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IT・科学

まとめサイト、盗用賠償までの「険しい道」 確かな証拠送っても…

LINEから、写真家の有賀正博さんに届いたメール
LINEから、写真家の有賀正博さんに届いたメール

目次

 記事を自由に投稿できる「まとめサイト」で写真などを無断転載された被害者が、損害賠償を勝ち取るケースが相次いでいます。ただ、その交渉をたどると、険しい道のりです。

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「被害者軽視」と実感

 写真家の有賀正博さんは3月、まとめサイト「NAVERまとめ」の運営会社LINEから、作品を無断転載した投稿者の情報開示を受けることに成功しました。投稿者に損害賠償として写真1点に対して約6万円を請求。すぐに振り込まれました。

 有賀さんは取材に対し、「交渉を進める中で、いかに被害者の主張が軽視されてきたかを実感しました」と話します。

 ポルトガルで撮影した風景写真の無断転載を発見したのは、昨年10月でした。すぐLINEに抗議して画像は削除されましたが、投稿者に損害賠償を求めるには、LINEから連絡先などの情報開示を受ける必要があります。

 有賀さんは、盗用された写真が自分の作品であることを証明するため、LINEに作品の詳細な撮影データを送るとともに、同じ場所で撮った前後のコマまで提出。「世界的な写真誌にも通用する証拠を送った」と振り返ります。

 しかしLINEからの回答は「ご連絡のあった情報により『権利が侵害されたことが明らか』であると判断できません」と、開示を拒否するものでした。

有賀さんの作品(左)と、盗用されたNAVERまとめのページ(右)
有賀さんの作品(左)と、盗用されたNAVERまとめのページ(右)

「投稿、もうやめます」

 ところが昨年12月、風向きが変わります。

 こうした開示姿勢への社会的批判が高まり、LINEが方針転換を打ち出したのです。その内容は、投稿者の情報を「本人の同意が得られなかった場合においても(中略)、開示を行うよう運用を改善しております」というものでした。

 この動きを見て、今年2月に有賀さんは再び開示を請求。1カ月たった3月下旬に、投稿者のメールアドレスやIPアドレスの開示書類が郵送されてきました。

 投稿者は多数のまとめ記事を手がけ、月間200万PVもの閲覧数を稼いでいる人物でした。有賀さんが、大手画像販売サイトの料金をもとに約6万円を請求すると、返信メールには後悔の言葉が並んでいました。「家族にしかられた。もうまとめ記事を書くのはやめます」。

 実際、記事の投稿は途絶えました。

有賀さんに届いた、開示書類(画像を一部加工しています)
有賀さんに届いた、開示書類(画像を一部加工しています)

 無断転載に気づいてから賠償まで、実に半年かかりました。残ったのは「LINEは被害者の権利を守る運用をしているのか」という煮え切らない思いだったといいます。

 そもそも昨年秋の段階で証拠をそろえたのに、なぜ開示されなかったのか。「『権利が侵害されたことが明らか』であると判断できません」としか知らされていない有賀さんは、LINEにメールで詳しく尋ねることにしました。

 回答は、手間をかけて証拠をそろえた立場からは、納得のいかないものでした。

「不開示としたのは、(投稿者から)不同意の連絡があったためです」

「開示には、発信者本人の同意を得ることを原則としておりました」

「(投稿者が)不同意であることは、権利侵害が『明らか』であることを否定する重要な要素であり、これを覆して権利侵害が『明らか』であると言い切る判断を、弊社独自ですることは、とても難しいことでございます」

LINEから有賀さんに届いたメール
LINEから有賀さんに届いたメール

「賠償責任への覚悟を」

 LINEは、昨年までのこうした運用の理由を、公式サイトでも「著作権者の権利を守ることと同様、発信者のプライバシーを保護し個人情報を適切に管理することも我々の責務」と説明しています。

 一方、有賀さんは「これでは被害者がどれだけ確かな証拠を出しても、開示を受けられない。投稿者が法律を知らなかったり、損害賠償を恐れたりして開示を拒否すれば、それが認められてしまう運用だった」と指摘します。

 実際に、有賀さんは損害賠償を求めた投稿者に、なぜ開示を拒否したのか聞いてみました。返答は、やはり法律を誤解したものでした。

「(有賀さんの写真を)『引用』として使用していますということで拒否しました。当時はそう思っておりましたので」

 著作権法は他人の著作物の「引用」を認めていますが、それには厳しい条件が定められています。

 有賀さんは「NAVERまとめは、法律違反の責任をすべて投稿者が負う仕組みです。それでも運用で投稿者は守られてきましたが、社会的批判を受け、変わらざるを得なくなった。今後、まとめ記事を投稿する際は、賠償責任への覚悟が必要になるでしょう」と指摘します。

 有賀さんのように開示を受けたケースはどれだけあるのでしょうか。LINEは取材に「具体的な件数については回答を控えさせて頂いておりますが、運用改善後の新基準において慎重に検討した結果、妥当と判断され、開示に至ったケースはございます」としています。

「許せない」気持ちで交渉

 一方、粘り強い交渉をして、運営会社に賠償を認めさせた人もいます。

 旅行ブログを運営している20代女性は今春、まとめサイトの運営会社から計15万円の損害賠償の支払いを受けました。無断転載された写真は5枚で、1枚あたり3万円の賠償です。

 女性は昨年12月から、無断転載をされた複数のサイトに抗議してきました。しかし画像は削除されても、「損害賠償には応じるサイトがありませんでした。しかし抗議されて削除するだけで済むなら、無断転載は減りません。私はどうしても許せなかったので、弁護士に依頼して請求をお願いしました」。

 弁護士に手がけてもらったのは、運営会社に内容証明を送ることだけですが「個人で送るのと、弁護士名義で送るのでは効果が全く違った」といいます。

 「今までは何ヶ月も放置されていたメールの返信も1週間ほどで返ってきました。相手企業も弁護士を立てると交渉が多少長引きましたが、自分が著作権者だという確固たる証拠があったので、最後には支払って頂きました」

 女性はアマチュアなので、もともとは写真の使用料を決めていません。そのためプロ写真家が加盟する「日本写真家ユニオン」が定めた一般的な料金表をもとに賠償額を主張しました。

日本写真家ユニオンが定める使用料規定
日本写真家ユニオンが定める使用料規定 出典:日本写真家ユニオン公式サイト

 受け取った賠償は、弁護士代でほとんど消えましたが後悔はしていないといいます。たとえば、運営サイトが社会問題化したIT大手DeNAは、無断転載1枚につき1000円の迷惑料支払いを提案しています。しかし、運営会社が一方的に決めた金額が、「相場」になってはいけないと女性は考えています。

 「無断転載をすれば1枚数万円の金額を請求される。このことを多くの企業や投稿者に知ってもらいたい。それに、転載された側がここまでの時間や労力をかけなくてもよい制度も、整えて欲しいですね」

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