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「辻立ち無視」が無関心を呼ぶ? マック赤坂を撮った監督が語る選挙

いわゆる「泡沫候補」たちの戦いを追いかけた映画「立候補」(2013年公開)の藤岡利充監督に聞いてみた。
いわゆる「泡沫候補」たちの戦いを追いかけた映画「立候補」(2013年公開)の藤岡利充監督に聞いてみた。 出典: PIXTA

目次

 衆院選が近づいてきました。「あなたの一票が社会をつくっています」なんて言われるけど、投票したらなにか変わる? ましてや選挙に立候補なんて、ありえないでしょ――。各地の知事選などに10回以上立候補した(そして敗れた)マック赤坂さんなど、泡沫(ほうまつ)とも呼ばれる候補者たちに迫ったドキュメンタリー映画「立候補」(2013年公開)。勝ち負けで語られる選挙ですが、藤岡利充監督(41)が伝えたかったのは、意外にも「挑戦する人にあたたかい社会になってほしい」というメッセージ。どういうことですか?
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選挙結果に左右されない まずは自分の生活

 映画「立候補」は、「スマイル!」など奇抜なパフォーマンスで有名なマック赤坂さんをはじめとした、2011年大阪府知事選のいわゆる「泡沫」候補に密着した作品です。「この人たちはいったい何がしたいんだろう…」と思ってしまうような候補者たちの行動や言葉を追いかけ、たまに見え隠れする「本気」をとらえました。
奇抜なパフォーマンスを披露するマック赤坂さん(映画「立候補」より)
奇抜なパフォーマンスを披露するマック赤坂さん(映画「立候補」より) 出典: ワードアンドセンテンス合同会社
 映画の中では、大阪の町のおじさんたちに、藤岡監督が選挙について尋ねて回るシーンがあります。
 「選挙で世の中、変わらないですかね?」

 「変わんない変わんない。一緒」
 「変わるね。やっぱその人が左右するんやから」

 すっかりあきらめている人も、そうでない人もいました。藤岡監督自身は、どう思っているんですか?

 

藤岡監督

「正直、選挙の結果には左右されず、自分の生活をしていきたいと思ってます。選挙で社会の大きな仕組みは変わるかもしれないけど、すぐそこにいる家族とか自分が関わっている人とかに対して、よりよくなるためにがんばるのが大事じゃないかなと。いきなりホームランは打てないんで」
 選挙をテーマにした映画を撮った監督ですが、選挙でなにかが変わる、とは思っていないということですか。
 

 

藤岡監督

「思っていないのかもしれないですね。なんというか、なにが選ばれようが、関係なくやりたいという気持ちが強いです」
 「投票したんだからどうにかしてくれ」と丸投げするのでもなく、「選挙なんて意味ないよ」とあきらめるわけでもなく、自分で自分の生活、大きく言えば社会を、よりよくしようとしているんですね。

辻立ちを無視することの影響

 では、選挙でなくても、私たちが社会をもう少しだけ良くしたり、動かしたりするための方法って、どんなものがあるんでしょうか?

 

藤岡監督

「だれであれ、目の前の人を無視しないことが大事だと思います」

 

「たとえば、政治家だってよく駅前とかで辻立ちをやっていますよね。あれに声をかける人っていない。あれを僕らが無視する影響って、意外と大きいと思うんですよね」

 直接世の中のことを決める仕事をする政治家やこれから政治家になるかもしれない人がそこにいるのに、「ただの風景」として通り過ぎること。それこそが、政治への無関心やあきらめにつながる「負のスパイラル」の出発点なのではないか、と藤岡監督は指摘します。  
辻立ちを無視することが、政治へのあきらめの出発点?(画像はイメージです)
辻立ちを無視することが、政治へのあきらめの出発点?(画像はイメージです) 出典: PIXTA

 

藤岡監督

「無視され続ければ、政治家側も、壁に向かってしゃべっているようなものですよね。目の前を通る有権者を『個』ではなくて『数』と感じるようになる。無視していい存在になっているんじゃないかと思います」
 集まってくる人や話しかけてくる人がいれば、その人たちのための言葉や政治を考えるようになるはず、と。

 

藤岡監督

「だから僕は、なにか意見するわけでもなく、『おつかれさまです』とか『がんばってください』とか、話しかけたりします。びっくりされますけど(笑)」

 

「あとこれは趣味みたいなものですけど、たまーに、自転車で日本一周してる人とかを見かけると、ジュースをあげたりもします」
藤岡利充監督。現在は、地元の山口県で映像ディレクターの仕事をしている
藤岡利充監督。現在は、地元の山口県で映像ディレクターの仕事をしている
 知らない人だったり、意見が違う人だったりしても、がんばってるんだろうな、困ってるんだろうなという人がいたら、「応援してるよ」と見せるということですか。
 

 

藤岡監督

「そうですね。応援してるよ、批判してないよ、と見せる。小さいことですけど、みんながそういう気持ちになったら、すごくいい社会になると思います

受け身すぎる人、「消費者」が多いのでは

 映画には、立候補したにもかかわらず「私には建設的な提案なんか一つもない!」などと政見放送で叫んで、過激な内容が話題になった活動家の外山恒一さんも登場。「国民は消費者になっている」という冷静な指摘には、痛いところをつかれた、と思いました。
外山恒一さん(映画「立候補」より)
外山恒一さん(映画「立候補」より) 出典: ワードアンドセンテンス合同会社

 

藤岡監督

「社会はみんなでつくるものなのに、受け身すぎる人が多いとも思います。外山さんが言うように、不満を言うだけの『消費者』みたい」
 自治会やマンションの管理組合。身の回りでの責任を持つ立場を決める方法が、くじ引きになっていることに、監督は危機感を覚えるといいます。
ただの消費者にならないために、まずは自分の生活に直結する身近なことに関わって、アイデアを出して、少しだけでもつくる側になってみることが大切だということでしょうか。
 

社会を動かす方法=映画だった

 

藤岡監督

僕にとっては、社会を動かす方法が、映画だったんですよね」
 藤岡監督が映画を撮ろうと思ったのは34歳のとき。映画学校に通った後、東京の映像制作の会社で働いたものの、32歳で地元の山口県に戻って家業の新聞販売店を継いでいました。

 やるからには本気で取り組むつもりでしたが、周りから「その年で映画?」と笑われる、とも思ったといいます。だからこそ、自分以上に無理だと言われているような「夢追い人」を撮ろうとひらめいたのだそう。
 
 映画の冒頭で示される、「今の政治に不満がある」場合の5つの選択肢は・・・
 
 1)家の中でがなる
 2)家の外でがなる
 3)投票に行く
 4)立候補する
 5)革命を起こす
 「泡沫」とも呼ばれる候補者たちは、政見放送以外の活動はせずに引きこもっていたり、ただただ街角で一人ひとりにあいさつをし続けたり、歌って踊ったり、活動は様々ですが、みんな4番を「思いついてしまった」人たちです。
映画「立候補」
映画「立候補」 出典: ワードアンドセンテンス合同会社

 

藤岡監督

「撮ってみて、泡沫と言われて1人で戦っている人たちも本気で政治を変えようとしていて、勝とうと思って選挙に出ているんだ、とわかりました」

 

「この映画を見た人が、なにかに挑戦しようとする人を批判して足を引っ張るんじゃなくて、あたたかく見守る気持ちに少しでもなってくれたらいいなと思っています。そういう人が増えれば、選挙だけじゃなく、いろんなことにもっとチャレンジしやすい社会になると思うから」

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