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2016年01月20日

「一発屋」髭男爵のお正月 自分のいない特番、蘇る引きこもりの記憶

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「新春お笑いステージ」でギャグを披露する髭男爵

「新春お笑いステージ」でギャグを披露する髭男爵

出典: サンミュージック提供

 「正月は、連日テレビで忙しい・・・“出る”方でなく、“見る”方だが」。自分が出ていない特番を「自己否定の連続」と思いながら眺めた「一発屋」芸人、髭男爵の山田ルイ53世さん。ふとよみがえる、引きこもりだった少年時代の記憶。分泌される自尊心と戦いながら過ごす、一発屋芸人の正月とは?


「問題VTR」ロケでの再会

数年前。
一月か二月だっただろうか。
霜柱が立つほどの、厳しい冷え込みに見舞われたその日、都内のとある公園でロケが行われた。

クイズ番組の“問題VTR”の撮影と聞いていたのだが、特番ということもあって、随分と大がかりである。
十人を越えるエキストラ、そして我々、髭男爵を含む、お笑い芸人が数組。
大御所の女優の方や、当時、人気急上昇中の若手俳優もキャスティングされていた。
豪華である。

その若手俳優の彼と僕とは、実はすでに面識があった。

毎年、五人の若者が抜擢され、巨大な悪と闘う、子供達に大人気の戦隊もの。
彼とは、その特撮ドラマで、一年間に渡って共演していたのである。
五人には、それぞれ“色”が振り分けられており、彼は赤・・・“レッド”である。
「若手俳優の登竜門」とも言われるその番組において、彼は中心的存在でもあった。
僕はと言えば、彼ら五人を温かく見守る“博士”という役所。

“レッド”と“博士”の久しぶりの再会。
“戦隊”からこの日まで、充実した日々を過ごしてきたのだろう。
以前より、自信に満ちた表情をしている。
目が合うと、彼は少しはにかみ、「お久しぶりです!」といった様子で、会釈をした。
相変わらず、爽やかである。

まるで田舎の道路脇で売られている中古車

本番。
彼が演じるのは刑事。現場を検証し、推理を展開していく。
僕は、ただ黙って、目を閉じ、成長した、彼の芝居に耳を傾けていた。
別に久しぶりの再会を噛みしめていたわけでもない。
そうするしかなかったのだ。
僕の役は・・・”死体”だった。
死人に口無し。
歳月は、“レッド”を“刑事”に、“博士”を“死体”へと変えた。

僕の死因を推理する、彼の台詞をBGMに、地べたに横たわる。
列島が、大寒波に襲われたその日。
体温は刻一刻と、本物の死体のそれへと近付いていく。
耐え切れず、小さく身じろぎした僕の体の下、サクッと小さな音を立て霜柱が崩れた。

ちなみに、その“殺人現場”には、かつて、“ゆってぃ”とか“波田陽区”と呼ばれた男達の亡骸も並んでいた。
田舎の道路脇で、野晒しで売られている薄汚れた中古車。
いつからそこに並んでいるのか、いつになったら売れるのか・・・誰にも分からない。

国道沿いに並ぶ中古車=富山県内、2004年3月23日

国道沿いに並ぶ中古車=富山県内、2004年3月23日

出典: 朝日新聞

“一発屋”にも新年はやってくる

2016年、新しい年が幕を開けた。
“死体”・・・もとい、“一発屋”にも新年はやってくる。

年明け早々、いくつかの地方営業をこなす。
仕事があるのはありがたい。
例えそれが、知名度の貯金を少しずつ切り崩して生活する、老後のような毎日だとしても。
そろそろ、その“残高”も心許ないが。

世間の大部分の人々にとって、おめでたいはずのお正月。
しかし、“一発屋”にとっては、必ずしもそうではない。
世間に充満する、その“おめでたい雰囲気”に、足湯ほども浸かれない。
理由は明快である。一度“売れて”、今現在、“売れてない”からだ。

「ルネッサ~ンス!」のギャグを披露する髭男爵

「ルネッサ~ンス!」のギャグを披露する髭男爵

出典: サンミュージック提供

親子の絆を脅かすテレビ鑑賞

正月は、連日テレビで忙しい・・・“出る”方でなく、“見る”方だが。

仕事以外は、初詣にも行かず、ひたすらテレビを眺めることに費やす。

以前、家族でテレビを見ている時、僕の横に陣取っていた娘が、興奮して「パパー!」と画面を指さした。
「あれ?今日、何かテレビ出てたかな?」
画面を見やると、そこには、“ケンドーコバヤシさん”が映っていた。
以来、僕は、家族とテレビを見なくなった。
売れてないことの弊害は、父と子の絆にまで及ぶ。

しかし、年末年始は例年、妻は娘を連れて実家に戻るため、家には自分一人。
唐突に“親権”を失う心配もない。

ケンドーコバヤシさん

ケンドーコバヤシさん

出典: 朝日新聞

いつもにも増して自分が出ていないテレビ

この時期は、各局、力の入った、勝負の“特番”が目白押しである。
出演者は、“売れっ子”、“旬な人”、そして、これからの”新しい人”・・・概ね、この三種類に限定される。

スタジオには、お正月ならではの、絢爛豪華なセット。
そこに、なみなみと、惜しげもなく注がれた“売れっ子”達。
お茶の間の人々は、その、今にもこぼれそうな“売れっ子”達を、「おっとっとっと!」と、口からお出迎えして飲み干す。
“一発屋”などお呼びではない。

いつもにも増して自分が出てもいないテレビを視聴するのは、自己否定の連続。
懲罰房に放り込まれたような心境であるが、仕方がない。
“この世界”において、“売れてない”ことは、明確に“罪”であり、“詰み”なのだ。

「売れている芸能人」の殿堂、NHK紅白歌合戦。総合司会の有働由美子さん、紅組司会の綾瀬はるかさん、総合司会の黒柳徹子さん(前列左から)=2015年12月31日

「売れている芸能人」の殿堂、NHK紅白歌合戦。総合司会の有働由美子さん、紅組司会の綾瀬はるかさん、総合司会の黒柳徹子さん(前列左から)=2015年12月31日

出典: 朝日新聞

どれだけ落ちぶれても、分泌される自尊心

結果、自尊心はサンドバッグ状態である。
こんな“一発屋”のコスプレキャラ芸人が、自尊心を口にするのは、滑稽かもしれない。
しかし、この自尊心、プライドというヤツは厄介で、こちらの意思とは無関係に、日々“分泌”される。
“体温”、“息”、“汗”・・・生きている限り付きまとう、泥臭い“代謝”や“反射”の類(たぐい)。
磁石にまとわりついた“砂鉄”。
どれだけ“落ちぶれ”ようがなかなか拭い切れはしない。

当の“売れっ子”達が、正月休みで、ハワイにでも行っている中、こちらは、居残り勉強でテレビを見る。
地方の予備校で、浪人生となり、サテライト授業を受けているような錯覚。
サンドバッグ”は遂に破れ、その中身がサラサラとこぼれ落ちる。

髭男爵の山田ルイ53世さんの仕事道具

髭男爵の山田ルイ53世さんの仕事道具

出典: サンミュージック提供

かつて、そこに自分は存在したんだという証拠

「ルネッサーンス!」、「髭男爵!」
テレビから何かの拍子に聞こえてくる、自分の“カケラ”。
正月はその“めでたさ”ゆえに、“乾杯”をする機会も多い。
“売れっ子”の誰かが、言及してくれたのか。
テレビ画面の下に、“ポンッ”と、出てくる、我々の写真やイラスト。
ふと気が付くと、それを指折り数え始める自分がいる。
情けない・・・が、嬉しくもある。それがまた情けない。

砂漠の発掘現場。
かつて、確かに、テレビの中、そこに自分は存在したんだという証拠。
生きながら“化石”となった自分を発掘すべく、地面に這いつくばり、小さな刷毛で丁寧に、一枚一枚地面を剥いでいく。
出土するのは、“足跡”や“骨”の一部分ばかりだが。

台本に書かれた「正月の縁起物、髭男爵です!どうぞ!」の文字

台本に書かれた「正月の縁起物、髭男爵です!どうぞ!」の文字

出典: サンミュージック提供

呼び起こされる、悲しき“日課”

そうやって、お正月、日がな一日テレビを眺めていると蘇る記憶がある。

中学二年の夏、僕は“引きこもり”になった。
二十歳までの約六年間である。

中学生時代の山田ルイ53世さん。受験競争を勝ち抜き進学校に入学するも、引きこもりに…

中学生時代の山田ルイ53世さん。受験競争を勝ち抜き進学校に入学するも、引きこもりに…

出典: サンミュージック提供

通りに面した、自分の部屋の窓を細く開け、その隙間から、外界を観察する。
近所の顔見知りや、小学校時代に仲の良かった友達が通りかかると、
「ああ、あいつ真っ黒に日焼けして!部活頑張ってるのかな?」
「うわっ、あの子えらい背伸びたな~!!」
悲しき“日課”。

あれから、二十年以上の時が流れ、今や、あの“窓”が、“自宅のテレビ”となった。
またこの“マス目”か・・・人生という名の双六。
これがなかなか難しいのである。

     ◇
やまだ・るい53せい 本名・山田順三。兵庫県出身。相方のひぐち君と結成したお笑いコンビ「髭男爵」でブレーク。ワイングラスを掲げ「ルネッサ~ンス!」という持ちギャグで知られる。2015年8月、真の一発屋芸人を決定する「第1回 一発屋オールスターズ選抜総選挙 2015」で最多得票を集め、初代王者に選ばれた。自身の経験をまとめた『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)を出版。ラジオ番組「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」(文化放送)などに出演中。


一発屋芸人、今も地道に活躍中 HG・テツトモ・ダンディ…
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