問題化するAV出演強要の被害。事務所との縁を切った後にも、撮影された映像が家族や知り合いに見られてしまう不安に悩まされる。一連の問題を取材する記者に届いた「一通の告発メール」。体験談を送ってきた20歳の女子学生に会って話を聞くと、親にばれることへの不安や出演のうわさが広まる恥ずかしさから自殺も考えたことがあると打ち明けた。

マネジャーに「死にたくなってます」
女子学生は2016年11月25日、所属したプロダクションのマネジャーに、切羽詰まったLINEを送った。しばらく前から、関東圏の地元で彼女がAVに出演しているという噂が出回るようになっていた。
マネジャー「地元?」
女子学生「高校のふざけたbotにのせられてて。もう」
マネジャー「無視が一番いいよ!スクショもらえる?」
女子学生「親まで行ったらおわりです」
マネジャー「もう少し、情報が欲しいよ」
女子学生「結構スパムしたのでもう消してもらえたかもしれませんが。(卒業高校名)からデビューってかかれてまして」
マネジャー「なるほど。ツイッター?」
女子学生「はい」
マネジャー「見てみる!」
女子学生「しんどいですわあ」
「bot」とは、ロボットが語源で自動的にネット上で発言をする仕組みを指す。女子学生がAVに出たという情報がツイッターで流され、彼女はどうにか拡散を防ごうと動いていた。親に知られるのだけは、何とかしたかった。

家族を巻き込む騒動にはしたくない
女子学生は2016年3月、ファンだった30代のAV男優と会うため都内の山手線主要駅に向かった。2人で話をするはずが、事務所に連れて行かれた。待っていたプロダクション社長と男優らが強引に話を進め、わずか30分で所属することになった。
女子学生は有名になりたい、AV女優をステップに芸能活動をしたいという願望はなかった。複数の男性に囲まれる中で行われたプロダクションでの説得に抵抗できず、AVに出演することになった。それでも、家族を巻き込むような騒動にはしたくなかった。

社長たち「パッケージと実物違う」
プロダクションの社長たちは、一貫して「ばれない」と言い続けた。
「DVDのパッケージ写真は、プロのメイクがつき、プロのカメラマンが撮るんだよ。実物とは、全然違う写真となる。ほら、この女優のこっちの普段の写真と比べなよ。全然違うだろ」
さらにAV女優は多数いて、多くの作品が世の中に出ていることも強調された。
「数本ぐらい出ても、他の人が分かるわけないんだよ。自分から話さない限り平気、平気」「2、3人の男に気づかれて言われたとしても、『知らない。別人だよ』としらを切ればいいそれ以上は追及しようがないんだから」
「認めざるを得ない」
しかし、現実は社長たちが言っていたこととは違った。2016年7月中旬、女子学生は、最初に発売される自分のDVDパッケージを確認した。撮影後には、専門媒体によるインタビューも行われていた。
その翌日、社長にLINEで連絡した。
社長「絶対に認めない事だよ笑」
女子学生「怖いです、、、あれは認めざるおえないほどの、、、、」
社長「もお出てるの?」
女子学生「もうすぐでます。どうしましょう、、怖っ」
社長 「一回打ち合わせするか?」
女子学生「どのような打ち合わせですか、、、ほんとヤバいですよー。泣。インタビューの人もそのままですね~wwみたいに言ってましたもん、、、」
女子学生の懸念は、その後的中したことになる。

引き留められ、なかなか辞められず
辞める話は、その前の6月下旬から切り出していた。社長あてのLINEでの文面は「今いつ辞めようか悩んでいます」と言葉を濁したが、社長の出方をみながらの精いっぱいの表現だった。
この時は、プロダクションから引き留められ、実現できなかった。そうこうしているうちに、次々と撮影が決まっていった。
次に社長に切り出せたのは3カ月後の9月下旬だった。LINEで思いを告げたが、この時はあっさりした反応だった。複数の作品に出演させられ、十分にプロダクションの稼ぎになったことから、この時は引き留められなかったと考えている。
社長「お疲れちゃん、そこは(本名)の自由たよ。何かあったの?」
女子学生「そろそろ辞めようかなと」
社長「(本名)の考えを尊重するよ。ゆっくり考えて決めて下さいよ」

「これで死んだら、しっかり全て書かせていただきます」
女子学生は地元でのAV出演のうわさが広まったことから、2016年11月28日に男性マネジャーに長文のLINEを送っている。
マネジャー「(AV男優)さんは何も騙してないでしょ!(女子学生の本名)ちゃんも興味あったから事務所に来てくれたんだよね。(AV男優)さんは何も関係ないし、せいにしちゃダメだよ」
女子学生「興味なんてありませんでした。ただ(AV男優)さんだけいて(AV男優)さんだけ会えると思っていたしあの人はなにも言わなかった。(同じ手口の被害女性)もそう言っていました。だからやめたんです。(マネジャー名)になにがわかるんですか?当事者がこう言ってるんですよ?」
女子学生「AVは好きかと聞かれてはいと答えて、あいたいと言われて会ったらもうマネージャーがいて、はてなの状態で行ったらもう断るにも断れない状況になっていたことは確かです」
女子学生「わたしがもしこれで死んだとしたら、しっかり全て書かせていただきますしそれなりに対応もしてもらおうと思ってます。(中略)もし、お金を返せと言われるなら返しますから」
文春に接触を試みるも・・・
時間が経過し冷静になるにつれ、被害を世の中に訴えたいと考えるようになった。まず、「文春砲」の異名を持つ「週刊文春」の「文春リークス」のページに、情報提供のメールを送ったという。
反応がなかったことから、今年1月下旬、朝日新聞記者にメールを送った。

だましたAV男優へ「やっていいことでない」
女子学生は自分がだまされたAV男優と接点を持ち、「AVへの流れが作られているのを気づかずにはまっていっちゃう」女性が増え続けているのではないか、と心配している。
彼女はAV業界全体を否定しているわけではなく、「やりたい子で、親も許してくれる家庭ならば別に悪いとは思わない」。それでも30代のAV男優の手口は「やっていいことではない」と真っ向から否定する。

「あまりの恥ずかしさに、自殺すら考える」
社長には「私が自殺をしたら、どう責任を取ってくれるのか。そこまで私を追い込んでいるのを分かっているのか」。男性マネジャーには「こうなるのは分かっていたはずなので、最初に止めて欲しかった」と訴える。
AV男優、プロダクションの社長たちによってAV業界に入ることを断れない状態にされたこと。作品に出演することの意味を落ち着いて考えられない形で承諾させられ、撮られた映像が世の中に今も出回っていること。それらのショックから、精神状態はとても不安定だ。
「時々、あまりの恥ずかしさに自殺すら考えます」
最後の砦(とりで)は、親にばれていないこと。母親はうすうす気づいているかもしれないが、直接切り出してこない。
社会人になるまで頑張り、地元を速やかに離れることに希望を託す。自分の過去を誰も知らない土地で仕事をするつもりだ。

プロダクション側の見解
女子学生の「告発」について、プロダクションの社長、「ピル係」のマネジャーに話を聞いた。
――プロダクションに所属するまでの経緯は?
社長「AVに興味があるということで来ました」
マネジャー「僕が男優さんと仲良くて、その方から紹介を受け、本人が興味があるということで、事務所に来た。年齢も18歳以上であると確認して(連れてきた)」
――AV出演の意思確認は?
マネジャー「喫茶店かどこかで話をしましたね。場所までは分からないのですけど、(プロダクションがある都内主要駅)西口のどこかの喫茶店で、(女子学生、マネジャー、男優の)3人で話しました。喫茶店名は覚えてないですね。結構、モデルさんはいっぱいいますし」
――プロダクションに所属するには契約をするはずだが
社長「それは全部、彼(マネジャー役)が(契約書を)読ませて、そういうことですよと読ませて、納得してもらって書いたと思います」
マネジャー「(出演する作品を撮る)メーカーの方でも、どういうメーカーか話を聞き、本人たちもAVというのを承知しているという契約書と、内容の細かい部分の再度の確認しています」
――女子学生とトラブルになったことは
マネジャー「出演に対しては前向きで、僕の方にも仕事を欲しいと言われていたので、営業をして、仕事を取ってきていた。最後は、いきなりころっと、辞めますということになった」
社長「あれぐらいノリノリで来ている子が、そんな風になるとは思えない」
――女子学生はマネジャーにLINEで騙されたと伝えています。
マネジャー「一番終盤ですよね。辞めてから、がーっと来ましたけど。がーっと言ったのは一番終盤じゃないですか。逆にそれで騙されたと言われても、困るのですけど」
社長「撮影するまでは、結構な時間空いたと思いますよ。どのぐらい空いたかは覚えていないのですけど。その間、考える時間はあると思いますし、辞めるのは自由だし、やりたくない子を撮れるわけない」
情報提供、お待ちしています
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