地元
「DJポリス」握りしめたメモ 交差点で「4カ国語駆使」、その舞台裏
「グオマールー イーチエン チン カン イーシア ズオビエン ヨウビエン ダ アンチュエン」。交通整理で活躍するDJポリス、福岡にもいると聞いて会いにいったところ、中国語の呼びかけに遭遇しました。さすがアジアの玄関口といわれる土地。数あるDJポリスの中でも、4カ国語を駆使するスペックは異色です。いったい、どんな人なのでしょう?(朝日新聞西部報道センター記者・島崎周)
冒頭の中国語の意味は「グオマールー イーチエン チン カン イーシア ズオビエン ヨウビエン ダ アンチュエン(信号を渡る前に左右の安全を確認しましょう)」。
北九州市八幡西区岸の浦2丁目の交差点。青空の下、中国語で語りかけていたのは県警の神矢直樹警部補(39)です。さらに英語、韓国語でも横断歩道を渡る時の注意を呼びかけます。
「信号は赤ですよー!今渡られた方!Don't cross the street(道路を渡らないで下さい)信号を守るようにお願いします」
外国語も耳に入ると、「いったいなんだろう」と気になります。外国人とみられる歩行者が、神矢さんの方を見て足をとめる様子もありました。
「福岡版DJポリス」は、どのように誕生したのでしょうか。
きっかけは、福岡県などが2016年から取り組む「横断歩道マナーアップ運動」でした。
活動が3年目に入る前の昨年末、県警内で「事故防止を効果的に訴えるために、DJポリスがいいのでは」と提案があり、県警交通企画課安全対策係長の神矢さんが「人前でしゃべるのが好きだった」と立候補したそうです。
県警によると、県内ではここ数年、道路を横断中に車にはねられて死傷した人が2千人前後に上っていました。
県内には外国人観光客らも多く、被害に遭うこともあります。そこで神矢さんは日本語だけでなく外国語での呼びかけをすることにしたそうです。
「神矢さん、4カ国語は話せるんですか?」
おそるおそる聞いてみると、「いや、日常会話も話せないくらいのレベルです」と苦笑されました。
神矢さんは大学時代に第2外国語で中国語を学び、10年ほど前には「仕事で役に立つかもしれない」と英会話教室に通った経験があるそうです。
とはいえ、「ペラペラと話せない」とのこと。街頭で読み上げる文章は、外国人犯罪などを取り締まる県警国際捜査課で通訳をしている同僚に訳してもらったそうです。
録音した文章を何度も聞きながら、正しいアクセントを練習。現在はラジオ英会話も毎朝続けているほど熱心です。
「外国人が振り向いてくれたり、足をとめて聞いてくれたりする様子が見えるとうれしいです」
DJポリスといえば外せないのが、ちょっと笑えたり、興味をひいたりするような語り口調です。
東京・渋谷のスクランブル交差点では、サッカー日本代表がW杯出場を決めた夜に、「みなさんは12番目の選手です。チームワークをお願いします。駅の方へ進んでください」と呼びかけて、話題になりました。
「自分は小倉北の出身で、ここに来るとただいまという気持ちになります」「春になって暖かい季節ですので、春眠暁を覚えずと言いますが、居眠り運転などしないように十分気をつけていただきたい」
神矢さんも出身地や季節をネタに、歩行者や運転手をクスリとさせます。下校中の児童にも「今日は風が強いね。気をつけて」と優しく語りかける一面も。
活動は今年1月から始め、現在月1回ほど。JR博多機や天神の繁華街など県内各地の交差点に立って、呼びかけをしています。
全国で生まれているDJポリスですが、神矢さんは4カ国語DJというキャラで注目を集めはじめています。
そんな神矢さん。車に登る前、手元には、マイクと手のひらサイズのメモ紙が一枚ありました。
「ん?この紙はなんですか?」
メモには「1分間だけ私に下さい」といったうたい文句のほか、交通事故の件数や死傷者数なども書かれていました。
そのほかに、英語や中国語、韓国語での発音の仕方などがびっしり……。
車の上ではなめらかな呼びかけを披露していますが、地道な準備と努力の積み重ねがあってのDJだったのです。
そんな神矢さんの姿からは、交通安全にかける切実な思いが伝わってきました。
神矢さんは「横断中の歩行者の事故を何とか減らし、心に響く話ができるDJポリスをめざしたい」と話していました。
1/10枚