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中国の全人代、反対しても大丈夫なの?「反対1票」いったい誰が……

全人代で憲法改正案の投票が行われた=杉本康弘撮影、北京の人民大会堂、2018年3月11日
全人代で憲法改正案の投票が行われた=杉本康弘撮影、北京の人民大会堂、2018年3月11日 出典: 朝日新聞社

目次

 3月20日に閉会した中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)では、憲法改正と王岐山氏の国家副主席の選出が注目されました。投票では、どちらについても反対票が出ました。いったい誰が? 反対票を投じても問題にならないの? 中国政治に詳しい東洋学園大学の朱建栄教授に話を聞きました。

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東洋学園大の朱建栄教授=郭允撮影、東京有楽町、2008年4月10日
東洋学園大の朱建栄教授=郭允撮影、東京有楽町、2008年4月10日 出典: 朝日新聞社

「団結で成功な大会」 反対票数が少ない

 中国の全人代は、日本の国会に相当し、「最高国家権力機関」と位置付けられています。

 一方、名ばかりであることから「ゴムスタンプ」とも呼ばれています。ちなみに「ゴムスタンプ」は多忙な上司の代わりに部下がスタンプを押すことから来ています。

 全人代のオフィシャルサイトには下記のような解説が掲載されています。

(1)憲法修正案の投票に関して、無記名の投票方式で、三分の二以上の賛成票があれば可決。賛成、反対、棄権の選択肢がある。
(2)ほかの法案を投票する際に、無記名の電子投票機を使い、半数が賛成すれば可決。電子投票機には賛成、反対、棄権のボタンがある。ボタンを押さない場合は計算に入れない。もし電子投票機に故障があれば、挙手方式で投票する。

【関連リンク】全人代オフィシャルサイト
 

 今回、国家主席の習近平氏は100%の賛成率で再選され、憲法改正も副国家主席の選出も、99%を超える賛成率です。審議というより「承認」がメインで、反対票が少ないことが特徴です。

 中国のテレビでよく流れるのは満場拍手のシーンと「団結で成功した大会」という決まり文句です。

書店の一番目立つ棚に並べられた改正憲法の本=杉本康弘撮影、北京、2018年3月15日
書店の一番目立つ棚に並べられた改正憲法の本=杉本康弘撮影、北京、2018年3月15日 出典: 朝日新聞社

三峡ダムは例外だった

 圧倒的な高い賛成率を誇る全人代ですが、例外もあります。

 1992年に三峡ダム建設を巡る投票の際に、全人代では賛成票1767票、反対票177票、棄権は664票にのぼりました。電子投票機を押さなかった25票を考えると、賛成しなかった人は実に866人にのぼり、全代表の33%近くを占めたことになります。

 賛成票は法律で決まった半数を超え、結局ダム建設が可決されましたが、低い賛成率は当時の民意をある程度反映されたと言われています。

長江の本流に建設中の三峡ダム=鈴木暁彦撮影、中国湖北省宜昌、2000年12月4日
長江の本流に建設中の三峡ダム=鈴木暁彦撮影、中国湖北省宜昌、2000年12月4日 出典: 朝日新聞社

王岐山氏のあの一票の謎

 今回の全人代では、習近平氏は全員賛成で国家主席になったのに対し、王岐山氏には一票の反対票が入りました。

 一体誰が反対したのでしょう?

 無記名投票なので、反対票を入れた人は謎のままです。一方、現地メディアからは分析記事も出ています。

 香港の『蘋果日報』の報道によると、王氏自身が反対票を投じたのではないか、という推測があります。

 理由は、習近平氏が主席で100%の賛成を得たため、習氏を超えるものではないことを示すため。習氏より下の存在であり「忠誠心」を表明しているというものです。

 また、王岐山氏は反腐敗運動の責任者であるため、彼の行動へ不満を持つ人が反対票を入れたという説もあります。

 北朝鮮のような「100%」の賛成にならないよう、意図的に操作されているのではないかという意見も出ています。

【関連リンク】『蘋果日報』が報じた記事
 
全人代で国家副主席に選出された王岐山氏(前列中央)=杉本康弘撮影、北京、2018年3月17日
全人代で国家副主席に選出された王岐山氏(前列中央)=杉本康弘撮影、北京、2018年3月17日 出典: 朝日新聞社

数票の反対票も許容範囲内

 実際のところはどうなのでしょう? 中国政治・アジア国際関係に詳しい東洋学園大学の朱建栄教授は「操作は100%ないとは言えないが、1、2票程度の反対票を故意に入れることは考えにくい」と話します。

 その理由について「大会開催前に一定の説得動員があるものの、すべての人をコントロールすることが難しいからです」と説明します。

 加えて朱教授は「数票の反対票が出ても、わざわざ反対した人を探し出すこともないでしょう」と解説。

 「大規模な反対票は、メンツの問題があるため避けたいでしょうが、目標の法案可決が達成すれば、少し反対の声があっても許容範囲のはずです」と見ています。
 
 また「反対を少しでも許せないよう締め付けると、逆に反発を呼ぶ可能性が高い」と指摘。

 全人代もそれなりのバランスを保っているようです。

国務委員など政府人事の賛否を問う投票に臨む王毅外相=杉本康弘撮影、北京、2018年3月19日
国務委員など政府人事の賛否を問う投票に臨む王毅外相=杉本康弘撮影、北京、2018年3月19日 出典: 朝日新聞社

歴史上に反対票を入れた人 

 反対票を入れた人が「バレた」時、どうなるのでしょう? 何か「報復」のようなものを受けるのでしょうか?

 朱教授は「必ずしもそうではない」と言います。

 1969年、中国共産党第9回全国代表大会で、当時の国家主席劉少奇氏を「裏切り者、労働者の賊」などの理由から党籍はく奪決議の投票がありました。

 挙手方式でしたが、唯一、挙手しなかった女性がいました。当時は「文化大革命」という特殊な時期であり、彼女が冷遇を受けた場面もあると言われていますが、その後、特に問題なく過ごせたそうです。

 また、近年の三峡ダムや最高人民検察院の報告への反対票などを入れた人も、特に責任が追及されなかったのです。

4歳の子どもたちが演じる毛沢東思想劇。劉少奇を非難するストーリーを演じている=1971年5月ごろ撮影、中国
4歳の子どもたちが演じる毛沢東思想劇。劉少奇を非難するストーリーを演じている=1971年5月ごろ撮影、中国 出典: 朝日新聞社

 大多数の支持を獲得し、議案の承認が重要視とされている中国の政治体制。毛沢東の心理をよく理解していたとされる林彪がかつてノート(1949-1959年)に次のようなことを記しました。

 「彼(毛沢東)の最大の憂慮は、投票の際に多数票をゲットできるかどうかということです」

 「ゴムスタンプ」と呼ばれている全人代ですが、賛成、反対の票数には様々な思惑が現れているようです。現代においても毛沢東の「憂慮」はある程度受け継がれているのかもしれません。

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