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〝感動ポルノ〟求める社会って?バリバラ大橋さんが伝えたかったこと

「バリバラ」に出演した大橋グレース愛喜恵さん
「バリバラ」に出演した大橋グレース愛喜恵さん

目次

 障害者の姿をメディアが意図的に感動させようと描くのは「感動ポルノ」では――。8月末に放送されたNHKの番組が、そんな疑問を投げかけました。その出演者のひとりが、難病で車椅子生活を送る大橋グレース愛喜恵さん。熱戦が続いたリオデジャネイロ・パラリンピックの閉幕を前に、大橋さんの真意を考えてみました。(朝日新聞社会部記者・佐藤恵子)

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感動させるための道具じゃない

 NHKのEテレが8月28日夜、情報バラエティー「バリバラ」を生放送しました。「検証!〈障害者×感動〉の方程式」と題して、出演者が議論。感動をかき立てる道具として障害者が使われることを「感動ポルノ」と呼びました。

NHKのEテレが放送した「バリバラ」の一場面。大橋グレース愛喜恵さん(左端)も出演した
NHKのEテレが放送した「バリバラ」の一場面。大橋グレース愛喜恵さん(左端)も出演した 出典:朝日新聞

 同じ時間帯に、チャリティー番組「24時間テレビ39『愛は地球を救う』」(日本テレビ系列)がフィナーレを迎えていたこともあり、ネット上で「バリバラが24時間テレビにけんかを売っている」と話題に。

 大橋さんはこう振り返ります。「1年で最も多くの人が障害のことを考える日。その日に、メディアによる障害者の取り上げ方を問題提起したかったんです」

 「障害者のありのままの姿を描き、思いを伝える。その結果、見た人が感動するならいいんです。でも意図的に感動させようと、作り手がやらせや編集を加えたら感動ポルノになります。障害者を商売の道具にして、感動や勇気を誘うようなものです」

「困難」を「前向きに」「乗り越える」姿

 バリバラでは一般的な感動ポルノの例として、大橋さんを主人公にした疑似ドキュメンタリーも紹介しました。

大橋グレース愛喜恵さん
大橋グレース愛喜恵さん

 大橋さんは多発性硬化症という難病で、胸から下はほとんど動かず、両目もほぼ見えません。食べ物をうまく飲み込めない障害もあり、1日3食のうち2食は、腹部に穴を開け、管で栄養剤や医薬品を入れる「胃ろう」です。

 そんな大橋さんを、困難な状況でも周囲の支えで乗り越えて前向きに生きる姿に描くために、本人の本音や事実をそぎ落とす制作過程を例示した疑似ドキュメンタリーでした。

 たとえば、胃ろうが紹介された場面です。スタッフが「大変ですよね」と語りかけると、「意外と食べる手間、作る手間も省けるのでそんなことないです」と大橋さん。でも、その大橋さんの言葉は放送されず――。

車いすバスケットボールのリオデジャネイロ・パラリンピック予選。日本代表チームに多くの観客が声援を送った=2015年10月11日、千葉市、井手さゆり撮影
車いすバスケットボールのリオデジャネイロ・パラリンピック予選。日本代表チームに多くの観客が声援を送った=2015年10月11日、千葉市、井手さゆり撮影 出典: 朝日新聞

 「メディアの障害者の取り上げ方の多くが、感動ポルノ的になるのは、それを社会が求めているからだと思います。健常者の方は障害者を見て、こう思ったことはありませんか。『こんなかわいそうな人がいるんだ』『自分は五体満足で生まれて幸せだな』。そう感じてしまう意識が、感動ポルノを生み出し、社会に差別や壁をもたらしているのでは」

「彼氏とイチャつくし、笑いも取りたい」

 大橋さんはバリバラに生出演する一方で、24時間テレビにも登場しました。パンストを頭からかぶって変な顔をする「パンスト相撲」など、体を張った芸も披露しました。

 「みなさんが抱く障害者像を変えたかったんです。メディアは障害者をがんばる人やかわいそうな人として描くことが多いけど、障害は不幸でも、かわいそうなものでもない。障害者の中にも悪い人もいれば、良い人もいる。恋もするし、お笑い好きもいます。私だってそう。彼氏とイチャイチャするし、笑いも取りたい。健常者と同じです」

東京パラリンピックに向けて、障害者スポーツの魅力を伝えるイベント。会場には車いすバスケの体験ブースも=2016年5月2日午後、東京都中央区、越田省吾撮影
東京パラリンピックに向けて、障害者スポーツの魅力を伝えるイベント。会場には車いすバスケの体験ブースも=2016年5月2日午後、東京都中央区、越田省吾撮影 出典: 朝日新聞

 障害という困難に見舞われながらも、乗り越えて……。そんなトーンで障害者を紹介する記事や番組を挙げながら、大橋さんはこう言います。

 「障害は『困難』ではありません。でも、障害のある子のお母さんが『丈夫な子に産めなくてごめんね』と思うことがありますよね。お母さんは悪くないのに罪悪感を感じてしまう。それは、障害をよしとしない社会があるからでは」

 「伝えるべきは障害を『困難』と捉え、乗り越える姿ではない。障害があってもなくても、誰もが生きていける社会に向けてどうすべきか。その視点を提供することではないでしょうか。そんな風にメディアが伝えていくと、見る側の障害者像も変わっていくんだと思います」

この記事は9月17日朝日新聞夕刊(一部地域18日朝刊)ココハツ面と連動して配信しました。

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