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妄想スクラップ職人、ネットで注目 レシートも有村架純も貼り尽くす
自分の頭の中をスクラップブックの上で形にする「妄想スクラップ職人」が、福岡市にいる。レシートから箸袋まで何でもスクラップ。だんだんとエスカレートして、交通違反切符に「ヤッター!」と喜ぶレベルに。ネットに掲載した「作品」が注目され、アウトサイダーアートの作者としてテレビやトークショーに出るようにまでなりました。
遠藤文裕さん(44)は福岡市在住で、ディスカウントストアのチラシなどをデザインしている会社員です。社会人になって始めたスクラップブックはいま8冊目。年に1冊のペースで増え続けています。200ページあるノートは貼り付けた切り抜きでふくれあがり、厚さ7センチほどになっています。
とにかく、スクラップブックを充実させることに心血をそそぎます。カフェでは必ず「レシートをもらってもいいですか?」。食事に行くと箸袋をそそくさと財布の中へ。しまいには交通違反の切符を切られたのに、「ヤッター!スクラップの素材が増えた!」。
自身の暮らしの一部を切り取るはずが、切り取るために生活する本末転倒な日々を送っています。
「始めは自分のネタ帳じゃないですけど、旅行を記録するためのスクラップみたいな感じでした」
美術館巡りが趣味の遠藤さんは、美術館のパンフレットをノートに貼り、脇に自分の感想を書き込みました。その行為が次第にエスカレートし、フライヤー、レシートなど自身の足跡を示す紙媒体をスクラップし始めました。
このスクラップブックに目をつけたのが、アウトサイダーアートを取り扱うクシノテラス(広島県福山市)をつくった櫛野展正(くしの・のぶまさ)さん。櫛野さんが昨年12月にネットで〝作品〟を紹介すると、遠藤さんは一躍、時の人に。
テレビに出演し、トークショーを開き、サインを求められるまでになりました。
櫛野さんによると、このスクラップも色々な素材を貼り付ける「コラージュ」という現代美術のひとつ。日本では、瀬戸内国際芸術祭に多数出展している大竹伸朗さんが有名です。
櫛野さんは遠藤さんの作品を「自分の経験したもの、見たものだけを集めているのが美術的に見てもすごい。さらに、これを誰に見せるつもりもなくやっていたというところが、面白い」と評しています。
「前は美術館に行く途中に借りたエッチなDVDのレシートや、源泉徴収なんかも貼ってましたが、いまは他の人に見られることが前提なので、恥ずかしいものは省いています」
あり得ない組み合わせも、スクラップブックの上では可能。そこが面白いと言います。
たとえば、映画「ビリギャル」。
「この映画を見た後に、尾形光琳の『燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)』を見たんです。『ビリギャル』の有村架純さんたちが真剣に演技している背景に燕子花図屛風……なんか面白いでしょう」
組み合わせの妙はスクラップしながら考える。「~とかけて、~ととく」という謎かけの要領だ。
なぜ、こんなことをするのでしょう。
「ネットで見たものって、すぐ忘れちゃうじゃないですか。手を動かして血肉にするというか。紙の手触りとか好きなんですよね。画像は1万字に勝るともいいますが、そんな感じです。自分の頭の中を記録するイメージです」
週末はほとんど美術館を巡って過ごす。家のブレーカーを落として外出するので、月の電気代は1千円に満たないという。
「スクラップ素材がたまって大変です。早くやらないと。新聞もとってあるので、(アメリカの次期大統領の)トランプさんの記事と僕の妄想をどう組み合わせるのかが楽しみ」
さて、そんな「妄想スクラップ職人」の遠藤さんの夢は?
「素人が勘違いして!って思われるのも危険なので、多くは望まないのですが……。地元・仙台の地方紙である河北新報に連載したいですね。仙台市民の心をわしづかみにする小説の草稿はもうできているので」
妄想を形にする「スクラップ職人」。この妄想も現実になるのでしょうか?
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