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連載

#4 ざんねんじゃない!マンボウの世界

教えてマンボウ博士! 「3億個の卵→生き残るのは2匹」説はウソ?

岩波ジュニア新書「マンボウのひみつ」と著者の澤井悦郎さん
岩波ジュニア新書「マンボウのひみつ」と著者の澤井悦郎さん

目次

 謎の多い魚「マンボウ」。出版社の編集者が「これまでわからないことが多すぎて書籍化できなかった」というマンボウの一般書が8月、ついに発売されました。9月下旬には、本の刊行を記念したトークイベントも開催。著者であり、11年間マンボウ研究を続けてきた澤井悦郎さんは、マンボウのさまざまな通説を一刀両断。「マンボウって卵を3億個産むってよく聞きますけど、あれも怪しいですよ」。ミステリアスなマンボウの世界、覗いてみませんか?
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マンボウ好き、集まれ!

 8月に発売された「マンボウのひみつ」(岩波ジュニア新書)は、マンボウの体のつくりや、マンボウと人との歴史、研究の経緯などをまとめた本です。岩波書店の担当者は「マンボウはわからないことが多すぎて、これまで書籍化できなかった」といい、著者の澤井悦郎さんも「一般向けの『マンボウの本』というのは今までなかったのでは」と話します。

 9月30日、下北沢の本屋「本屋B&B」で、本の刊行を記念したトークイベントが開催されました。
岩波ジュニア新書『マンボウのひみつ』澤井悦郎著
岩波ジュニア新書『マンボウのひみつ』澤井悦郎著 出典:岩波書店の商品ページ
 会場には、友人同士や家族連れなど、幅広い世代の「マンボウ好き」が集まりました。イベントが始まるまで、参加した人たちに「マンボウの魅力」について聞いたところ、最も多かったのが「見た目」。家族で参加したという6歳の男の子は「ロケットみたいな形が好き」といいます。
「本屋B&B」(東京・世田谷区)で開催されたトークイベントには、20人以上の人が集まった=東京都世田谷区、9月30日、野口みな子撮影
「本屋B&B」(東京・世田谷区)で開催されたトークイベントには、20人以上の人が集まった=東京都世田谷区、9月30日、野口みな子撮影
 イベントに登壇したのは「マンボウのひみつ」の著者であり、2016年まで広島大学でマンボウの研究をしてきた澤井悦郎さん(32)。対談相手は、同じ大学で澤井さんのマンボウ研究の基礎をつくった相良(さがら)恒太郎さん(38)。
澤井悦郎さん(左)と相良恒太郎さん。澤井さんはマンボウをイメージしたお手製の帽子をかぶっていました
澤井悦郎さん(左)と相良恒太郎さん。澤井さんはマンボウをイメージしたお手製の帽子をかぶっていました
 マンボウの貴重な写真などを紹介しながら、マンボウの生態や研究の裏話などが紹介されました。
マンボウの仲間「ヤリマンボウ」の稚魚
マンボウの仲間「ヤリマンボウ」の稚魚 出典: 澤井悦郎さん提供

「3億個を産卵→生き残るのは2匹」はウソ?

 「マンボウは1度に3億個の卵を産むが、実際に成魚になるまで生き残るのは2匹くらい」という話を聞いたことがあるでしょうか。澤井さんは「マンボウの『弱さ』を強調するエピソードのひとつとなっていますが、いくつか間違いがある」と言います。

 澤井さんによると、この通説の元となったのは、イギリスの有名な科学雑誌「Nature」。1921年に発表された論文に「マンボウの卵巣内に3億個以上の小さな未成熟の卵が含まれていることを発見した」という記述があったそうです。
水槽を悠々と泳ぐマンボウ=2006年4月1日撮影
水槽を悠々と泳ぐマンボウ=2006年4月1日撮影 出典: 朝日新聞
 「この数は推定値なのですが、論文にはどのような方法で3億個以上としたかは書かれていません。また卵巣内にはさまざまな発達段階の卵が存在していることがわかってきたため、卵巣内の卵を一度に産むのではなく、複数回に分けて産卵すると考えられています」。

 このため、「1度に3億個の卵を産む」という事実は確認されていません。
トークイベントで語る澤井さん
トークイベントで語る澤井さん
 「生き残れるのは2匹」という説についても、「何匹生き残るかは誰にもわからない」そうです。

 「元となった情報はわかりませんが、『少なくとも雄・雌の2匹が生き残れば、種として存続することができる』という意味から派生したのではと考えています」。

 実際のところ、マンボウの繁殖や産卵についての知見はほとんどありません。「伝言ゲームのように、事実が改変されて伝わっていった」という澤井さんの話に、参加者は聞き入りました。
マンボウの研究をする澤井さん(2007年、岩手県にて)
マンボウの研究をする澤井さん(2007年、岩手県にて) 出典: 澤井悦郎さん提供

ネット上の「最弱伝説」も研究

 インターネット上では「海上でジャンプして着水の衝撃で死ぬ」「海底に潜水して、寒さのあまり死ぬ」など、「死にやすい・弱い生き物」というイメージの噂が広がっていますが、これも実はデマ。マンボウの名誉を守るため、withnewsは、「マンボウ最弱伝説はウソ」という記事を配信しました。
withnewsでもマンボウの名誉を守るため、記事を配信してきた
withnewsでもマンボウの名誉を守るため、記事を配信してきた 出典:withnews『マンボウ最弱伝説はウソ 「ジャンプで衝撃死」「太陽光で死ぬ」』
 幼い頃からマンボウが好きで、インターネットにも興味があったという澤井さんは、マンボウの噂がネット上で広がっていく事象を目の当たりにしていました。「本当は違うのに…」という思いを持っていたと振り返ります。

 「マンボウのひみつ」では、そんな噂のひとつひとつに対して、発生した時期を特定。誤った情報が拡散した原因も考察しています。そして、「最弱伝説」の発端となったとされる「ジャンプして着水の衝撃で死ぬ」についても丁寧に否定しています。
マンボウの「干物」を持つ澤井さん
マンボウの「干物」を持つ澤井さん
 澤井さんは「研究してきた中で、マンボウは『噂』よりもずっと『生命力がある』と感じさせられる場面があった」と話します。

 「ひれを欠損するケガを負っても、生き延びていたマンボウを見たことがあります。また食用に漁獲された大きなマンボウは、船の上である程度解体されるのですが、漁港に戻ってもまだ心臓が動いていた、という場面も目撃しました」。

 「ネット上にあるマンボウの噂はあくまで『噂』です。あまり鵜呑みにしないでほしい」といいます。

マンボウ研究、今は「趣味」

 子どもから大人まで広く認知されているにもかかわらず、マンボウにはまだまだ謎が多く残っています。この理由として相良さんは「研究をする人がほとんどいない」と説明します。

 「例えば、マグロなど一般的によく食べられる魚は需要があるので、養殖をしようと試みるなど、研究されて理解が進みます。これに対して、マンボウは漁業的価値が低く、また重くて調査自体が大変なので、科学的なアプローチがあまりされていません」。
トークイベントの参加者の質問に答える澤井さん
トークイベントの参加者の質問に答える澤井さん
 澤井さんは2015年に広島大学大学院で博士号を取得した後、研究を続ける環境が得られず、順風満帆とは言えない時期を過ごしました。ハローワークに通っていたこともあるといい、現在研究機関で働いていますが、仕事としてマンボウの研究はしていません。

 それでも今年7月に発表された、新種のマンボウ「カクレマンボウ」の発見にも寄与するなど、精力的に活動しています。

 「今はマンボウ研究は『趣味』になっています。マンボウが好きだから続けていますが、安定した収入を得ながら研究ができる環境を常に探しています。マンボウを研究したいという仲間もいると嬉しいですね」と話しています。

マンボウ博士に会いたい人へ

 澤井さんが登壇する「マンボウのひみつ」の刊行記念トークイベントは、11月2日、ジュンク堂書店池袋本店(東京都豊島区)でも開催されます。「マンボウのひみつを知りたい!」という人は足を運んでみてはいかがでしょうか。
「マンボウのひみつ」刊行記念トークイベントの詳細はこちら

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