感動
理由なんかなくたって…父親を捜すため重機の免許 息子が語ったこと
2016年、大型の台風が北海道などを襲いました。被災地となった帯広市では、土砂に流されて行方不明になったままの父親を捜すために、重機の免許を取った男性がいます。「理由は特にないですね」。最初は、言葉少なげだった男性が、徐々に話してくれた思い出から伝わってきたのは、かけがえのない等身大の「親子の姿」でした。(朝日新聞北海道報道センター・布田一樹)
最初はつれない返事でした。
父親との関係を聞くと、幼い頃に両親が離婚して母親に育てられたため、疎遠だったと言います。思い出はないかと尋ねても、「特にないですね」という返事でした。
ではなぜそんな父親を捜すのかと問うと、「亡くなった母親が見つけてほしいと思うから」。その答えになんとなく納得して帰りました。
ただ、後日よく考えてみると、「重機の免許を取るぐらいだから、何らかの思いがあるはず」と思いました。約束を取り付けて、もう一度男性に会いに行きました。
話を聞き進めると、中学卒業後の2年弱、東京で2人暮らしをしていた時期があることを教えてくれました。
でも寡黙な父親だったので、家での会話は全く弾まず。友達がいない環境が寂しくなり、「北海道に帰りたい」と切り出してしまったそうです。
その時、ふと自分の父親との関係が頭をよぎりました。口数の少ない人で、実家に帰って2人でいると、なんとなく気まずい感じです。でもそんな父親にも、感謝の気持ちが多少はあります。
小学生の頃、地元のサッカーチームに入っていたのですが、父親はそこでコーチを6年間やってくれました。運動は全く得意ではありませんが、審判の免許も取ってくれました。自分のために何かしてくれたことが、今では少しありがたかったなと感じます。
そんな自分の身の上話をした上で、男性に質問しました。「どんな些細なことでも、お父さんに感謝していることはないですか」
ようやく絞り出してくれたのが、父親が行方不明になった後に現場へ行った時のことです。
近所の人と立ち話をしていると、父親が「うちの息子は○○に住んでいて、○○の仕事をしている」などと周囲に話していたそうです。
男性は「どこかで自分のことを気にかけてくれたのかなと思って、うれしかった」と言いました。
目を引くエピソードはなくても、それを自覚すらしていなくても、誰しも家族を大切に思う気持ちは持っているはずです。
重機の免許まで取った男性の行動。でも、その背景にあったのは、誰もが感じるかけがえのない等身大の「親子の姿」でした。
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