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身体拘束されてみたら…「みんな敵に見えた」介護福祉士が体験記
医療や介護の現場で、体をベッドにしばったり外からカギをかけたりする「身体拘束」が行われ、問題になっています。病院の精神科で身体拘束を目の当たりにした介護福祉士は「自分がされたらどう思うのか」と疑問を持ち、24時間の拘束を受けてみた体験をネット上でつづりました。人手の足りないといった厳しい現状もありますが、「『しょうがない』という言葉で終わりにしないで、介護や医療の関係者以外も巻き込んで考えてほしい」と話しています。
身体拘束された体験を「認知症オンライン」の記事でつづったのは、介護福祉士・介護教員の軍司大輔さんです。仙台市のNPO法人「まちあす」代表理事として、福祉の人材研修にも取り組んでいます。
病院の精神科で介護福祉士として働き始めた15年ほど前、当然のように患者の体をしばる現状に言葉を無くしたといいます。
病院内で身体拘束の必要性について疑問を投げかけましたが、ベテランの職員は「暴れたら危ない」「人手が足りず、現場が回らない」と言います。
やはり「自分がされたこともないのに、患者の家族に説明できない」と考えました。同僚の協力を得て、24時間、自分が身体拘束を受けてみることにしました。
この体験での身体拘束は、両手足をしばり、胴体をおさえつけて仰向けになる、かなり厳しいものとしました。
体を自由に動かせないつらさ。曲げられる関節がほとんどなく、体がこわばり、のど元の辺りが不快な感覚におそわれました。自分が希望してやっているはずなのに、だんだんと「なぜ自分がしばられなければならないのか」と混乱してきます。
数時間経つと、息苦しさに襲われるようになりました。何度も「あー気持ち悪い」とつぶやきました。
布オムツに排泄するしかなく、できるだけ感情を無くそうと努力します。時間感覚もなくなっていきました。
一緒に企画した同僚がやってきて24時間経ったと告げられた時は、「やっと解放された」と思いましたが、2~3時間は誰とも話す気分になれませんでした。
「同僚が様子を見に来たときも、イライラしてしまって。しばられている方からは、みんな敵に見えるんだ、と思いました」
この経験を経て、軍司さんは「できるだけ身体拘束はしたくない」とより強く思うようになりました。
その後、介護の学校の教員に転職。
ニュージーランド国籍の男性が、今年5月に神奈川県内の精神科病院で身体拘束を受けた後に死亡したというニュースを目にして、自分の体験を記しておこうと思い立ったそうです。
現在は、仙台市若林区の小規模多機能ホーム「福ちゃんの家」の運営にも携わります。利用者に認知症があったり体が不自由だったりしても、日中カギをかけず、車いすにしばることもありません。
ご家族には「急に立ち上がって転ぶリスクはあります」という説明をして、理解を求めます。
中には、けがをさせたくないと「しばらないんですか」と尋ねてくる家族もいますが、「できるだけ利用者に自由に過ごしてもらう」という運営の方針を伝えて、納得してもらうそうです。
福ちゃんの家は、テレビのあるリビングの壁に絵が描かれ、色とりどりの椅子やソファが置かれ、あたたかい雰囲気です。
軍司さんは「単色だと冷たい雰囲気になりがち。家のように過ごしてほしい。そのためには、デザインや設計の力ってとても大きいと思うんです」と話します。
身体機能を落とさないよう、利用者は自由に歩き回って、一緒に食事を作ったり洗濯物を干したり。軍司さんは「ここに来て、車いすから歩行器になった人もいます。これはできない、と決めつけないようにしています」。
これまで、介護や医療・看護の専門家で、「どうしたら身体拘束がなくなるか」と考えてきましたが、なかなか答えは出ていないと、軍司さんは指摘します。
「工学やテクノロジー、デザインや設計のプロを巻き込みながら、みんなで『どうしたらなくせるか』を考えなければいけないのでは」
身体拘束のない現場を「理想論」と呼ぶなら、それが理想だとみんな分かっているということ。じゃあ、どう理想に近づけていくのか考えたい。軍司さんはそう思っています。
自分が利用することになったとき、どんな介護現場、医療現場であってほしいのか。「自分事として考えていきたいですね」