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2018年04月07日

あの「シャッター街」まさかのインスタ映え 値札のないマーケット

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異国情緒漂う雰囲気が売りの一つ=2017年7月16日

異国情緒漂う雰囲気が売りの一つ=2017年7月16日

出典: トリックデザイン提供

 さびれた商店街が全国各地で問題化しています。大型スーパーに加え、ネットで商品を簡単に買える時代。活性化策もなかなかうまくいかないのが現状です。そんな中、通天閣でおなじみ、大阪・新世界の商店街が、週末、若者を巻き込んだにぎわいを見せています。あえて値札をつけず、「値切る」こと自体を体験する「Wマーケット(Weekend Priceless Market)」。インスタ映えする雰囲気作りも意識する「新しいエンタメ」商店街の試みを体験してきました。

コンセプトは、「シャッター街で、遊ぼう。」

コンセプトは、「シャッター街で、遊ぼう。」

出典: トリックデザイン提供

100年の歴史 今は「シャッター街」

 大阪・新世界にある「新世界市場」は、100年以上の歴史を持っています。

 2月のとある平日、大阪市営地下鉄堺筋線で、最寄りの恵美須町駅へ。地下道から地上に出た瞬間、目の前に通天閣が飛び込んできます。

恵美須町駅から通天閣に通じるメイン通り。右手に「新世界市場」が見える

恵美須町駅から通天閣に通じるメイン通り。右手に「新世界市場」が見える

出典: トリックデザイン提供

 串カツ屋やお好み焼き屋に加え、ハローキティをあしらったピンク一色の駐車場や、飲み物1本50〜80円の自販機、ガチャガチャ尽くしのテナントなど、独特の光景があちこちに。平日でも観光客が絶えず、外国人の姿も目立ちます。

 そんなにぎやかな繁華街のすぐそばに、新世界市場があります。

 年季の入った電光掲示板、「この市場を通っても、行け」の手書き看板。新鮮です。

新世界市場の入り口=2018年2月9日

新世界市場の入り口=2018年2月9日

出典: 竹田和博撮影

 でも……日中にもかかわらず、人通りはまばら。なんとなく、入りにくい。何より、シャッターの多さに驚きます。

 全長約100メートルの通りに、昔は40テナントほどが入っていたそうですが、今、開いているのは10数店です。

平日の新世界市場=2018年2月9日

平日の新世界市場=2018年2月9日

出典: 竹田和博撮影

シャッター街に熱気漂う日曜日

 さて、この静けさに包まれた雰囲気が日曜日にどう変わるのか。

 インスタグラムで下調べしてみると……メッチャきれい! 雰囲気オシャレ! ってか、これあの商店街なんか?

 3月4日、Wマーケットの開催日。期待値高めで再び商店街へ。すると、入り口辺りで、違いを実感します。

 人がいる。それもかなり。

 そして中に入り、頭上に並んだ赤ちょうちんの威力を思い知ります。アジアの屋台街のような雰囲気。カメラカメラ。まんまと撮らされてしまいました。

平日との違いに驚くほどのにぎわい=2018年3月4日

平日との違いに驚くほどのにぎわい=2018年3月4日

出典: 竹田和博撮影

若者・子ども・外国人……いつもと客層が違う

 両脇には、お客さんに合った言葉を即興で筆でしたためる書家や、動物の骨や皮を使ったアクセサリー、カリフォルニアロール専門店、靴磨き……など、約20の個性的なお店が並びます。すべて値札はありません。

値札はない。値段は交渉次第=2018年3月4日

値札はない。値段は交渉次第=2018年3月4日

出典: 竹田和博撮影

福岡から卒業旅行で訪れたという高校生(右)の名前を書にしたためる書家。完成後、「さあ、いくら?」=2018年3月4日

福岡から卒業旅行で訪れたという高校生(右)の名前を書にしたためる書家。完成後、「さあ、いくら?」=2018年3月4日

出典: 竹田和博撮影

死んだ小動物の骨で作ったアクセサリーが並ぶお店も=2018年3月4日

死んだ小動物の骨で作ったアクセサリーが並ぶお店も=2018年3月4日

出典: 竹田和博撮影

 間を縫うように、カップルや外国人、家族連れ、お年寄りが行き交います。

 お店の人の話を聴いたり、写真を撮ったり、店主が踊りで盛り上げたり。テンションの上がった関西弁もあちこちから聞こえてきます。

 完全に「別世界」。「シャッター街で、遊ぼう。」のコンセプトが、光景に現れていました。

 商店街のお茶屋「お茶の大北軒」の大北博朗さん(60)は「いつもと客層が全くちゃいます。こうやってにぎわうんはありがたい。私らの商売にも生かさんと」。せっせと道行く人にお茶をすすめていました。

お店の人が、踊りで会場を盛り上げる=2018年3月4日

お店の人が、踊りで会場を盛り上げる=2018年3月4日

出典: 竹田和博撮影

お店の人(左)から、商品が出来るまでの過程や特徴などを聞きながら品定めするお客さんたち=2018年3月4日

お店の人(左)から、商品が出来るまでの過程や特徴などを聞きながら品定めするお客さんたち=2018年3月4日

出典: トリックデザイン提供

「これなんぼ?」がご挨拶

「これいくらですか?」

 店の前で足を止め、挨拶代わりの一言。そして、値段交渉が始まります。

 手作りの革製品を扱う「Brooklyn LC」では、長財布をめぐり、店主の山上博さん(37)と中国人女性3人が一進一退の攻防を繰り広げていました。

女性「ハウマッチ?」
山上さん「いくらなら買いますか?」
女性「チーパー、プリーズ(安くして下さい)(笑)」
山上さん「(電卓を示し)16000円!」
女性「(電卓を取って)12000円!」
山上さん「オーマイガー……。15000円!」
女性「14000円!」
山上さん「3人とも買ってくれるなら、13000円でいいです!」
女性「(3人で相談し)オッケー」

 結構、値切られたように見えましたが。山上さんに聞くと、「何とか大丈夫です」とホッとした様子。

 本業は音楽プロデューサー。革製品作りの趣味が高じ、2年前からネット通販で販売するまでに。Wマーケットは初出店とのこと。

 印象を聞くと、「この空間は魅力的です。飲み屋に行くおっちゃんも普通に通りますし、新鮮です。『ハンドメイド製品好き』以外の人もいて、他のイベントと客層が違います。土地柄なのか、バンバン値切ってきますね(笑)」

20〜30代に働きかけ、商店街を盛り上げる

 Wマーケットを運営するのは、大阪のイベント会社「トリックデザイン」です。モットーは「体験至上主義」。20〜30代をターゲットに、大運動会やキャンピングカーの旅など、体験を盛り込んだイベントを企画しています。

 そして今回、担当の森田純多さん(30)たちが目指したのは、「若者」「体験」「商店街の活性化」をつなげることでした。

 森田さんにとって、商店街は「店同士の密なつながりや人情味、ノスタルジックな雰囲気が魅力的で、居心地の良い場所」であり、「歴史感」の残る貴重な財産だといいます。

 「ハード面の課題はありますが、どれだけお金をかけてもこの空間は作れません。残していくために、若者を呼び込んで盛り上げられないか、と考えました」。そこで目をつけたのが、「値札のないマーケット」でした。

「シャッターを一つ一つ開けていく」ことを目指す

「シャッターを一つ一つ開けていく」ことを目指す

出典: トリックデザイン提供

ネットでは見えないモノの価値

 マーケットを通じて、「ネットでは感じられないモノの価値を感じてほしい」。森田さんの答えは明確です。

 「ワンクリックでモノを買うのが当たり前の時代。人の顔を見ず、いかに楽に早く買うか、という流れが加速している。それ自体は否定しません。でも、すべてのモノには、作り手の想いや技術といったストーリーがあるハズ。お店の人と話してそれらを知ることで、満足度も高くなり、愛着も生まれると思うんです」

チラシを手に、自らも呼び込みをする森田純多さん=2018年3月4日

チラシを手に、自らも呼び込みをする森田純多さん=2018年3月4日

出典: 竹田和博撮影

原点は、東南アジアの市場

 着想の原点は10年ほど前、バックパッカーとして旅した東南アジアの市場での光景。値札なんてなく、店員と客が相場観や人間関係を土台に、値段のやりとりをしていました。

 一方で、外国人の自分には高めの金額をぶつけてくる。それをいなし、いかに望む額で落とすか。そのやりとりが「ゲームみたいで楽しかった」。買った商品を見ると当時の光景を思い出し、愛着も深まったといいます。

 「いつか、日本でも出来たら」。そんな妄想が企画になり、2回のテスト開催を経て、3月から、日曜日の定期開催が始まりました。

言葉と見せ方で勝負 写真映えする空間に

 WマーケットのPRの柱は、SNSです。

 いかに、ターゲットとする若者に興味を持ってもらうか。カギは、「値札がない」というキーワードと、「見せ方」。

 商店街の景色を損なわず、「写真映えする」空間を演出するため、倣ったのは「台湾の夜市」。のれんと赤ちょうちんでシンプルに彩り、懐かしさと柔らかさを醸し出すことにしました。

店先にも、店名の入った赤ちょうちんが下がり、会場を彩る=2017年7月16日

店先にも、店名の入った赤ちょうちんが下がり、会場を彩る=2017年7月16日

出典: トリックデザイン提供

「とりあえず、1回やってみたら」

 会場探しを始めた当初は、「値札がない」という仕組みがなかなか理解されず、前向きな反応は得られませんでした。そんな中、「とりあえず、1回やってみたら」と快諾してくれたのが、新世界市場だったのです。

 当時、市場の組合理事長だった大北さんは、「最初は、イベント会社って聞いて『うさんくさいな』と。自分とこで話止めとこと思ったよ(笑)」。

 森田さんの熱意とともに、背中を押したのは、「今の状態やとどうにもならん」という危機感でした。

 「5年ぐらい前には、収入ゼロの日もあった。電気代もったいなくて、(150年続く)店やめることも考えた」

 Wマーケットの計画は、渡りに舟。「起爆剤になり得るし、日曜だけやったら託してもええか、と。あとは、我々がどう自分たちの商売に生かすかです」

かつては押し合いへし合い

 新世界市場は、1914(大正3)年に魚菜市場として始まったとされます。その2年前には、初代通天閣が完成。ルナパークと呼ばれた遊園地も同じ時にでき、一帯は新世界と呼ばれるようになりました。

 市場誕生時から続く、菓子屋「中山菓舗(かほ)」の中山六雄さん(95)は、この地で生まれ育ちました。子ども時代、周囲は映画館や演芸場が軒を連ね、芸者さんが行き交う一大歓楽街だったそうで、「遊ぶところがあふれていて、若い人の天国でしたな」。

 戦争で焼け野原となった後、地元の人たちが戻り、お金を出し合いバラック小屋から商売を再開したといいます。そして、組合を作り、アーケードを作り、復興と共に、地元の台所として無くてはならない存在になっていきました。

 50年ほど前は、なにわの台所として有名な「黒門市場を上回る」ほどにぎわい、押し合いへし合いの状態。年末には、夜12時まで営業するのが当たり前だったそうです。

 潮目が変わったのは、20年ほど前。店主の高齢化に加え、近くにスーパーが相次いで出来たことで、鮮魚店や八百屋が相次いで閉店。右肩下がりの状況で、我が子に後を継がせる訳にもいかず……と悪循環に陥っていきました。

 中山さんから店継いだ息子の和彦さん(61)は「昔の市場には戻れない。空き店舗を減らすためにも、新しい形を考えないと」と言います。

1914年創業の中山菓舗。中山六雄さん(右)は今も、息子の和彦さんと和菓子・洋菓子を作っている=2016年11月

1914年創業の中山菓舗。中山六雄さん(右)は今も、息子の和彦さんと和菓子・洋菓子を作っている=2016年11月

出典: 朝日新聞社

商店街活性化のモデルケースに

 新世界のような観光地といえども、一度「人が来ない場」になってしまうと、打開するのは簡単ではありません。

 だからこそ、森田さんは、定期的な活気の波を起こすため、毎週の開催が重要だと考えます。

 まずは、人の流れを作る。すると、既存店にも商売チャンスが生まれ、新規出店など、空き店舗活用の芽が出るかもしれないからです。

 そのために、最初の半年でいかに認知を広めるかが重要であり、難しいといいます。

SNSで目を留めてもらえるよう、写真を生かしたPRに工夫を凝らす

SNSで目を留めてもらえるよう、写真を生かしたPRに工夫を凝らす

出典: トリックデザイン提供

「人気店」の開業後押し

 Wマーケットでは、「人気店」に開業してもらうことも狙います。後押し策の一つが、来場者に配られる「リアルクラウドファンディングカード」です。

 来場者は、応援したい店にカードを渡します。1年間で最もカードが集まった店に、開業資金として500万円が援助されます。

来場者に配られる「リアルクラウドファンディングカード」(左)など=2018年3月4日

来場者に配られる「リアルクラウドファンディングカード」(左)など=2018年3月4日

出典: 竹田和博撮影

 さらに会場では、「投げ銭」と銘打って、「楽しかった」「商店街活性化を応援したい」という人からの寄付も募っています。

 「ひとまず、2年間でどう変わるかを確かめたい。助成金に頼らず、自走しながら継続運営出来る仕組みを考えていきたい」

開業の支援に充てられる「投げ銭」=2018年3月4日

開業の支援に充てられる「投げ銭」=2018年3月4日

出典: 竹田和博撮影

「いつもの週末」になるように

 歴史が刻まれた懐かしさと、フォトジェニックさが組み合わさった独自の空間。そこで人と話し、つながる面白さに、森田さんは「新しいエンタメ」としての可能性を感じているといいます。

 「休日に、いつもと違うところに行って、人と話してみたい。そういうニーズは多いと思うんです。それも、たまにだからちょうどいい。Wマーケットもそう。休日にフラッときて、面白いモノを探す。会話や空間を楽しむ。それが、週末の一部になっていけばいいですね」

熱気漂う光景が、日曜日の定番になることを目指す=2018年3月4日

熱気漂う光景が、日曜日の定番になることを目指す=2018年3月4日

出典: トリックデザイン提供

取材を終えて

 寂れた商店街。シャッター街。その衰退ぶりは、特に地方では今に始まったことではありません。

 富山で勤務していた時のこと。平日のアーケードは人がまばらでした。休日には、一部のお店やイベント広場に人は来ますが、あくまで局所的。商店街全体の活性化につながっているようには思えませんでした。

 Wマーケットでは、ネットでは味わえない「買い物体験」を大事にしています。だからこそ、インスタ映えする赤ちょうちんのアイデアも生まれました。

 「値切る」「値切られる」ことで生まれる思い出は、最安値が並ぶネットショッピングでは作れません。

 自治体などからの「助成金」は、時に、新しい発想を縛ってしまうこともあります。だからこそ、森田さんは「自走できる仕組み」にこだわります。
 
 そして、ゆくゆくはWマーケットをブランドとして確立し、運営ノウハウを全国の商店街に提供することを見据えています。

 Wマーケットの取り組みは、大阪のような都会だけでなく、むしろ、地方の商店街にとって貴重な教科書になりそうです。

あの「シャッター街」が……生まれ変わった「インスタ映え」商店街
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