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#21 夜廻り猫

「本気なの?」別れの理由が、奨学金だなんて…夜廻り猫が描く学費

目次

 「別れるって本気なの?」。ある夜、涙を浮かべた女性が聞きます。「うん どうしても一人になりたい」。男性が決意した別れの本当の理由は……。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「若者の重荷」を描きました。

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就活に失敗、フリーター 重い奨学金の返済

 「本当に? 別れたいって…本気なの?」

 女性が尋ねても、男性の決意は揺るぎません。「どうしても一人になりたい」と言って去っていきます。

 「むっ 涙の匂い!」。きょうも夜の街を夜周りする猫の遠藤平蔵は、心の涙に気づきます。

 遠藤が声をかけたのは、別れを告げた男性の方でした。「おまいさん泣いておるな? 心で」

 男性は本当の理由を打ち明けます。

 「就活、だめだった 春からフリーター それに奨学金の返済 結婚も子どもも無理だ」

 彼女を巻き込みたくないと、それを隠したまま別れを決めたのでした。

 「借金まみれで行き場もない だけど最低限、人の足を引っ張るやつにはなりたくない」

 遠藤はかけられる言葉もなく、若者が生きていける機会と希望を与えてほしい……と願うのでした。

高い教育費 本当に「借りた人が悪い」のか

 作者の深谷かほるさんは、「今の奨学金制度が、若者の重荷になっていないか」との思いで、この漫画を描きました。

 奨学金が理由で自己破産してしまった男性を紹介した記事に、「借りた人が悪い」というコメントがたくさん寄せられているのを見たそうです。

【奨学金800万円重荷「父さんごめん」 親子で自己破産】いま働いているマーケティング会社の手取りは月20万円ほど。家賃などを除くと、奨学金を返す4万円が重い。機構に返還猶予を求めたが、年収300万円以下の条件をわずかに超えた。
奨学金800万円重荷「父さんごめん」 親子で自己破産(朝日新聞デジタル)
【奨学金破産】奨学金にからむ自己破産の背景には経済環境の変化がある。16年度までの30年間で国立大の授業料は2.13倍の約54万円、私大は1.76倍の約88万円になった。一方で平均給与は大きく増えず、仕送り額は減少傾向が続く。卒業後も非正規雇用などで収入が安定せず、返還に困る人が続出している。
月3.9万円の奨学金返済、48歳まで… 子ども諦めた(朝日新聞デジタル)

 深谷さんは「奨学金で解決できたのは、学費が安く就職状況が良かった頃の話ではないでしょうか」と問いかけます。

 国公立大でも学費が上がり、就職できても非正規雇用では不安定、正社員になれても一生の保証はありません。

 「就職に成功し、職場環境に恵まれ、本人も家族も健康で……といういくつもの幸運に恵まれなければ、返済できないのではないでしょうか」

 若者の未来の重荷になっている奨学金。本当に「借りた人が悪い」のか、と投げかけています。

【マンガ「夜廻り猫」】
 猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
 泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
 そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
 遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
 ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。

     ◇

深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。単行本1~3巻(講談社)が発売中。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。黒猫のマリとともに暮らす。

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