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鹿児島は「家族湯」大国だった 県内150カ所、発祥は西郷どんの湯?

日本湯小屋物語の家族湯。「浦島太郎の湯」には滑り台(右)もある=鹿児島県霧島市
日本湯小屋物語の家族湯。「浦島太郎の湯」には滑り台(右)もある=鹿児島県霧島市

目次

 東京出身の記者が鹿児島に転勤してから、はまった温泉。でも、ずっと気になっている看板がありました。「家族湯」。家族で入るお風呂?? 聞いてみると、家族や友人、カップルなどで貸し切り風呂のように使える温泉のことで、専用の日帰り施設もある。西郷隆盛といった偉人も通った鹿児島の温泉地がどうやら発祥らしい。県民には当たり前の存在のようですが、県外、特に九州以外ではあまりお目にかかれません。記者が家族湯を巡りながら、県内に150以上あるという家族湯のナゾを探りました。(朝日新聞鹿児島総局記者・島崎周)

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一本桜温泉センターの家族湯。一見普通のお風呂のよう=鹿児島市
一本桜温泉センターの家族湯。一見普通のお風呂のよう=鹿児島市

最初はおそるおそる…あれ?普通のお風呂?

一本桜温泉センターの家族湯を紹介するパネル=鹿児島市
一本桜温泉センターの家族湯を紹介するパネル=鹿児島市

 取材のきっかけとなり、記者が初めて入った「家族湯」は、鹿児島市の「一本桜温泉センター」。年中無休の24時間営業で、夜遅いけどゆったりお湯につかりたいと思っていた時で、都合がよかったです。

 大浴場のほかに12の家族湯があります。たまたまその日に空いていたのは、1時間で2200円の家族湯。1人で利用すると少し高く感じますが、数人で入れば安いですよね。

 ドアが並ぶ廊下を歩き、教えられた部屋におそるおそる入ってみると、1畳ほどの脱衣所。奥に湯船が見えて……あれ?! 普通のお風呂? ジェットバスがついたバスタブにお湯が入っています。

一本桜温泉センターの家族湯の入り口=鹿児島市
一本桜温泉センターの家族湯の入り口=鹿児島市

 でも、ドアを開けると一気に、温泉らしいむわっとした熱気に包まれました。1人で入ると少しさみしいかもしれませんが、独り暮らしをする自宅の風呂よりも広いうえに、プライベートな空間で、温泉に入れます。お湯の温度も自分で調節できて、1時間ゆったりと過ごすと、疲れがすっかり癒やされました。

鹿児島県内に150箇所以上ある

 鹿児島県内の温泉を紹介するウェブサイト「鹿児島温泉観光課 六三四城」を見ると、家族湯は150カ所以上ありました。そんなに多いなら、できるだけいろんな家族湯に入ってみたい! ついでに調べてみよう(笑)と思い立ったわけです。

 「家族湯」あるいは「家族風呂」。家族連れや友人、カップルなど小規模な単位でお風呂を貸し切りにして温泉を楽しむ場所です。これだと、旅館の宿泊客らが利用できる貸し切り風呂のようなイメージだと思いますが、鹿児島の家族湯の特徴は、日帰り専用の家族湯の施設があるということなんです。料金はほとんどが時間で設定されていて、数百円から数千円まで様々です。

一本桜温泉センターの家族湯=鹿児島市
一本桜温泉センターの家族湯=鹿児島市

 全国の温泉に詳しい「温泉ソムリエ協会」の家元・遠間和広さんによると、家族湯専用の日帰り温泉施設は、九州以外では珍しいようです。大人数が一度に入る大浴場と違い、客ごとに湯も新しく入れ替えることから、「湧水量が多い温泉地でないと経営が難しい」といいます。

 では、いったいどのようにして「家族湯」はできたのでしょうか。調べてもなかなか文献は見つかりません。温泉に詳しい方にお知恵をかりて、家族湯の発祥の地と思われる温泉地を見つけました。

西郷どんも通った日当山温泉で聞きました

 霧島市の日当(ひなた)山温泉です。約20の家族湯の施設がある温泉地で、幕末に西郷隆盛らが頻繁に訪れ、坂本龍馬と妻のお龍が新婚旅行で滞在したと伝わっています。

 その中でも1916年に創業し、この地で最も長い歴史がある「清姫温泉」を訪ねてみました。

清姫温泉の米田社長=鹿児島県霧島市
清姫温泉の米田社長=鹿児島県霧島市

 3代目社長、米田知弘さん(57)によると、かつて馬の競り市があった日当山温泉は宿場町として栄えたといたそう。「仲間同士が一緒に入れるように」と旅館に「貸し切り風呂」ができ、さらに昭和に入ってからは貸し切り風呂だけが並ぶような施設も生まれ、それが「家族湯」として親しまれるようになったようです。

清姫温泉の家族湯の入り口。アパートのように家族湯の入り口が並ぶ=鹿児島県霧島市
清姫温泉の家族湯の入り口。アパートのように家族湯の入り口が並ぶ=鹿児島県霧島市

 しかし、第三者の目が届かないプライベートな空間のため、売春防止法が施行されるなどした50年代から規制が厳しくなり、家族湯とうたえない時期もありました。経営者たちは受け付け時に利用者の顔が見える形をとったり、個室の鍵を渡さなかったりして家族湯を守ってきたといいます。

 今年の明治維新150周年に関連し、日当山温泉では、昨年から西郷隆盛を描いた手ぬぐいなどのグッズ販売も始めています。家族湯を知ってもらうため、今後はスタンプラリーや割引券などの取り組みを始めることも考えているそうです。

清姫温泉の家族湯の発券機=鹿児島県霧島市
清姫温泉の家族湯の発券機=鹿児島県霧島市

 私も清姫温泉の家族湯に入ってみました!

 清姫温泉の家族湯の料金は1時間400円。4人で入れば1人100円で、大浴場に入るより安くなります。

 アパートのように並んでいるドアの一つを開けて入ると、ここも一般的な家庭のお風呂のよう…。でも、シャワーからも温泉の湯が出てきます。ちなみに、お湯は少し熱めでした!

浦島太郎の湯は滑り台付き

温泉ソムリエ師範の六三四さん=鹿児島市
温泉ソムリエ師範の六三四さん=鹿児島市

 「最近はデザインや雰囲気にこだわった家族湯も出てきています」と、ウェブサイト「鹿児島温泉観光課 六三四城」を運営する温泉ソムリエ師範の六三四さんは話します。

 同じく日当山温泉の「日本湯小屋物語」は、これまたびっくり。

 「枕草子」や「お伽草子」をテーマに、「花咲かじいさんの湯」や「ぶんぶく茶釜の湯」などと名付けられた湯船があります。

日本湯小屋物語の家族湯。「浦島太郎の湯」には滑り台(右)もある=鹿児島県霧島市
日本湯小屋物語の家族湯。「浦島太郎の湯」には滑り台(右)もある=鹿児島県霧島市

 記者が入った「浦島太郎の湯」には、浦島太郎が招かれた深海をイメージさせる青い光が差し込み……幻想的な雰囲気。子どもが遊べるようにと湯船には滑り台がついていて、寝て入れる風呂の横にはテレビも。こんな風呂なら、ついつい長居をしたくなりますよね。

 このほかにも、庭園がついていたり、五右衛門風呂がついていたりと内装にこだわっています。なんともぜいたくなこれらの家族湯は、平日80分間または、土日祝日などは60分間で、1700~2600円です。

家族湯がある日本湯小屋物語=鹿児島県霧島市
家族湯がある日本湯小屋物語=鹿児島県霧島市
日本湯小屋物語の家族湯にあるテレビも見られるスペース=霧島市
日本湯小屋物語の家族湯にあるテレビも見られるスペース=霧島市

 施設名は変わっていますが、この場所に1971年につくられた家族湯が、日帰りの専用施設というスタイルの最初ではないかという説があります。初代経営者の岡元壮さん(89)は「家族で入れた方が楽しめるのでは」と、大浴場をつくった後に、家族湯だけが並ぶ施設をつくったそうです。

 母親と3歳の長女と一緒に訪れていた大阪市の看護師、司めぐみさん(45)は、霧島市の実家に帰省するたびに来ているそうで、「小さい子がいても迷惑にならないし、人に気をつかわずゆっくりできる」。

大人8人入れるサイズも

「家族湯ゆぅ~ゆぅ~」の風呂=鹿児島県日置市
「家族湯ゆぅ~ゆぅ~」の風呂=鹿児島県日置市

 鹿児島には他にも大人8人が入れるくらい大きな家族湯がある、日置市の「家族湯 ゆぅ~ゆぅ~」など、本当にいろんな種類の家族湯があります。記者は、その後も家族湯に入り続け……20箇所ほど体験しました!

「家族湯ゆう~ゆう~」に設置された脱衣所=日置市
「家族湯ゆう~ゆう~」に設置された脱衣所=日置市

 温泉ソムリエ協会の遠間家元は「家族湯は、普段の風呂とは違った雰囲気が味わえる。日常と非日常の間の風呂として、需要はむしろ高まっているのでは」と話します。

 鹿児島で誰かと一緒に、またはお一人様でも、家族湯を楽しんでみてはいかがでしょうか?

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