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ドラクエ目薬、3年かけたヒット舞台裏 スライム型容器に込めた思い

ドラゴンクエストとコラボした「ロートジー」
ドラゴンクエストとコラボした「ロートジー」

目次

 発売後すぐに品薄となり、再販売が決まっている目薬があります。ロート製薬が5月に人気ゲームシリーズ「ドラゴンクエスト」とコラボして限定発売した、スライム型容器の目薬です。ちょうど最新作「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」の発売前のタイミング。しかしこのコラボ、実は3年ごしで進めた悲願だったのだといいます。ロート製薬の担当者に、舞台裏を聞きました。

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キャラではなくストーリーで

 「キャラだけではなく、ストーリーでファンの心をつかめる企画を」

 ロート製薬が3年前にコラボを提案した際、ドラクエの開発元・スクウェア・エニックス(SQEX)が示したのは、ゲームメーカーらしい、そんなハードルでした。

 疲れ目に「ベホマ」、目に涼しい「マヒャド」・・・ロート製薬が最初に提示したのは、ドラクエの呪文になぞらえて目薬「ロートジー」の効能を伝えるアイデアでした。特徴的な四角い容器の形を生かして、表面にドラクエの戦闘画面をプリントする企画も提案しました。

 しかし、SQEXの判断は「もっと大胆なアプローチがほしい」でした。キャラの魅力に頼った「ありきたりなコラボでは満足できない」「シリーズのファンが喜ぶ、これまでにない新しいものを」とも。ドラクエのシリーズ作を約30年にわたり、ヒットさせ続けてきたSQEXのこだわりでした。

ドラゴンクエストとコラボした「ロートジー」
ドラゴンクエストとコラボした「ロートジー」

目薬離れに危機感

 なぜ「ドラクエとコラボ」なのか。背景には、若者の目薬離れへの危機感がありました。

 80~90年代、清涼感の強い目薬が、男子高校生や大学生のあいだで人気に。ところがその後、清涼感のある菓子や洗顔シートなど、気分をリフレッシュできる商品が生活に浸透。ロート製薬の調べでは、スマホによる目疲れは8割以上が感じているものの、40代までの男性の約3割しか日常的に目薬を使う習慣がありません。

 幅広い年齢層に目薬を見直してもらうには・・・行き着いたのが、さまざまな世代に愛されてきた「ドラゴンクエスト」だったといいます。

 しかし担当者は発案当時のことを「コラボ実現に向けたハードルが、極めて高かった」と振り返ります。「キャラだけではなく、ストーリーでファンの心をつかむ」。そのハードルを越える商品は、見えていませんでした。

 両社互いにアイデアを出し合う中。「いっそのこと目薬の容器をスライム型にできないか」、そんなアイデアはSQEXから飛び出しました。

 しかし、ロートジーはスライム型とはかけ離れています。四角い容器の角を丸め、色を青くした試作品もつくりましたが、両社で行き着いた感想は「スライムの形は四角ではないね」。

 既存容器のアレンジではハードルを越えられないーー。ロート製薬がそう覚悟したのは、コラボ検討開始から約1年後のことでした。一つのコラボ商品のために、全く新しい容器を作る。それは多額の投資を必要とする、業界でも異例の決断でした。

医薬品としての一線

 中でも苦労したのが、スライムのツンと尖った形の再現です。

 「フタを外した状態で、尖った形を再現しよう」。ロート製薬はそう考えていましたが、SQEXからは「ファンに楽しんでもらうには、フタを閉めた状態でスライムに見えるようにした方がいい」とアドバイスが。

 実はこれが、目薬としては難題でした。先の尖ったスライムらしさを出すには、フタを極力細くする必要がありました。しかし細いフタは開けにくい。試行錯誤の末、フタの左右に微妙なくぼみをつくり、指が引っかかりやすくする工夫をほどこしました。

 一方で、医薬品としての観点から断念したことも。

 スライムの形に忠実に、尖った部分以外は、前後にもふくらんだ球形にできないか。そんな案も検討しましたが、容器を押しても目薬が出にくくなります。「医薬品として不便になったら本末転倒」。これは医薬品メーカーとして、ロート製薬がこだわったポイントでした。

フタには微妙なくぼみがある。容器は点眼しやすい厚みに
フタには微妙なくぼみがある。容器は点眼しやすい厚みに

「なぜ目薬?」に答える言葉

 課題はもう一つありました。キャッチコピーです。

 なぜ、スライムが目薬にならなくてはいけないのか。その必然性が消費者に伝わる言葉は、SQEXが重要視したストーリーの肝の部分でした。

 検討を重ねた末、見えてきたのが「かいしんの一滴」という言葉でした。主人公たちが通常より威力のある攻撃を放ったとき、ドラクエでは「会心の一撃」と呼びます。

 冒険で最初に出会うことが多いモンスター、スライムが放つ「会心の一撃」。それは実は、目薬のようなヒンヤリした刺激なんじゃないか・・・。

 この着想から、商品を取り巻く世界観が固まりました。パッケージに「かいしんの一滴」の文字をあしらい、イラストも目薬の滴のようにきらめくスライムに。ドラキーやゴーレムなど、ほかのキャラクターは登場しません。

 商品の中で「ストーリー」ができあがっていきました。

説明書にも「かいしんの一滴」の文字
説明書にも「かいしんの一滴」の文字

6万リツイートに手応え

 どれだけ反響があるのかは未知数の中、「異変」があったのは発売前日の5月26日でした。

 ロート製薬の公式ツイッターで「戦闘準備中」とスライム型目薬の写真を投稿、すると普段は多くて1千ほどのリツイートが、一気に6万近くまでふくらんだのです。「当社では前代未聞の出来事でした」


 ネットでの反響通り、約1カ月半を見込んで用意した商品が、2週間でほぼ売り切れ状態になりました。増産の要望が相次いだため、8月17日からの限定再販売が決まっています。

 人気の広まりで特徴的だったのが、購入者が発想を広げて、商品を楽しんでくれたことだったといいます。

 ツイッターでは「攻撃力、半端なーい」「うちの職場にも生息してる」とドラクエになぞらえたコメントや、スライム型の容器を観光地などに置いて楽しんでいる写真が次々と投稿されたのです。

 商品に込めたストーリーが広がり、話題を呼んでいく。担当者は「2社の連携技だからこそ放てた、会心の一撃です」と振り返ります。ゲームと医薬品。それぞれのメーカーの想いとこだわりが生んだ、ヒットでした。

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