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連載

#4 理想の貧困

支援される資格って?「理想の貧困」頑張れない理由も知って欲しい

「頑張る」が難しい子もいる(画像はイメージです)
「頑張る」が難しい子もいる(画像はイメージです) 出典: PIXTA

目次

 「夢に向かって頑張る君を、応援するよ」。この言葉が、貧困状態にある子どもにとってつらいことがあること、ご存じですか。過酷な環境で生きる子どもにとって、気力を維持することは、とても難しく、「夢をもつ」こと自体が難しい子もいます。一方で、「頑張れない子は支援に値しない」「頑張れない子は自己責任」という批判は強くあります。当事者たちに、話を聞きました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

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連載「理想の貧困」
「理想の貧困」について当事者、支援者、メディアなど様々な視点から考えていきます。

(1)貧困たたきの理想
(2)支援者の理想
(3)メディアの理想
(4)「けなげに頑張る子」という理想(今回)
(5)現実を見える化する試み

「頑張らないことが、許されない」

 集まってもらったのは、首都圏の大学に通う男女5人。

 アオイさん(大学2年)、ミユさん(大学2年)、ユウタさん(大学4年)、ヒカリさん(大学4年)、メイさん(大学3年)。全員仮名です。

 5人とも、経済的に苦しい家庭で育ちました。

経済的に苦しい家庭で育った若者たち(1人は撮影NG)
経済的に苦しい家庭で育った若者たち(1人は撮影NG) 出典: 朝日新聞

「『頑張らない』ことが許されないのが、つらかったな……」(ミユ)

「わかる。私は家が悲惨だったから、学校に行くだけで精いっぱいで、勉強する力が残ってなかった。うちは私以外の家族3人(両親、姉)が宗教にはまってしまって。自分の中の、きついとか、悲しいといかいう感情を消して生きていた。友だちにもそんな悩み話せないし、家事も全部自分でしないといけないし、学校に行ったら『もう電池ない』って感じ」(メイ)

 貧困という環境は、子どもたちにとって、自力でなんとかできるレベルを超えた、大きな壁です。さらに、貧困だけでなく、虐待や家族間の問題が重なることも、少なくありません。

 そうした「頑張ってもどうしようもない壁」を幼い頃から突きつけられてきた子どもが、気力を保ち続けるのは、普通に暮らしている人間が想像するより、はるかに難しいことです。勉強以前に、うつ病などの心の不調が出たり、何にも興味をもてなくなったり、言動が荒れてしまったりする子もいます。

 今回集まってくれた5人は、奨学金を借りながら進学し、バイトで家計を支え、実は頑張っている人たちです。メイさんも、「電池がない」ながらも、「大学に行って、社会の『まともな方』に入りたい」という一心で勉強を続け、無事に東京都内の大学に入学を果たしました。誰にでもできる努力ではないでしょう。

頑張ってもどうしようもない壁を突きつけられ続けた子が気力を保つのは難しい(画像はイメージです)
頑張ってもどうしようもない壁を突きつけられ続けた子が気力を保つのは難しい(画像はイメージです) 出典: PIXTA

「支援される資格がない」

 経済的に苦しい家庭の子ども向けの奨学金といった支援は、いろいろとあります。

 一定の成績以上といった条件を付けたり、「将来の夢」といった作文を書かせたりするものが、一般的です。

 ここで、つまずいてしまう当事者もいます。

「やっぱり、夢がないと支援される資格がないのかな、と思う。夢がないと、支援する人も『これがやりたいんだね、そのためにはこう支援するよ』ってならないし。奨学金っていろいろあるけど、基本的に『夢のために頑張っている人』向け。適当に書こうと思えば書けるのかもしれないけど……」(アオイ)

「奨学金の申請の時、『将来の夢』って作文で書いたなあ(笑) でも確かに、お金を出す方からしたら、『夢はないけど、金ください』って言われて、出さないよね」(ユウタ)

「お金を支援してくれる人だって、そんなに余裕があるわけじゃないし。寄付って投資だもんね。東大行きたいとか、文科省に入りたいという人を応援するのは、『リターン』がわかりやすい」(ヒカリ)

「メディアも、頑張る子しか取り上げないし」(アオイ)

奨学金申請の際、「将来の夢」を書くことがある(画像はイメージです)
奨学金申請の際、「将来の夢」を書くことがある(画像はイメージです) 出典: PIXTA

アオイさんは、高校を中退後、通信制高校に入りました。

「やりたいことが、本当になかった。『あれになりたい』『ああいう姿になりたい』という意欲が、そもそもなかったです」

 通信制を卒業する1~2カ月前に大学を受けようと決めましたが、そのまま進路未定で卒業し、フリーターになってもおかしくなかったと振り返ります。

 なんとか大学に入ることができましたが、先日、あるメディアの取材を受け、この経緯を話したところ、掲載された記事は、「進学を目指して頑張って勉強をしていたら、祖父母の支援が受けられた」という、全く違うストーリーだったそうです。「そんなに頑張ったわけじゃない……」。アオイさんは、居心地悪そうに、そう言います。

「意欲が出せないのは、努力して達成できた経験がないから。褒められたことがないから。その積み重ねで、だんだんやる気がなくなっていくのかなと思う。努力しないことを自己責任と言う人もいるけど、努力できる環境になかった子もいる」(アオイ)

達成感を持てないまま成長する子もいる(画像はイメージです)
達成感を持てないまま成長する子もいる(画像はイメージです) 出典: PIXTA

「頑張れない自分が悪い」

 頑張れない子どもたちは、他人から「自己責任」と批判される前に、自分で自分を「ダメな人間なんだ」と責めています。

 ヒカリさんは高校時代、学費を稼ぐためにバイトをしていました。クラスで上の方だった成績がみるみる落ち、下から3番目に。焦る気持ちを抑え、「3年生の1年間で挽回(ばんかい)しよう」と決めていたそうです。

 しかし、いざ3年生になって、勉強をしようと机に向かっても、文字が読めない。頭に入ってこない。時間だけが過ぎていきます。
 完全な「うつ状態」でしたが、当時は全く気付きません。

 「集中力がない自分が悪い。勉強できていないことを人に知られたら怠慢と言われる」と、ひた隠しにし、自分を責め続けていたそうです。塾や予備校には通えず、ひとりで勉強をしていたので、誰かが「うつ病じゃないの?」と気付いてくれることもありませんでした。

自分でもうつ状態に気付かない子はいる(画像はイメージです)
自分でもうつ状態に気付かない子はいる(画像はイメージです) 出典: PIXTA

 「頑張れない」には、いろんな理由があります。

 必ずしも、甘えとは限りません。すでに十分頑張っている人の「これ以上は、頑張れない」かもしれません。

 「貧困家庭の子ども」といっても、性格や環境はひとりひとり違います。悩みも違います。頑張れる分野、程度も違います。また、今回集まってくれた5人は、「頑張らないけど、お金をください」と言っているわけでもありません。「頑張れる力」を育てる支援や、進学といったわかりやすい分野以外を支援する形も、あるのではないでしょうか。

「『貧困の連鎖を断ち切るには、教育だ!努力だ!』という人がいれば、そうじゃない人もいる。私は、『努力だ』っていうタイプではないかな。いい大学に入るとか、いっぱい稼ぐことへの憧れはない。人並みになりたい。『貧困から抜け出すために、人並み以上に頑張れ』と言われるのは、ちょっと、つらいです」(アオイ)

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