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コラム

髭男爵が語る「一発屋」の立ち位置「最高月収ネタ」「明日いける?」

埋まらないスケジュール・「最高月収」ネタ……。「一発屋」山田ルイ53世さんが見た、酸っぱくて甘い芸能界の日常とは?

持ちネタ「ルネッサーンス」で盛り上げる髭男爵の2人
持ちネタ「ルネッサーンス」で盛り上げる髭男爵の2人

目次

 浮き沈みの激しい芸能界。一発屋と呼ばれながらも、一発屋という肩書自体で独自の立ち位置を獲得した芸人がいます。「ルネッサーンス」のかけ声で有名な「髭男爵」もその一人です。埋まらないスケジュール・「最高月収」ネタ……。「一発屋」山田ルイ53世さんが見た、酸っぱくて甘い芸能界の日常について寄稿してもらいました。

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【髭男爵の一発屋漂流記1】旬ではないもの代表「月収ネタ」「明日いける?」
【髭男爵の一発屋漂流記2】芸人たちのプライド SNSに心ざわめき地方営業へ
【髭男爵の一発屋漂流記3】自分のいない特番眺める正月、蘇る引きこもりの日々
【髭男爵の一発屋漂流記4】弁当なし・楽屋がトイレ…ドッキリな日常
「一発屋」を自称する山田ルイ53世さん
「一発屋」を自称する山田ルイ53世さん

「恥ずかしいからやめてよ」

二、三年前のこと。
下北沢のおでん屋にて、僕と知人で酒を酌み交わしていると、店員に案内された一組のカップルが隣のテーブルに座った。
二人とも二十代半ばといったところか。

聞こえてくる会話は、他愛のないくだらないものばかりだったが、大いに盛り上がっている。微笑ましい。
何か良いことでもあったのか、男の方が上機嫌で、彼の恋人に向かって、一杯目のビールのジョッキを掲げながら、「ルネッサーンス!!」と叫んだ。
我々、“髭男爵”の“往年の”フレーズである。
人一倍、自意識過剰な僕が言うのだから間違いない。彼は、こちらには気付いていなかった。
よって、彼の自発的な「ルネッサーンス!!」だったと断言できる。

「ルネッサーンス」のかけ声が思わぬ事態に…
「ルネッサーンス」のかけ声が思わぬ事態に… 出典:pixta

「まだやってくれているのか・・・」驚き半分、嬉しさ半分。
が、次の瞬間、
「ちょっと!そんな古いやつ、恥ずかしいからやめてよ!!」
彼女に強く嗜められ、意気消沈する彼氏。

気まずい空気が流れた・・・主に我々のテーブルにだが。
僕は、周囲にばれないよう、そっと席を立ち、会計を済まし、店を出た。
その“恥ずかしい”やつで稼いだお金で。

“旬ではないもの”代表

「一発屋」と呼ばれることが多い。
我々“一発屋”には、「一発屋仕事」と呼ぶしかないような仕事が少なからず舞い込んでくる。
求人情報誌のページを何枚めくっても載っていないカテゴリーの仕事である。

例えば、“旬な食材”を紹介する企画で、“旬ではないもの”の代表として何組か集められたり。
街頭インタビューを行い、我々のことを覚えている人が現れるまで帰宅出来なかったり。
「一発当てた」ということにひっかけてだろう、競艇場や競輪場、パチンコ店のイベントに招かれたりもする。
自分でも知らないうちに、“茶柱”や“四葉のクローバー”あたりと、肩を並べる縁起物になっていた。

スケジュールに余裕があるため、急な依頼にも対応可能である。
当然のことだが、番組作りの会議では、“売れっ子”や、“今旬な人”優先で名前が挙がっていく。
よほどその企画の趣旨と合致していない限り、我々の順番など遥か後、いや、そもそも彼らの脳味噌にノミネートすらされていない。


「明日いけますか?」

しかしである。

“売れっ子”は多忙、スケジュールは“真っ黒”である。
こいつも、そいつも、あいつも厳しい・・・そんなとき、こちらにもお鉢が回ってくる。
最後の最後まで、「より“売れっ子”を!」と粘りに粘った末のオファー。
タイミングはギリギリになりがちだ。

実際、「明日いけますか?」といった前日のオファーも結構ある。
“マラドーナの伝説の五人抜き”どころの話ではない。華麗なドリブルで、数々の“売れっ子達”をかわしにかわし、僕の元へと辿り着いた仕事である。
ありがたい。

しかし、いざ現場に赴くと、よほどバタバタしていたのだろう、“本命”の痕跡が台本に残っていたりすることも極稀にだがある。
そんな時、「本当は、“この人達”と仕事するのを楽しみにしてたんやろな~・・・さぞ、がっかりしていることだろう・・・」と、何か“申し訳ない”気持ちが先立ってしまうのである。勿論、そんな悠長なことを言っていられる立場でもない。
結果、頑張るだけなのだが、向いていない。


かつての収入を自ら暴露

「“最高月収”を言う」という仕事もある。
これは、文字通り、我々一発屋と呼ばれるジャンルの若手芸人が、その最も“売れていた”時期の月収、つまり“ギャラ”を発表するというものだ。

ある時期、この手の“求人”が殺到し、結果、数多くのテレビ番組で、一発屋達が、かつての収入を自ら暴露するという、なんとも下衆な場面が頻繁に見受けられた。

「当時の最高月収は・・・・○○万円です!!」
発表すると、居並ぶ“一発屋ではない”、つまりその番組の“レギュラー”の出演者が、
「え―――――――――!!!」と、驚愕の声をあげる。

いやいやいやである。
勿論、みなさん、それぞれの“役割”として“リアクション”しておられるに過ぎない。そんなことは重々承知している。本来、我々を“おいしく”するためにやってくれていることなのだ。

控室で出番を待つ衣装
控室で出番を待つ衣装

「そっちの方が稼いでるやろ」

それでも心のどこかで思ってしまうのである。
「そっちの方が山ほど稼いでるやろ!!」

あくまで僕の勝手な憶測に過ぎないが、そういう人達の方が、むしろ、当時の我々の“最高”などより“もっと”、そして、“ずっと”、さらには“今まさに”、そしておそらくは“これから先も”、何年にも渡って稼ぐはずである。
「え―――!!!」はこちらの台詞なのだ。

こんなことを思う時点で、やはり向いてない。
大体、この手の企画は、この後、今現在の月収を発表し、その落差、落ちぶれ具合を堪能していただくという流れを経て、幕を閉じる。

「十八万は貰いすぎだ!」

以前、とある映画のPRイベントに出演した際も、取材に来た記者の方々と同様のやりとりがなされた。
“落ちぶれた現状”を聞かれた相方が、
「僕なんか先月十八万円でしたよ~!」
と言い放つ。

彼なりに“自虐的な線”を狙ったのだろうが、
「一発屋のくせに十八万は貰いすぎだ!」と、彼の意図に反して、極一部からSNS等で突っ込まれることとなった。
どうやら、その極一部の人間にとっては、我々などは、全てを失っていないと納得がいかないようである。

この話が一層悲しみを帯びるのは、実際には、“彼の先月”は十七万円だったらしく、彼は一万円分見栄を張っていたということである。
その上乗せされた一万円で、彼が自分の心の何を守ろうとしたのか、それを“プライド”と呼んでいいのか、それは僕にも分からないが。


救助のヘリを待ちながら…

とにかく、順風満帆だった航海で、嵐に巻き込まれ、流れ着いた無人島。
その絶海の孤島で、いつ来るとも知れない救助のヘリ、沖を通りかかる船を待ち焦がれながら、ただひたすら、“糸”のようなかぼそい狼煙を上げ続けているような毎日。

あるいは、「走れメロス」のセリヌンティウスの心境と言ってもいい。信じて待つ。
ただ、メロスは三日で駆けつけてくれたが、こちらはもうかれこれ何年待っているのか・・・そういう意味では、本当はとっくに処刑されているのかもしれないが。
     ◇
やまだ・るい53せい 本名・山田順三。兵庫県出身。相方のひぐち君と結成したお笑いコンビ「髭男爵」でブレーク。ワイングラスを掲げ「ルネッサ~ンス!」という持ちギャグで知られる。2015年8月、真の一発屋芸人を決定する「第1回 一発屋オールスターズ選抜総選挙 2015」で最多得票を集め、初代王者に選ばれた。自身の経験をまとめた『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)を出版。ラジオ番組「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」(文化放送)などに出演中。


【動画】ひきこもりの経験を語る山田さん
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