな」と思えるようになり、当事者に向ける視線が違ってくると思います。

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